暮らしの美術 Nanmodagram

「Nanmodagram」では、全国で活躍中の写真家さんに秋田をめぐっていただき、撮影した作品を写真共有アプリ「Instagram」と連動させながらご紹介していきます。
第1回は、写真家の岩倉しおりさんをお迎えし、秋田在住の大学生をモデルに撮影していただきました。

後編では、岩倉さんが写真家として活動するまでの経緯や、写真やSNSの世界について伺っていきます。

第1回 岩倉しおり 後編

<今回の撮影地>
大仙市協和
羽後町
湯沢市

岩倉しおり
香川県在住の写真家。フィルムカメラを中心に自然や人物を切り取る。自身のインスタグラムはフォロワー数が21万人を超えるほどの人気。

選ばなかった道

——
岩倉さんは現在、香川県を中心に活動されていますが、県外に出ようと思われたことはあるんですか?
岩倉
大阪の写真学校に行こうと思っていたことはあったんですよ。オープンキャンパスに行って、そこの先生とお話をしたら「ここに来ても技術は学べても、センスは学べないよ。君は来なくていいんじゃない?」って言われたんですよ。
——
それで進学を止めたんですか?
岩倉
はい。だから、写真の知識が全然ないんですよ。全て独学だし、機材とかレンズとかにも全然詳しくないし。
——
写真学校を目指していた当時と、今の写真のスタイルは変わらないんでしょうか?
岩倉
そうですね、ほとんど変わっていませんね。写真の学校に行った子たちは、卒業後はスタジオ勤務やブライダルカメラマンになる人が多いんですが、私はきっとそういう道には進めなかっただろうと思いますね。
——
この「なんも大学」でも、さまざまな写真家さんたちとご一緒するんですが、テクニック的な美しさよりも「その人だけの視点」がある写真により魅力を感じます。先生はきっと、岩倉さんの写真にそれを感じたんでしょうね。
岩倉
細々と写真展をしていくなかで少しずつ仕事が増えて、自分に合った仕事を依頼していただけるようになってきました。

フィルムカメラの魅力

——
今回の撮影では、フィルムカメラ、デジタルカメラ、携帯カメラの3つを使い分けていましたが、ふだんはフィルムカメラでの撮影がほとんどなんですよね?
岩倉
はい。SNSに投稿している写真も、フィルムが元になっているものが多いですね。高校のときに写真部に所属していて、写真はそこから始めたんですが、学生時代は学校のフィルムカメラで撮っていて、卒業してから自分で一眼レフのデジタルカメラを買いました。でもそれが、全然楽しくなくて。それで、もう一度フィルムに戻ったんです。
——
岩倉さんから見て、フィルムとデジタルは、どんな違いがありますか?
岩倉
一番違うのは、光の鮮明度ですね。私は光を大切にして撮っているので。フィルムは白の範囲が広いんです。デジタルで撮ろうとすると白く飛んでしまうものも、フィルムならしっかり再現してくれる。

単純に、ピントを合わせる行為が好きっていうのもあるし、仕上がりまでの時間がかかるところも好きなんですよね。デジタルならすぐ見れてしまうけれど、フィルムは思わぬ雰囲気に仕上がってくる写真もあって、それを味わってしまったら、もう中毒。止められませんね。手軽さという意味ではデジタルにも魅力があるし、面白みの種類が全然違うんだと思います。
——
岩倉さんに影響を受けてフィルムカメラを始めたいというかたも多いんじゃないでしょうか?
岩倉
写真部の高校生の子たちと写真を撮りに行く機会もあるんですけど、今の高校生はみんなデジタルしか知らないので「フィルムカメラってどこで手に入るんですか?」っていうのをよく聞かれます。興味はあるけど、どこに現像を出していいのか、どこでフィルムを買えばいいのかわからないって。
——
実際、どうされてるんですか?
岩倉
気に入った色に再現してくれる現像所が県外にあるのでそこに送ったり、フィルムもネットなどを使って大量買いしています。
——
機材の進化で、誰もが「いい写真を撮れる」というベースがあるなか、さらに良いものを目指したとき、求めるようになるのは「フィルムの持つ質感」や「待つ時間」など、「手軽さ」からは得られない部分になってきそうですね。
岩倉
洋服も、機械も、家具も、昔のものって圧倒的に作りが凝っていて、贅沢なものが多いですよね。フィルムカメラにもそういう贅沢さを感じますね。今は「写るんです(レンズ付きフィルム)」も人気があるので、それを入口に、高校生の子たちにも「そのもう1歩先」を味わってもらえたら嬉しいですね。

誰にもチャンスのある時代

——
Instagramを始めたのは、いつ頃からですか?
岩倉
意識的に投稿しはじめたのは2年くらい前ですね。最初は加工アプリを使いたいというだけで使っていて、そんなに投稿もしていなかったんですよ。
——
それが、今やフォロワーが21万人を超えている。
岩倉
私もびっくりしています。なんでこんなに反響があるのか、自分ではまだよくわからないし、完全にひとり歩きしていっている感じはありますね。
——
もう完全に、新しい写真の時代なんだなと感じますね。
岩倉
時代に合っていたんだとは思いますね。今までは、自分の中で「写真家」っていうのは、師匠のもとについて修業してからじゃなきゃなれなくて、有名なモデルさんを撮ったりするイメージだったんですが、自分はそうじゃない。それでも認知してもらえているんですよね。
——
確かに、フォロワー数だけみると、有名な写真家さんだからといってフォロワーが多いとは限らない。写真の多様性が受け入れられやすくなってきたかもしれませんね。
岩倉
今は誰にでもチャンスがある時代なんだと思います。

Nanmodagram 第1回 終わり

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