食と暮らし学

ハタハタ

  • 第1回 研究員に学ぶ、ハタハタ
  • 第2回 家庭に学ぶ、ハタハタ
  • 第3回 漁師に学ぶ、ハタハタ
  • 第4回 未来に繫ぐ、ハタハタ

文・編集:矢吹史子 写真・高橋希

講師 ハタハタ寿司グランプリにご参加のみなさん

4.未来に繫ぐ、ハタハタ

2018年1月8日。男鹿市で「第3回 ありそうでなかった、ハタハタ寿司グランプリ」が開催されました。「ハタハタ寿司」とは、ハタハタを、麹、砂糖、塩、酢、野菜などで漬ける飯鮓いずし。この日の会場には、各家庭で作られた自慢のハタハタ寿司が大集結! 来場者全員での試食審査ののち、チャンピオンを決定します。

このイベントの主催者である男鹿市の工藤幸子ゆきこさんのご挨拶。

今日はみなさん、たくさんのハタハタ寿司をお持ちくださりありがとうございます。
じつは、私自身は秋田県の生まれではありません。大阪生まれ、奈良育ち、この男鹿にお嫁に来て、この土地で初めてハタハタ寿司を食べて「あぁ、こんなに美味しいものがあるんだ!」っていうことを知ったんですね。
それから25〜26年。ここで暮らしながら、食べるだけでなく、毎年漁師さんのもとでオスメスの選別を手伝ったりもしています。そのなかで、年々ハタハタが減って来てるのを目の当たりにしてきて「寿司を漬ける人をもっと増やして、食べることで支えていかないと」と思うようになったんですが、「先輩がたや、まわりの人たちはどんな寿司を漬けてるんだろう?」「“美味しい”と言っても、よその家の味と比べたことってないよな?」とも思うようになって。そんなきっかけで、3年前からこのグランプリを開催しています。
今年はとくに「ハタハタ来るんだが? 寿司漬ける分獲れるんだが?」って、すごく心配してたんですが、結果、16組ものみなさんがエントリーしてくださいました。
では、みなさんの心のこもった寿司の、そのこだわりを伺っていきたいと思います。

浅野さん

「噛めば噛むほど味が出てくるのが、美味しいハタハタ寿司なんだよ」というのを聞いたことがあって、それを探求しながら、先輩たちにレシピを聞きながら、漬け続けて今年で13年になります。ここ3年くらいは15キロ漬けているんですが、できた分はみんなお裾分けするんです。すると、みなさんから「今年は甘かった、しょっぱかった」と感想をもらえるので、その意見を次の年に取り入れながらやっています。

富樫さん

母が作ってるのを見ながら、自分なりにアレンジして作っています。私のには、砂糖は入れでません。そして、タケノコが入っています。去年はクマが出だのでタケノコ採りには行けなかったから、一昨年に塩漬けにしていたものを塩出しして入れでみだんです。大事なのは、しっかり赤水や臭みを取るごど。3日かげで、よぐ洗います。あどは重石の加減も大事ですね。

松岡さん

勤め先の同僚から「うちのばあさんから作り方を聞いて、レシピにしてくれ」と頼まれて作ったのがこの寿司です。私は十数年、このレシピに従って作ってます。ポイントは3つ。「徹底的に血抜きをする」「漬け始め1日目は重石をしない」「砂糖は入れずに甘みは麹と米だけ」となっているのですが、私は砂糖を入れてもいいんじゃないかなって思っています。

三浦さん

私は去年、イベントの主催の工藤さんに声をかけてもらって「ハタハタ寿司講習会」に参加して、初めて寿司を漬けたんですけど、今年は白米を玄米にアレンジして作りました。まだまだ思ったようにはいかないんですが、来年も漬けたいと思ってます。

