花嫁道中が生まれた最大のポイントである「雪」。今回は、この土地に暮らす人たちと雪の関係について伺っていきます。
- 菅原
- 1月にこの行事があるでしょ。そうすると、一番冬の厳しいときに一つの目標がありますから、その準備と当日、それが終わるとなんかもうそこに春が来たような感じですね。
- 矢吹
- へぇ〜!
- 菅原
- 2月になると、やっぱり違うんですね。山を越えたって感じがあるんですよ。
- 矢吹
- そういうものなんですね。
- 菅原
- あとは、湯沢市の「犬っこまつり」だとか、横手市の「かまくら」だとか、秋田県内のいろんな行事がありますけれども、それを余裕をもって見に行ったりもできますから。
- 矢吹
- ふふふ、そうですね。
- 菅原
- 2月になると、もう雪が緩んでくるんですよ。だから3月上旬くらいまでは、スキークラブの仲間と蔵王とか田沢湖へ行ったり。そのころになるとあまり吹雪かなくなってきて、雪も固まってるんで滑りやすいんですよ。吹雪のなか鼻水垂らしながらじゃなく、賢く滑るんですよ(笑)。
- 矢吹
- ふふふ!
- 菅原
- そういう意味では、1月の一番寒さの厳しいときに花嫁道中があるってことで、長い冬が短くなった感じがするんですよね。
- 矢吹
- そうですよね。それまでは、ただただ耐えるというか。
- 菅原
- そうです。その1ヵ月の過ごし方は全然違いますね、32年前の様子とは。
- 矢吹
- 行事があれば、忙しさもあるし、人との交流も増えるだろうし。
- 菅原
- 心も熱くなるような。心血注ぐ対象ができたっていう感じがありますよね。
- 矢吹
- わ~! この行事には、本当にいろいろなヒントがありますね。
- 菅原
- そうですか? 自分ではあまり気が付かない面もありますけれども、当たり前のようにやりながらも、長年、毎日、考え続けてきましたからね。
- 矢吹
- はい。
- 菅原
- 始めるまでにも10年かかりましたけど、それは偶然とか、周りの状況とか、縁とかもあるんですね。
- 矢吹
- そうですよね。
- 菅原
- 同じアイディアを、隣の湯沢市の仲間にも相談したことがあるんですけど……全然乗ってこない。
- 矢吹
- やっぱりこの地域とのご縁だったり運だったり……?
- 菅原
- まず、「峠の花嫁さん」っていうイメージが出てこないんですね。
- 矢吹
- やっぱり実際に見たことのある人でないと……?
- 菅原
- そこに暮らし、生活がないとね。もうすごいんですよ、昔は(笑)。
- 矢吹
- 実際、当時のお嫁入りっていうのは、どんなふうだったんですか?!
- 菅原
- 私はフルコース全部を見ているわけじゃないんですけど、到着する集落の家の前で見たのを覚えています。冬場は、峠の上はものすごい吹雪になるんですよ。子どものころなんかは、呼吸ができなくなるくらい。だから母のマントの陰に隠れて歩いてきたり。 うちは酒屋(食品、雑貨)なので、当時は母が仕入れなんかで冬場に何回か峠を越えるのを迎えに行ったんですけど、昔は今みたいな道がないんですよ。誰かが歩いた道しかない。「骨っこ道」と言って、骨みたいに細い道。それを踏み外すと、ドブっと腰あたりまでぬかっちゃう。
- 矢吹
- うわ〜。
- 菅原
- 峠は「顎つり道」って呼ばれて、近道ではあるんですが、顎がつかえるほど急な道だったんで、下るときはすごく滑るんですよ。滑って転んだり、新雪に突っ込んでいったり。七曲峠にはいろんな思い出があります。
- 矢吹
- うんうん。
- 菅原
- 新しい長靴を買ってもらうと、滑りにくいので、それが嬉しかったりね。当時、昭和30年代はマントからポリエステルのアノラックっていうのに変わった時代で、アノラックの生地が擦れる音が嬉しくて。
- 矢吹
- ふふふふ。
- 菅原
- 私は、20年ほど前から「五行歌」をやっているんですが、当時を思い出して「新調の アノラック 擦れる音 嬉しい 吹雪の通学路」とかなんとか書いたんですけれども、小学校の行き帰り、人家が途切れてすごく吹雪くところがあったんですよ。だから、完全武装して「よし、俺はこれで負けないぞ!」って。
- 矢吹
- ふふふふ(笑)。変身した気分で。
- 菅原
- 戦うぞ! と。そのとき、(アノラックが)擦れるでしょ? これが、すごく嬉しくて。
- 矢吹
- うんうん!
- 菅原
- いまでもそうですけれど、雪道を歩くっていうのは、雪国の人は、割りに好きなんですよ。
- 矢吹
- そういうところ、あるかもしれない(笑)。
- 菅原
- 集中力が湧くというか。でも、今の子どもたちは、そういうのをあんまり知らないでしょ。ですから、こういう機会に雪道を歩くっていうのはいいんですよ。歩きながらいろいろ考えられるんですよね。 秋田県は毎年300人近くの自殺者がいて、20年くらい全国のワーストワンできてますけども、それは経済力のなさとか、この冬の曇天の鉛色の空とか、鬱っぽくなる要素はありますけども、一方で、晴れた日の雪の美しさっていうのもあって。紙一重のところで、すごく光輝くものがあると思うんですね。
- 矢吹
- う~ん。
- 菅原
- それは芸術や文化の分野だけじゃなくて、社会にも教育にも活かせる部分があると思うんで、そういうところに注目して、住んでいる我々がアイデアを出していくのが一番いいと思うんです。 でもそのためには、いつもここにいるんじゃなく、ちょっと出かけて、全くの異次元に身を置いてみるといいんですよ。そういうときにふっと気が付くこともあるんでね。
- 矢吹
- はい。
- 菅原
- 私も一旦故郷を出て、外の世界を見て学んできた経験が、いまに生きたんだなと思うんですよね。
ここに暮らす人ならではの、雪や冬に対する思いを伺った私たち。次回は、この行事を32年間続けてきた、その方法論や、続けていくための考え方を教わっていきます。