食と暮らし学 きりたんぽ

きりたんぽの基礎を学んだ私たちは、前回に引き続ききりたんぽ発祥の地、鹿角市花輪で、その発祥たる所以ゆえんを探っていきます。お話を伺うのは、今回も「きりたんぽ協議会」会長の岩船勝広さんです。

Contents

  • ①きりたんぽって?
  • ②やまごのきりたんぽ?
  • ③十字屋さんのきりたんぽ
  • ④なぜうまい? 比内地鶏
  • ⑤たんぽ会するべ〜!

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

②やまごのきりたんぽ?

ここに醤油があったから

矢吹
この鹿角市花輪が「きりたんぽ発祥の地」と言われているそうですが、それはなにゆえなんでしょうか?
岩船
はい。確実な話でいくとだいぶ新しい話ではあるんですが、現在食べられている「きりたんぽ鍋」は、昔、花輪にあった料亭がメニューとして作ったものらしいんですよ。そこに、秋田市や隣の大館おおだて市の料亭の職人が習いにきて広めていったということなんです。
矢吹
そうだったんですか!
岩船
秋田市の料亭でも、そのことをしっかりうたっているんですよ。前回お話したとおり、きりたんぽ鍋は鶏出汁の醤油ベースのスープですよね。なぜこういうものが生まれたかというと「ここに醤油があった」ということなんですよ。
矢吹
醤油が?
岩船
醤油っていうのは昔、とても高価なものだったんですよ。醸造業というのもそんなに多くなかったので。だから、醤油が欲しいとなると関東から取り寄せていたんですよ。
矢吹
秋田は元々、味噌はたくさんありますけどね。
岩船
はい。それでも、鹿角市近辺には「尾去沢おさりざわ鉱山」や「小坂鉱山」という鉱山があって、県外からの人の出入りが激しくてとても栄えていたこともあって、130年以上前に「浅利佐助あさりさすけ商店」という醤油屋さんができたんです。そこから「醤油」というものが鹿角市でも手に入るようになったんですよ。

浅利佐助商店

矢吹
なるほど〜! きりたんぽのルーツでそこまで考えたことはありませんでした!でも、お醤油が手に入ったところで、きっとほかのスタイルの鍋にもできたであろう中、なぜあの「棒状のご飯」が生まれたんでしょう?

やまごのきりたんぽ

岩船
ここからは想像でしかないんですが、山で作業をする人、主に木こりのことを、こちらでは「やまご(山子)」っていうんですけど……。
矢吹
あ! さっき、看板にも「山子たんぽ」って書いてましたね! 木こりのことなんですね。
岩船
はい。そのやまごが作業するときに、おにぎりなんかを持っていきますよね。それを休憩のとき食べようとすると、冷たいので温めたい、と。まあ、当然電子レンジなんかないですから、山小屋で火を焚いてあぶるんですよね。丸いまま木の棒かなんかに刺して。そうやって焼いて食べていたんだけど、なかなか中まで火が通らないぞ、と。なので手で潰して、ご飯粒のままだといじってるとボロボロ崩れてしまうので、力強くやってるとどんどん潰れていく。そういうふうにしてあの形になったんじゃないかと。
矢吹
へ〜!! 理にかなってる!
岩船
それで、当時の調味料は塩か味噌しかないので、おそらくおにぎりだから、塩は付いてた。でも何かもの足りないぞ、ということで味噌を付けてみて……。
矢吹
それが、味噌付けたんぽ!

味噌付けたんぽ

岩船
はい。でも、そうやってると飽きてきますよね。きっとおかずとして山菜なんかを入れた「貝焼き(秋田の鍋料理)」も作るでしょうから、じゃあ、それにたんぽを入れてみるか、ということで「きりたんぽ鍋」も成立したのではないかなと。
矢吹
なるほど〜!
岩船
ですから当時は、塩味か味噌味の鍋だったと言われています。
矢吹
それが、途中から鶏出汁で醤油味に……?
岩船
出汁はもともと鶏だったと思います。もしくは山で獲れる獣。ウサギとかヤマドリとか。その後、醤油というものができて、使ってみたら美味しいということで料亭で作られるようになったんじゃないかと。
矢吹
元々やまごが作ってきたものを料亭が整えて、今に至るんですね! おもしろ〜い!

発祥鍋

矢吹
11月3日は花輪で「きりたんぽ発祥まつり」というのがあったそうですね。
岩船
はい。きりたんぽに関わるお祭りで、鹿角市内の飲食店や地元高校生も参加してくれて、今年は7店舗がきりたんぽ鍋やアレンジ料理を出しました。
矢吹
そこで、きりたんぽ発祥当時の鍋を再現されたと聞きましたが。
岩船
はい。まあ、想像ですけどね……。やまごは貝焼きを作るときに、何を入れただろうか、と。
矢吹
うんうん。

きりたんぽ発祥鍋(写真は試作段階のもの)

岩船
きっとヤマドリを入れたんだろうけれど、今はなかなかなくて。これを「発祥鍋」として今後もみなさんに食べてもらうことを考えると、今でも流通している食材を使おうということで、これはキジだな、と。そして、味付けに醤油は使えない。
矢吹
お〜!
岩船
塩か味噌か悩んだ末、やっぱり味噌味に。
矢吹
味噌味のきりたんぽ! しかもキジで!
岩船
意外と、キジはあっさりしているんですよ。具材に関しては、当時も山で採れたキノコや山菜、ゴボウ、セリなんかを入れて。
矢吹
それが発祥鍋! でもキジ肉なんて、けっこう高いんじゃないですか?
岩船
けっこうじゃない、かなり高い!!
矢吹
ははは〜! じゃあふだんのメニューにしていくのは難しいかもしれませんね。ところで、ここ鹿角市は「発祥」で、大館市は「本場」って言われていますよね? その違いって何なんですか?
岩船
先ほどお伝えしたように、大館市の料亭が鹿角市の料亭から習って、商売にしたことで広まったと言われているので、大館市では料亭料理として成立しているんです。でもこっちではふつうに家庭で食べていたものなんですよ。
矢吹
なるほど〜。元々のところが違っているんですね。今は大館市でも秋田市でも家庭でふつうに食べられていますけどね。

きりたんぽの「発祥」のルーツがわかったところで、私たちが次に向かったのは「本場」大館市。きりたんぽ作りを体験できるという「十字屋きりたんぽ店」へ伺います。

3. 十字屋さんのきりたんぽ へつづく

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