秋田の伝承学 なまはげ

講師 真山地区のなまはげさん

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文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

④心のふるさと

大晦日のなまはげ行事を見せていただいた私たち。最後に猿田さんから、この行事に関わるうえでの思いを聞かせていただきます。

矢吹
猿田さんがなまはげ行事に関わるようになったのは5年くらい前から、ということですが、関わる前と比べて、土地への思いって変わってきていますか?
猿田
小学校高学年の頃にここに引っ越して来たので、正直言うと行事に関わる前は、住んではいるんだけれど、どこかよそ者的な遠慮が自分の気持ちの中にあったんだと思います。地元の人たちからはどんなふうに思われてたのかはわからないけれど、ここに住んでいても宙ぶらりんで、ずっと浮いているようなかんじがしていたんですよ。
矢吹
うんうん。
猿田
それで、会社を辞めてお店を始めてからは、なるべく地元の行事に関わるようにして。関わっているのは、ほとんど年配の人ばっかりなんですけどね。なまはげをやるようになったもの、地元の行事に参加するなかで同じ集落の先輩から「真山に住んでるんだったらおめぇもそろそろなまはげやってみれ」って声をかけてもらったのがきっかけで。
矢吹
そうなんですね。
猿田
地元のしがらみとかも意識しながら、あまり知らない人たちの中に飛び込んで行くのは始めはちょっと大変ですけど、避けては通れないものであって。そういうもんなんですよね、田舎の中で暮らすって。
猿田
なまはげに関わっていると「なぜ続けるんですか?」っていうことをよく聞かれるんですよね。それで、こういう質問に対して「地域で昔から培われてきたものを絶やさないように」っていうのをよく聞くんですけど、それは自分の動機には繫がらないんですよね。
矢吹
よくわかります。
猿田
同じ集落にいても、みんな普段はそれぞれ別の活動や仕事をしててあまり接点があるわけでもないんだけど、なまはげっていう行事を通して、年に一回繫がることができるんですよね。
矢吹
続けたいから繫がる、じゃなくて、繫がることに喜びがあるから続いていく、という。
猿田
本音はそうなんじゃないかなと。それから、「猿田さんにとって、なまはげって何ですか?」っていうこともよく聞かれるんですけど……。
矢吹
ふふふ〜。
猿田
いつも答えに困っていて、なんだろうな〜って思ったときに、ぽっと出た言葉が「心のふるさと」で。その言葉が一番しっくりきて。
矢吹
心のふるさと。
猿田
つまり記憶ってことなんですよね。都会に住んでいる人にだって、あるんじゃないですかね。「あそこで体験したあのことが大人になっても印象的に残っていて、それが今の活動の動機になっている」とか。大人になってぱっと振り返ったときに、自分を構成しているものの一つとして、自分には、なまはげは大きいものがあるなあと。もちろん、それだけじゃないんですけどね。
矢吹
こういう行事やお祭りがあることで、自分のなかの指針になるものができていくんですよね。
猿田
人との接し方とかもね。小さいころは葬式なんかも家でやっていて、子どものころ、そういう場を見てると大人の人間関係をリアルに感じるんだけど、今は便利さが先になって、そういうのが切り離されてきてますよね。
矢吹
「隣の家のあの人、祭になるとあんなに頼もしくなるんだ!」っていうこと、ありましたよね。いろいろと楽になる分、大事な部分も削ぎ落とされているのかもしれませんね。
猿田
ふれあいとか摩擦とか、大事だと思いますよね。それが面倒くさくて、楽なほうにみんな行ってしまいがちなんですけど、私が県外にいたころは、それがないのが淋しかった。
矢吹
それこそ、ふるさとがなくなってしまうっていう……。
猿田
「温度ねぇな」みたいな。県外にいたころは、友だちとも遊んでたし、それなりに収入もあったし、不自由なく暮らしてるんだけど、このままでいいのかなっていうか。
矢吹
核がないというか……?
猿田
そうそう。都会の真ん中で、このまま歳とっていくのかなあって思ったら、急に恐ろしくなってしまって。
矢吹
そのときに、生まれ育った土地との関わりが欲しくなったんですか?
猿田
そうですね。実際、ここが嫌で県外に出たわけなんだけど。こっちに戻ってきてからも母親とは毎日ケンカもするし、嫌なこともあるんだけど、「生きている実感」っていうのは、田舎に戻ってきてからのほうがありますね。その実感が欲しかったんだと思いますね。
矢吹
うんうん。
猿田
なまはげの行事がいつまで続くかわからないですけれど、自分はここに関われていることで、その実感ができていますね。

ただただ怖い印象を持たれがちななまはげですが、実際に行事を体感してみると、とても温かな交流があり、そこに暮らす人々の心の拠り所にもなっている、尊いものだとわかりました。
しかしその一方で、参加する家庭の減少も著しくみられます。秋田の象徴としてキャラクター的な露出も多いなまはげですが、その本来の姿もしっかりと伝わっていくことを願います。

  • 秋田の伝承学 なまはげ 終わり

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