秋山さん

私の寿司の特徴としては、麹は自家製のものを使って、柚子を入れる。そして食べるときに、わさび醤油をつけて食べるっていうのが、我が家の食べ方なので、それに合わせた甘みにしています。これは近所の居酒屋さんで食べたのが美味しくて、教えてもらった味がベースになってます。「硬く仕上がるほど美味しい」というのが我が家の味なので、重石は最後までしっかりかけています。

佐藤さん

ハタハタ寿司を作って7年目になります。父親が秋田出身なんですが、私は岩手県で育ったので、ハタハタ自体はなかなか食べないんですが、料理が好きで。スーパーのチラシなんかに載っているレシピを片っ端から集めて、それを自分なりにアレンジしながら作ってきましたが、まだまだ勉強中です。
ハタハタ寿司づくりは年に1度の大仕事。最高の楽しみですね。若い人にももっと、ハタハタ寿司にチャレンジしてもらいたいなって思いますね。できたものは岩手に住んでる父親にも送ったりしています。

高桑さん

私の寿司は、明治生まれの親から教えてもらったまんまの作り方です。「重石が大事」っていうことと、「血抜きをしっかりする」っていう基本を守って作ってます。

鈴木さん

海のない横手市から来ました。男鹿の寿司を食べたことがなかったので参加してみました。みなさんが試食されたなかで、一番甘い寿司があったと思います。あれを作ったのは私です(笑)。私は甘さが際立った「横手の味付け」が好きなので、麹は甘酒風にして加えています。
漬けるようになって今年で2年目になりますが、それまでは食べたこともなかったんです。でも、主人が釣りに行ってたくさんハタハタを釣って来たのをきっかけに、近所のかたに作り方を教わりながら作るようになりました。

千葉明希ちゃん、純子さん

私たち2人で漬けました! これが証拠写真(笑)娘もハタハタ寿司が大好きで、今年で寿司を漬けて2年目になります。比べてみると、どなたのも個性があって美味しいので、この寿司は「我が家では」No.1と思っています……。漬けるとき、娘が漬け樽を覗きながら「ゆっくり休んでね〜」と言っていて、その純粋さが美味しさのポイントかなと思います。

中林さん

普段は水産振興センターに勤めていて、ハタハタを「増やす」ことをしていますが、食べてもらわなければしょうがないっていうことで、自分でも作り始めて、今年で11年になります。いろんなかたのいいとこ取りをしながら作ってきたんですが、今まで「大成功」となった試しがないので、今年は新聞に載っていたレシピを忠実に再現してみました。今回参加してみて、みなさん、あまりにも作り方が違っていたので、頭が混乱しています(笑)。また来年もチャレンジしたいです。

木村さん

去年は観覧で来ていたんですが、今年は初めてエントリーしました。ハタハタ寿司を漬けるのは6年目になるんですが、もともとハタハタ寿司が大好きで、でも買うと高いので、だったら自分で作っちゃおうと。酒飲みが高じてつまみを自分で作ってしまいました(笑)。やってみると意外とできるものですね。工夫としては、麹のなかにブリコをまぶして、プチプチっとした食感を活かしたいなって思って作りました。来年もぜひ参加したいです。

試食審査の末、今年のチャンピオンに輝いたのは、秋山協子さんのハタハタ寿司でした。

参加者のみなさんにとって、ハタハタ寿司を漬けるということは、一年越しの大イベント。
これまでの経験をフルに活かして「次はどんな寿司にしようか?」と、喜々として探求する姿は、食文化という枠を越えて一つのエンターテインメントのようにも映りました。
漁獲量は減ってきているとはいえ、世代や性別を問わず楽しむ、その熱量に未来を感じます。

保存や加工の技術、友人知人に惜しみなく振る舞うことなども含め、これまでの秋田のハタハタ文化は、大量の漁獲量があることをベースに「それらをどう消費するか?」というところから培われてきたものだったと思います。
しかし、漁獲量が減っているいま、少ないながらも「より豊かな方法で消費していく」ことが、新しいハタハタ文化に繫がっていくのかもしれません。

  • 食と暮らし学 ハタハタ 終わり

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