「Nanmodagram」では、全国で活躍中の写真家さんに秋田をめぐっていただき、撮影した作品を写真共有アプリ「Instagram」と連動させながらご紹介していきます。
第1回は、写真家の岩倉しおりさんをお迎えし、秋田在住の大学生をモデルに撮影していただきました。
2月上旬の雪深い秋田での撮影を終え、岩倉さんにお話を伺いました。
<今回の撮影地>
仙北市上桧木内
羽後町
仙北市上桧木内
羽後町
岩倉しおり
香川県在住の写真家。フィルムカメラを中心に自然や人物を切り取る。自身のインスタグラムはフォロワー数が21万人を超えるほどの人気。
自然のなかのフォトスタジオ
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- 岩倉さんは香川県在住で、秋田に来たのはこれが2度目とのこと。今回のように、よその土地で撮影をする際に、岩倉さんが注目するのはどういったところでしょうか?
- 岩倉
- 申し訳ないんですが、だいたい「ここはオススメですよ」って言われたところは撮らずに、結局、逸れた部分を撮ってしまうんですよね。とくに観光地に行くと一般的に言ったら「絵になる」っていう景色はたくさんあって、確かにきれいなんですが、自分が撮る必要はないと思ってしまうんですよね。
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- 今回、じつは、冬祭りの会場に撮影にお連れしたんですが、着いて、岩倉さんが真っ先に注目したのが、祭りをライトアップする照明機材。そして、実際に撮影されたのは、祭りではなく「照明に照らされた雪と人物」でしたね。
- 岩倉
- あのシチュエーションを見た瞬間「これは外せない! これはおもしろい!」 と思ってしまって……。フラッシュをたいて雪を撮影することはよくあるんですが、あの会場はすでにライトアップされていて。あんなセットはなかなかありませんからね。
かわいさに頼りたくない
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- 今回は、地元の大学生がモデルでしたが、ふだんの作品でも被写体に少女が多く起用されていますよね。そこには何かこだわりがあるんですか?
- 岩倉
- たしかに、若い子が多いんですが、とくにこだわりがあるわけではありません。これまで撮ってきたものも年代がバラバラで、少女のようには見えてもじつは30代のかたもいたり。学生っぽい衣装の子も、学生ではなかったりするんですよ。あまり顔を写さないので、そう感じられやすいのかもしれませんが。
- ——
- 顔を写さないことに理由はあるんですか?
- 岩倉
- モデルさんたち、みんなすごくかわいいんですけれど、そのかわいさに頼りたくなくて。「顔がかわいいから良い写真」にはしたくない。全体の風景もひっくるめて見てもらいたいんですよね。今回のカップルも、この撮影のために公募して来ていただいたんですが、「自分たちを撮って!」というのではなく「自分たちが秋田の風景にいるところを撮ってほしい」って言ってくれていたのでお願いすることにしたんです。
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- 豪雪のなかの撮影はなかなかハードでしたね。なかなか思うような雪が降らなくて「雪待ち」の時間も結構ありましたし。
- 岩倉
- 私は普段も撮影中は夢中になってしまって、寒い中でも全然大丈夫だし、海にも入っていっちゃうし……服が濡れても平気なんです。カメラさえ無事であれば……。
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- 繊細な作風とは裏腹に、雪だらけになりながらガンガン向かっていく姿はものすごく印象的でした。そして、シャッターを切るときは、全く迷いありませんでしたね。撮りたいものがはっきり定まっているように感じました。
- 岩倉
- はっきりしてますね。「これだ!」って思わないと全く撮りませんし。
足下にあふれる世界
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- そうやって仕上がった写真は、まるで宇宙にいるかのような仕上がりでしたが、岩倉さんには、秋田の雪はこんなふうに映ったんですね。
- 岩倉
- はい。目にはそういうふうに映っていますね。でも、まだ自分の写真と目に見えている世界が完全には繫がっていないんですよね。どうしたら表現できるんだろうって思いながらいつも撮ってます。
- ——
- 岩倉さんにはこれ以上に美しい世界が見えているんですね! 秋田の情景に身を置いて撮影するというよりは、自分の世界の中に秋田を寄せていって撮影している、という印象でした。
- 岩倉
- ふだんの暮らしのなかでも、ごく身近なところに「わ~!」ってなれるものがいっぱいあるんです。私はもう、自分の手元にある世界が魅力的で、そこでいっぱいいっぱいなんですよ。
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- 町なかの民家の塀の前でも撮影しましたが、地元に暮らしている側からすると「こんな場所で大丈夫?」というようなシチュエーションなのですが、「これだ!」とアンテナが触れるのには、ポイントはあるんですか?
- 岩倉
- 瞬間的に「あ!」っと閃くものなので、それを言葉で説明するのは難しいんですけど……。でも、秋田と香川では家の形も色も全然違う。香川にはあんなにカラフルな色の家はあんまりないと思います。秋田の家はかわいいんですよ。
- ——
- 暮らしていると、これがふつうだと思って気付けないことも多いんですよね。決して特別な場所でなくても、身近なところにも「あるんだ」と気付かされました。トタンの塀だって、あんなに魅力的なセットになってしまうんだから。
- 岩倉
- でも、みんな外を見てしまう。香川にいても「香川に何があるん? 東京、大阪行きたい」みたいな人が多いんです。わざわざ僻地や絶景スポットに行ってみたり……。足下にこんなにあるのに。まだ数回しか来てないけれど、秋田は圧倒的に撮りたくなる場所が多いと思いますよ。少し車を走らせただけでも、撮影したいロケーションがすぐに見つかるんですよね。秋田は写真を撮る人たちにとっては恵まれた環境ですよ。
偶然の瞬間を捉える
- ——
- 今回は冬の秋田を撮影していただきましたが、これから撮ってみたい秋田というのはありますか?
- 岩倉
- 今回は海を見れなかったので、日本海の荒波を見てみたいですね。香川の地元の海は、ほとんど波がなくてずっと浅瀬が続いているので、どこまでも歩いていけるんです。それが当たり前だと思っていたから、波があるだけで新鮮なんですよ。他にも住んでいたら、もっといっぱい撮りたい場所を見つけられるんだろうなって思います。
- ——
- 視点を変えればいろんな魅力が見えてくるのかもしれませんね。
- 岩倉
- でも、時間とか季節とか、いろんなものが偶然合わさったときにしか見えないものもあるんですよね。「これ、どこで撮ったんですか?」ってよく聞かれるんですけど、同じところに行っても撮れないし、今日行ったところに明日行っても全然違う。
- ——
- チャンスはどこにでもあるけれど、掴むタイミングは自分で見つけにいかないといけない……。
- 岩倉
- だから、いろんな条件が揃った瞬間は見逃さないようにはしていますね。
後編では、岩倉さんが撮影した写真とともに、岩倉さんの写真家として活動するまでの経緯や、いまの写真やSNSの世界について伺っていきます。