秋田の伝承学 三吉梵天祭

  • 力の神様
  • ジョヤサ〜 ジョヤサ!
  • 梵天 いま、むかし
  • 力で春を呼び込む

文・編集:矢吹史子/写真:船橋陽馬

第2回 ジョヤサ〜 ジョヤサ!

「けんか梵天」とも呼ばれる、激しい奉納のシーンが取り沙汰されることの多い三吉梵天祭ですが、あの荒々しさはどうやって生まれるのでしょう?  今回は、1月17日の祭り当日、「広面ひろおもて」という町内に同行させてもらい、奉納までの一連の様子をレポートします。

講師 広面、櫻の町内のみなさん

朝8:30、広面の町内のみなさんが集まっているという、橋のたもとに伺いました。

広面の町内のかた(以下、広面)
さあさあ、酒っこ飲め〜! みかんも持っていげ〜。
矢吹
取材中なので……みかんだけいただきますね(笑)。みなさん、朝からいい感じに酔ってますね〜。
広面
飲まねば、祭りは始まらない!
矢吹
ははは! わ〜梵天、鮮やかですね〜!
広面
黄色、赤、青。うちは昔からこの3色。4年くらい前から、自分だぢで作ってるんだ。それまでは業者さんにお願いしてだんだけども、もう作る人がいなぐなってきていでね。
矢吹
これが町内のシンボルカラーなんですね。ここからみなさんで、この梵天を持って神社に向かうんですね。
広面
うちの町内は人が少なくなってきたので、隣の「さくら」という町内と同盟を組んで、一緒に神社まで向がうの。このあど、櫻のみなさんがこっちに来るので、「形式上」のもみ合いをして、その後は一緒に歩いで行ぐの。 途中、施設に慰問したりながら、秋田駅のほうをまわって秋田大学の前まで行ぐ。だいたい6〜7km。各町内が集まってくるので、そごがら三吉神社へ向がって、奉納する。

川を挟んで向こうにある櫻の町内のみなさんが、ホラ貝を吹き「ジョヤサ、ジョヤサ」の掛け声とともに広面側にやってくると、町内の名前が書かれた「村札」という板をぶつけ合います。

そして、広面、櫻、それぞれによる「三吉節」が始まりました。

わたしゃ 広面 三吉のこども
ジョヤサ〜ジョヤサ〜)
人に押し負け 大きらい
ジョヤサ〜ジョヤサ〜)


わたしゃ 櫻 三吉のこども
ジョヤサ〜ジョヤサ〜)
人に押し負け 大きらい
ジョヤサ〜ジョヤサ〜)

三吉節とは、「梵天唄」とも呼ばる秋田民謡。梵天を上げる際に唄われるもので、神社までの道中でたびたび唄われます。
この様子を、動画でご覧ください!

矢吹
うわ〜。かっこいいですね。これはみなさん唄えるんですか?
広面
唄いたい人が即興で、唄いたいどぎに唄うの。昔は声枯れるだげ唄ってだけど、いまはそうでもなぐなってきたな。唄えない人もいるしな。

