
「発祥」の鹿角市から、「本場」の大館市に移った私たち。やってきたのは「十字屋きりたんぽ店」。今回はここで、きりたんぽ作りを体験します!


文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬

- 矢吹
- うわーすごい数! 串だけでも圧巻! これだけのきりたんぽを作るんですね〜。串にご飯を付けるのは全部手で?
- 岩井
- そうですよ。さあさあ、まずは手を洗って!
- 矢吹
- はーい!
- 岩井
- 利き手で串の細い方を持って。
- 矢吹
- 使ってるお米はあきたこまちなんですか?
- 岩井
- うちはこのたんぽに合わせて「にしき米」っていう、ササニシキのオリジナルブレンドをお米屋さんに配合してもらってるんですよ。
- 矢吹
- そうなんですか〜。
- 岩井
- 米と水以外、添加物も何も入ってません。


- 矢吹
- それをこのガス釜で炊くんですね。
- 岩井
- はい。そして、炊けたご飯を機械で潰したものを串に付けていきます。
それじゃあ、手を濡らしてこの「ダマ」(ご飯のかたまり)を串に差します。そして、たんぽの形をイメージして、ダマを潰しながら、串にくっつけながら、半分くらいまで伸ばしていきます。そしてダマを調節しながら、串の焼き跡のところまで伸ばすの。


- 矢吹
- え〜! そんなに伸びない〜!
- 岩井
- 大丈夫、大丈夫。
- 矢吹
- 伸ばしすぎて透けてきた……。うまくいかないな〜。

- 岩井
- あら、上手よ。そして、仕上げにこの板の上でコロコロやって。そうするとデコボコがなくなるから。
- 矢吹
- うわ〜、やっぱりプロはきれいに作りますね! そして早い!
- 岩井
- ここで転がせばきれいになるのよ。

- 矢吹
- はぁ〜できた! 楽しい! なかなかきれいにできたかも! パートで雇ってもらえるんじゃないかな?
- 岩井
- ははは〜! 交通費出ないけどね(笑)。もう3本やって、1本はここで味噌付けて食べて3本は持って帰りなさい。4本目をやったらもうプロよ。
- 矢吹
- わーい!やるやる!

- 矢吹
- この間もきりたんぽ食べたんですけど、たんぽ自体は買ったものだったんですよ。作るのは初めてです。
- 岩井
- あ〜そうですか。スーパーで買ったの? まさか真空じゃないでしょうね……?
- 矢吹
- ……真空でした。
- 岩井
- じゃあ、全然違うわよ〜! これ食べてしまったら、真空のなんか買えなくなるよ。でも、こんなの家で作るのなんてめんどくさいでしょ? だから試しにホームページを作って載せてみたら、一度食べた人が美味しいからってまた頼んでくれて……。
- 矢吹
- リピーターがしっかりいるんですね。やっぱりご自身もよく食べるんですか?

- 岩井
- 食べます、食べます。大館市の人はとくに食べるね。少し肌寒かったりすると「あ、食べたいな〜」って、毎日作ってても思うもの。それじゃあ、今からこの機械で焼くから、味噌付けたんぽにして食べていって!
- 矢吹
- わ〜い!
- 岩井
- まずはその作ったたんぽ、持って来て、ここに差してください。
- 矢吹
- はい。

- 岩井
- うちは創業して65年。もとはおじいちゃんがやっていたんですけれど、縁あって私が継いで20年になります。私の主人がもともと転勤族で、たまたま大館に来たときに後継者がいないっていうことで始めたんです。この機械を考えたりしたのもおじいちゃんなんですよ。

- 矢吹
- 「きりたんぽオート」っていう機械なんですね。この中をたんぽが通っていくんだ! これはガスで焼くんですか?
- 岩井
- はい。昔は囲炉裏で焼いていたんですけどね。
- 矢吹
- おー! 流れていく。きりたんぽの行進みたい! これ、1周すれば焼けるんですか?
- 岩井
- はい、1周で。
- 矢吹
- おじいちゃん、すごいの考えましたね!

- 岩井
- 出てきたときにちゃんと焼けているように、スピードや温度も計算されているんですよ。この機械はもう40数年になる。私より先輩なんですよ。
- 矢吹
- でもピカピカですよ。
- 岩井
- 昔のだけど、モノがいいんじゃないかな。今の回転寿司やかまぼこを焼く機械もこれをヒントにしたって言うのよ。
- 矢吹
- え! これをヒントに!?
- 岩井
- 単純な機械なんだけどね。
- 矢吹
- わ〜出て来た! 焼けてる〜! いい香り。



- 岩井
- どうぞ、焼けたたんぽにこの味噌ダレを塗って食べてみて。このタレには味噌とザラメと出汁と、あと、うちの特徴で山椒も入っています。
- 矢吹
- 山椒も? いただきまーす。わ〜美味しい! 外側パリパリ! できたて、最高ですね〜。お米の甘みがしっかりする。
- 岩井
- これが本物の味ですよ。でも、自分で作ったからいっそう美味しいんじゃない? 最近は手みやげに、お菓子とかじゃなくきりたんぽを持っていくっていう人も増えてきたんですよ。
- 矢吹
- それ、うれしいかも!

- 岩井
- 1回で3本も4本も食べる人もいますよ。
- 矢吹
- え〜! でもこれ、お茶碗1杯分くらいあるんですよね?
- 岩井
- そうなんだけど、美味しいからってね(笑)。
- 矢吹
- ここから全国に地方発送もできるんですね。
- 岩井
- はい。きりたんぽセットには、鍋に入れる材料が全部入ってるからすぐ食べられますよ。都会の人たちもうちのを1回食べると、もうこれじゃなきゃダメっていうかたも結構多いんですよ。そういう声が年々増えてきて、年末が怖いのよ(笑)。みんな年越しや年始には必ず食べるみたいで。
- 矢吹
- いいことじゃないですか〜!

- 岩井
- ありがたいですよね。たまたま始めた仕事なんだけどね。
- 矢吹
- そういう運命だったんでしょうか……。
- 岩井
- そうそうそうそうそう! それ!
- 矢吹
- ははは〜!
- 岩井
- 何があるかわからないですよ、一生。でもね、こうやってみなさんに来てもらえたり、注文の電話をいただいたりすることが私の励みになってね。
- 矢吹
- 私も楽しかったし、美味しかったです! ありがとうございました!

たんぽ作りを満喫した私たち。次に向かったのは、北秋田市合川。前回の講師、岩船さんも「やっぱりきりたんぽにはこれ!」と絶賛していた、比内地鶏の美味しさの秘密を探りに、生産者さんのもとへ伺います。