打当マタギ、比立内マタギ、根子マタギ。北秋田市阿仁の各集落には、それぞれのマタギ文化があって、ほとんど交流もなかったといいますが、近年では一緒に山での猟も行っています。
阿仁の根子に生まれ育った佐藤歩さんは、今年、マタギになることを決意した25歳。打当マタギの鈴木英雄さんとは、林業のお仕事で同僚だったこともあるそうです。なお、秋のクマの猟期は11月15日から。マタギとして狩猟免許、銃砲免許を取得した歩さんですが、鉄砲をかついでの猟デビューはまだ未体験。ほやほやの新人マタギ、歩さんの話です。
鈴木英雄さんの家系もそうでしたけど、佐藤歩さんも代々、マタギの家系だとか。
- 佐藤
- ヒイジイさんのあたりまでは代々だって聞きました。ただ、ジイさんが婿で来た関係で、マタギをやるかどうかでヒイジイさんと揉めたらしくて、ジイさんは「やらない!」と。それで、ジイさんとうちのオヤジはマタギにならなかったから、マタギとしては2代の間、途絶えてしまいました。
佐藤さんがマタギになろうというキッカケが何かあったんですか。
- 佐藤
- いやァ、全然興味なかったんですけどね。森林組合の仕事をしてるから、毎日、山へ入ってて、休みの日まで山に行きたくないって思ってたんで。だけど、だんだん仕事に慣れてくると山が身近に感じられて、周りの人にも声かけてもらったから、やってみようかなって。
- 鈴木
- やっぱり血が騒いできたんだよ(笑)。
- 佐藤
- だすね。英雄さんみたいなマタギを長年やってきた方もいますけど、根子には自分とそこまで歳が変わらない若いマタギもいて。やりやすい感じもありました。
今回の撮影をお願いしているカメラマンの船橋陽馬さんも、根子の若手マタギですもんね。実際、マタギになりたいと思ったら、何からはじめるんでしょう。
- 佐藤
- まずは、狩猟と猟銃の免許ですね。ちょっと勉強が大変でした(笑)。昔とちょっと傾向が変わったみたいで、猟銃の初心者講習では50問中45問以上を正解しないと不合格なんです。試験受けた後は「あーこれは終わったな……」って(笑)。
まったく受験みたいですね。
- 佐藤
- もし落ちてたら恥ずかしいから、オレ、もうマタギをあきらめてたかも(笑)。
- 鈴木
- おー危なかったな。阿仁のなかでは根子がいちばん早くマタギがいなくなるかなと思ったら、根子のマタギは若返ってきて。ほんとよかったな。
根子マタギはいま?
- 佐藤
- 6人です。だけど、まだオレは猟行ってないんで。早く行きたくて。
- 鈴木
- 補助金はもらったか?
- 佐藤
- まだです。申請はしようと思って。
猟銃のお金にしても、免許の更新にしてもお金がかかるんですよね。
- 鈴木
- 結構かかるんだ、いくら補助もらってもな。あと事故防止の射撃訓練だとか、やらなきゃいけないことがたくさんあるんだよ。
狩猟の奨励と、猟銃の所持が広がることへの懸念と、その両方がきっとあるんでしょうね。
- 鈴木
- 昔は、銃の管理も甘かったから許可証なんてなかったんだけど、免許が必要な時代になったら、自分の名前くらいしか書けないような人は、やめなきゃいけなかったり、試験を受けても受かんなかったりで、マタギをやる人が、がくっと減った。ある時期からは、狩猟免許を持たない人は山に入ってもならねぇって。それで、村のみんなで猟をするってこともなくなった。そうやって、いちど途切れてしまうと、マタギの道具もどんどんゴミのように処分されるから。
- 佐藤
- うちのオヤジもそう言ってました。マタギの家として代々伝わってきたものがあったけど、周りの人が興味本位で持っていって、そのまま返さないって。
- 鈴木
- うちはオレの代まで続いたから、古いものも残ってきたけど。それも今は文化財になってしまったな。
マタギをはじめることに対して家族の反応はどうでしたか。
- 佐藤
- オヤジは「おっ、がんばれ」って感じで。警察へ足を運んだりとか、いろいろ大変なことがあるってわかってると思うけど、承知してくれました。
マタギになってやりたいことって?
- 佐藤
- 今はまだ、ほら、なったばかりだから、先輩の後ろ姿を見てとにかく勉強しなきゃって気持ちだけど、いずれは自分の手でクマを仕留めたいなって思う。だけど、まずは謙虚に勉強、勉強。
やっぱり、クマを仕留めたいという気持ちはあるんですね。
- 佐藤
- それはあります。絶対に怖いと思うだろうし、今はこうやって強気で言ってるけど、いざ目の前に出てきたら、固まってしまうかも。
- 鈴木
- クマが出てから、「うわっ」ていうのでは絶対にダメなので。これはクマに限らないけど、獲物を仕留めるときは苦しめないように、1発で仕留めろってジイさんに言われてきた。難しいんだけど、できないこともないんだ。
けど、怖いのは撃ったクマに襲われること。仕留めたと思ったクマに襲われた話は、何人もある。倒れたクマが人の近づいてくる気配で、最後の力を振りしぼって襲うってこともあるんだから。クマが動かなくなったなと思っても、雪玉投げて反応をみるとか、なんでもいいから安易に近づいてはなんね。ほんと怖いんだよ。
佐藤さんのマタギとしての猟はこれからですけど、仕事では鈴木英雄さんと一緒に山に入ったこともあるそうですね。
- 佐藤
- 英雄さんが森林組合を定年退職される1年前にオレが入ったから、ちょっとお手伝いしたくらいなんだけど、といって全然話したことない人でもないから、そこでもいろいろ教わって。
その時にクマに出会ったことは?
- 佐藤
- ありますよ。
- 鈴木
- あるよな。一服してると出てきたりして。それをオレが追っかけてくと、みんなはおっかないって騒いで。
これからは佐藤さんも追っかける側だ。
- 佐藤
- 最近は、とにかく山に行きたくてしょうがないんです。行けば何かあるんじゃないかって。さっきも山鳥を見かけて、「おーいたいた!」って獲りたくなった。まあでも、山でやることだから、猟だけじゃなくて鉄砲も林業も同じことで、まずは安全第一。山で何かをやるってときに、そこだけは同じなんじゃないかな。
おふたりに話を聞いていると、この土地ではクマがとても身近な存在なんだと知らされます。取材した時期はまだ秋の猟期ではありませんでしたが、毎日のように人里へクマが降りてきて、ニュースにもなっていました。
取材場所としてお借りしていた場所から車で3分ほどのところにも、有害駆除のためのクマのワナがあるということで、次回はその様子を見に行くところから。