8月15日。12日に迎えた先祖を海へ帰すための「送り火」が行われる前に、下荒屋以外の町内の小屋を見てまわっていた私たち。そのなかの一つ、下浜の町のみなさんにお話を伺いました。
文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
- 齊藤秀樹さん
- よその小屋はワラを直接木材に巻き付けて作るんだけど、うちのはワラを編んでから付けてるんですよ。
- 矢吹
- へ〜! これは子どもたちが編むんですか?
- 秀樹
- いまはほとんどが大人がやってるんだ。ほんとは子どもたちがやるもんなんだけどね。
- 矢吹
- 昔はそうだったんですね。
- 秀樹
- そう。全部中学校3年生が主体になって、親はあくまで「悪ぃごどしねぇが〜?」って見てるだけで(笑)。
- 矢吹
- やっぱりどの町内も大人が主体になってしまってるんですね……。
- 秀樹
- 今はもう、子どもたちは部活を休めない。オレらの時代は盆小屋があるっていうと堂々と部活をサボれたんだけど。だからいまは親がやるしかなくなって「来られる子は顔出して」ってかんじ。編むの、再現してみようか?
- 矢吹
- 見てみたいです! お願いします。
とても気さくに応えてくださる、下浜の町のみなさん。ここで代表をされてる齊藤勝也さんが、残っていたワラで、実演してくださいました。
- 矢吹
- これ、編むのは時間にしてどのくらいかかるんですか?
- 勝也
- 大人だったら2時間くらいかな。子どもたちなら半日はかかるな。昔は小屋も大きかったから、1日じゃ終わらなかった。
- 矢吹
- 編むほうが付けるときに楽だったりするんですか?
- 勝也
- ワラの使う量が少なくて済むんだよ。ワラ、結構使うから。
- 矢吹
- いまはワラを集めるのも大変だって聞きました。こうやって代々、みんなが教わってやっていくんですね。
- 勝也
- オレなんてもう、50年やってるよ。
- 矢吹
- お〜!! これを毎年続けるって、すごいことですね。
- 勝也
- こうやってワラを絡めていくの。編んだほうが見た目もいいべ。これを小屋の骨組に巻いていくの。
- 矢吹
- あっというまに編まれていく!
- 秀樹
- 昔はこの小屋に泊まったんだよ。
- 矢吹
- へ〜!! 楽しそう。何人くらいで泊まるんですか?
- 秀樹
- 泊まれる人はみんな。小屋ももっと大きかったらから。小さいころは先輩が怖くて泊まれなかったけど。絶対服従だったから(笑)。中学生と、小学校5年生、6年生くらいの子たちでね。小屋で食べる缶詰から何から、みんな準備してね。
- 矢吹
- みんなで花火したり?
- 秀樹
- 花火なんてもんじゃない。「花火戦争」だよ。
- 矢吹
- 花火戦争?! どんなことをするんですか?
- 秀樹
- ロケット花火で隣の小屋を狙ったり。だからお互い、自分の町内の小屋を守らなきゃいけないんだ。仲悪ぃとかじゃなくね。
- 矢吹
- このときばかりは! というかんじで楽しむと。
- 秀樹
- まちがって命中してしまって火が点くと、打ったほうが走って消しに行ったりしてね(笑)。
- 矢吹
- ははは〜! 打ったほうが!
- 秀樹
- オレらより上の世代はもう少し過激で、打ったら打ち返すようなかんじだったんだけど、オレらのころからおとなしくなってきて。打っても誰も反応してくれなくなって……。つまらなかったわ〜。そのへんからだんだんとやらなくなって、今は泊まることもなくなって……。
- 矢吹
- だんだん子どもがおとなしくなってきちゃったんですね……。この町内に今は子どもは何人くらいいるんですか?
- 勝也
- 小学生は3人。昔は中学生だけでも20人以上いたからね。この中でいろいろ覚えるのよ。いいごども悪いごども(笑)。たぶん、人生で最初の徹夜でないがな?
- 矢吹
- そういうことが、子どもにとってものすごく大事な時間だと思うんですけどね……。
- 秀樹
- みなさん、来年は小屋に泊まりにけ〜(笑)。
- 矢吹
- ははは〜! ほんとにそうしようか?!
- 秀樹
- ブルーシートとロウソク貸すぞ〜。
- 矢吹
- ははは〜!
- 下浜の町の佐々木さん
- 今夜は馬も燃やすんだよ。ほら。
- 矢吹
- あ! 馬!! ワラでできてる! これにご先祖様が乗ってきたっていうことですか?
- 佐々木
- そうそう。これは年数が経った家の馬。亡くなって2〜3年経った家はこういう馬で、新しい馬(新盆の家の馬)はもっと派手。
- 矢吹
- え〜! 今年亡くなった方の馬は立派なんですか。それは、このあたりで見られますか?
- 佐々木
- ある。そこの家にあるよ。飾ってあるがら見でおいで。綺麗な馬だよ。
そうやって案内されるがままにたどり着いたのが、兵藤さんのお宅。
- 矢吹
- ごめんくださーい。お宅に馬が飾ってあるって聞いたんですが、見せていただけますか?
- 兵藤
- どうぞ〜。あがってください。
- 矢吹
- おじゃましまーす。わ! 立派!! これを今夜の送り盆に持っていくんですか?
- 兵藤
- これは持っていかないの。これは初棚(新盆)のところだけが作ってもらって、明日また作ってもらったところに持っていって供養してもらうの。
- 矢吹
- 立派な馬に乗って帰ってこられたんですね。
- 兵藤
- そう。12日に来て、あど、今日帰るのよ。
- 矢吹
- この前に付いてる人が引っ張ってくれてるんだ。
- 兵藤
- そうそう。
- 矢吹
- こんなに立派だとは思いませんでした。亡くなったお父さんは漁師さんだったんですか?
- 兵藤
- そう。去年の12月に急に亡くなってしまって……。亡くなる直前までピンピンしてたのに。
- 矢吹
- そうなんですね……。この盆棚もとても立派ですね。
- 兵藤
- これも初棚だから。
- 矢吹
- お父さん、こんなに立派に迎えられて、お孫さんたちもいて、喜んでるんじゃないですか?
- 兵藤
- そうですね。
- 矢吹
- 突然押しかけてしまいましたが、見せていただけてよかったです。ありがとうございました!
次回は、この行事のフィナーレ、盆小屋に火を点けて先祖を海へ帰す、送り火の様子をお伝えします。