唄い終えると、赤、青、黄の広面と、桜の花柄の櫻の梵天がもみ合ったのち、神社へ向けて出発。道中、各町内のみなさんにお話を伺いながら進みます。

矢吹
毎年参加されてるんですか?
櫻の町内のかた(以降、櫻)
もう30年。30年もやってれば、半分強制的に参加になるよな(笑)。ここからが1年の始まり。この祭りが1年のスタートっていう感じだね。
矢吹
去年も奉納の様子を見させてもらいましたが、激しい祭りですよね。奉納の、あのもみくちゃの中はどんなことになってるんですか?
広面
自分だぢの梵天を奉納しようとしながらも、周りにいる町内をいじめる(妨げる)の。そのどぎに、相手の梵天からマブリ(お守り)を取ったり、人によっては梵天壊したりな。その中で、顔引っかがれだり、転んで踏みつぶされだりして。転べば、あど、起ぎ上がれねぐなるんだ。
矢吹
怖くないんですか?
広面
もう慣れだ。けんかがなければ梵天でないがら。コレ(酒)の力もあるし。カアさんは辞めれって言うけどな、危ないがら。でも毎年、ごまがしごまがし出できてる。
矢吹
今はまだみなさん朗らかで、あの荒々しさは感じられませんね。
秋田大学あだりに行ぐまでは、まだまだ。そごがらは、こんな会話はでぎねぐなる。
矢吹
でも日常生活では、あれだけ激しい怒りとか闘争心って、なかなか出せないですよね。あのスイッチってどうやって入れるんでしょう?
今はまだ梵天の数が少ないけれど、秋田大学のあだりまで行げば、神社に向がう町内がだんだん増えでくるんだ。そごで、村札をバンバンバンってぶつけ合うんだけども、酒も入ってるもんだがら、荒々しい奴らも出でくる。そういうのを見でるど、だんだんとスイッチが入ってくるのよ。前の年にやられだりしてれば、フツフツど思いも蘇ってくるしな。
そうすれば、今こうやって笑ってる顔も、酒で真っ赤な顔も、「ピッ!」となるわげよ。

道中、各所で、三吉節を唄っては梵天を上げて厄払いをし、休憩をするたびにお酒を酌み交わし……次第にテンションを上げていきます。

矢吹
それにしてもみなさん、かなり飲むんですね。
広面
今日に限った話でないよ。11月がら2月まで、準備しては飲み会、奉納しては飲み会、反省会しては飲み会……そうやってず〜っと酒飲みよ。だがら秋田の人は酒に強ぐなるの。
矢吹
もう、飲み会と飲み会の間に奉納がある……くらいの勢いなんですね(笑)。

秋田駅を過ぎ、秋田大学に近づいてくると、遠くによその町内の梵天が見えてきます。第一の関所といわれる蛇野へびの地区で半数ほど、第二の関所である赤沼あかぬま地区では全ての参加町内が集まると、各町内同士の村札のぶつけ合います。

先ほど、町内のかたが言っていたとおり、ここまで来るとみなさんの表情も一変。村札と村札のぶつかり合いの激しさは、息を呑むような緊迫感です。なかには、勢い余って村札が折れてしまう町内もあるほど。

これが、激しい奉納の伏線になっていくことを実感しながら、私たちは一足先に、奉納の行われる三吉神社の境内へ向かいます。

境内は、ギュウギュウ詰めの観客と、ものすごい数の警察官が待ち構える、ただならぬ緊張感。

そして間もなく、先頭の梵天が現れると、後に続き、人と梵天が、絡み合うようにして押し寄せ、もはや、どれが広面なのか、櫻なのかも判別が難しいなか、髪の毛を引っぱり合い、押しのけ合い、そこへ警察が抑えにかかり……もみくちゃになりながら梵天が奉納されていきます。

奉納を終えてからも争いの余韻は消えません。各所でにらみ合いや押し合いが起こり、それを警察が抑えてまわる、という光景が。

一方、ホラ貝を吹き、バンザイをしながら、今年も奉納できたことを喜ぶ町内の姿も。中には、神様のご利益をがあるというお守りをたくさん持ったかたもいました。

男性
今年は5つも取りました! 奉納するより、よその町内のお守りを取ることにがんばってしまった(笑)。一つの梵天に9個ずつしかついてないから、取るのも大変なんだよ。
矢吹
こんなにたくさん、どうするんですか?
男性
仲間にあげるの。上着の内側に縫い付けておくといいんだって。魔除けになるし、風邪もひかないって。

奉納された梵天は神社の一角に飾られます。61団体、全ての梵天が揃う様子は圧巻! 争いと喜びの渦に巻き込まれているうちに、広面と櫻のみなさんの姿はすっかり見失ってしまったのですが、どうやら今年も無事奉納されたようです。

次回は、神社までの道中に伺った、広面、櫻のみなさんの梵天にまつわるエピソードをご紹介します。幅広い世代が参加しているこの祭り。それぞれのお話から、祭りに対する思いや、かつての冬の秋田の暮らしぶりが見えてきます。

梵天 いま、むかし へつづく

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