2月になると、秋田県内各地で様々な小正月行事が行われます。なかでも、「横手のかまくら」は、「みちのく5大雪まつり」にも挙げられ、毎年たくさんの観光客が訪れます。
この「横手のかまくら」では、雪を積み上げ中をくり抜いて作った雪室が作られることが有名ですが、実は、秋田にある「かまくら行事」はこれだけではないんです。
今回は、秋田県内にある様々な「かまくら行事」について、学んでいきます。
2月14日。やってきたのは仙北市角館町。ここで行われているのが、「火振りかまくら」です。
この日は角館町の各所でこの行事が行われていますが、そのなかの一つ、山根地区を訪ねました。会場の神社に着き、行事の準備中の男性にお話を伺います。
- 男性
- 角館神明社では、朝、火おこしから始めて、本来はその火をもらって各集落で火振りをするんですよ。
そして、最初に、真ん中にあるかまどの薪に火を点けて、2メートルくらいの縄のついた炭俵に火を点けて、それを自分の体の周りで振り回す「火振り」をするんです。
- 矢吹
- うんうん。
- 男性
- そして最後に、その横にある「天筆」に火をつけるんですよ。ここの天筆は5メートルくらいの木にワラを巻いていったものなんですが、毎年の厄年の人が火を点けるんですよ。それで終わり。ここでは、この一連の流れを、「かまくら」って言うんです。
- 矢吹
- 火振りをすることで、五穀豊穣や無病息災を願ったり、天筆も1年の願いを込めて燃やすみたいですね?
- 男性
- 詳しいごどは、私はよくわからないです(笑)。毎年当たりまえにやってるがら、いわれどが、とくに考えだごどないんですよね……。
- 矢吹
- そういうものですよね(笑)。この火振りは、誰でも参加できるんですか? 地区の男性しかやれない、とか?
- 男性
- いやいや、誰でもやれますよ。ぜひやっていってください!
地区の子どもたちをはじめ、たくさんの人たちが集まってくると、かまどに火が灯され、一人、二人とおもむろに「火振り」を始めていきます。途中、親子が一緒に振る姿もあるなか、小さな男の子が一人で振ることになり、会場が沸き立ちます。
- 男の子のおばあさん
- 前は怖がって、だっこされで見てるだげだったから、今年もそうかと思っていだら、やってみるって! なんでもやってみたい子なんですよね。あの衣装、私が縫ったんですよ。
- 矢吹
- わ〜! 楽しみですね! うまく回せるかな〜?
- おばあさん
- ゆっくりだよ〜! あまり早ぐ回さないの。どこまでやれるかな〜。
- 矢吹
- ドキドキですね。
- おばあさん
- 米俵って、ワラを編んだものをフタにするんだけど、昔は子どもたちはそれで火振りをして覚えでいったの。ここでは「サンダラボッチ」って言ってね。
- 矢吹
- へ〜! あ、回してる、回してる!
- おばあさん
- お〜!! いいぞいいぞ! ゆっくりゆっくり〜!
- 一同
- お〜〜〜!! 上手だ上手だ〜!
(終わって帰ってきて)
- 男の子
- 楽しい!
- おばあさん
- がんばったね〜! 上手だったよ〜!
- 男の子
- まだやりたいー!
次々と火振りが行われるなか、この地区の河原田次朗さんにお話を伺います。
- 河原田
- 秋田の小正月行事は「かまくら」って言うものが多いですよね。この行事を「火振りかまくら」って言い出したのは、ここ20〜30年くらいで、その前は「かまくら」としか言わなかったんですよ。
- 矢吹
- ここのみなさんにとっては、かまくらと言えばこの火振りなんですね。あの、ドーム状の雪のものではなく。
- 河原田
- はい。あれが有名になってきたもので、それと区別するために「火振り」と付けたんですよ。
- 矢吹
- なるほど〜。でも、なんで「かまくら」なんでしょうね?
- 河原田
- 「いざ、鎌倉」の、かまくらであるという説もあるんですが、この真ん中にある、雪で作った「かまど」で正月使った飾りなんかを焼くんですよね。その「かまど」から来ているんじゃないかとも言われてますね。
- 矢吹
- なるほど〜。河原田さんは小さい頃からこの行事に参加されているんですか?
- 河原田
- 私は小学校低学年のころから振りましたよ。
- 矢吹
- 初めてのときはいかがでしたか?
- 河原田
- ドキドキして、怖くて。でも、6年生くらいになると物足りなくて2個付けたり。米俵を振ってみたり。米俵は重くてね。
- 矢吹
- 米俵で?! いま振っているのは炭俵なんですよね?
- 河原田
- はい。わざわざこのために作っているんですけど、昔は炭が入っている俵がふつうにあったんですよね。
- 矢吹
- この行事を長年見てこられて、昔といまで、どんな変化がありますか?
- 河原田
- やっと少しずつ、地に着いてきつつあるんですけれど、一回途絶えそうになったんですよ。
- 矢吹
- それは、参加する人が少なくなってきたからですか?
- 河原田
- はい。昔は、ほんの小さな各町内ごとにやっていて、小学生を中心に、大人たちが助けながらやっていたんですけれど、子どもがだんだんいなくなって。1つの町内に一人も小学生がいない、なんてことも。
- 矢吹
- はい。
- 河原田
- なので、いまは何町内かが集まって開催しているんですよ。お祭り(毎年9月に行われる、角館祭りのやま行事)の若げぇ衆が中心になって、それに子どもたちもついてくる、というかんじになっていますね。
- 矢吹
- 今日伺ってみて、すごくアットホームだし、年齢層が広くていいなあと思って見ていました。さっきも小さい子が振っていましたけれど……。
- 河原田
- はい。毎年だんだん人が増えてきて。
- 矢吹
- こうして小さい子たちも参加していけば、まただんだん繫がっていきますよね。
- 河原田
- 子どもが来ないとダメなんですよ。あなたはやりました?
- 矢吹
- いや〜、怖くてできないですよ〜。
- 河原田
- 女性もみんなやってますよ。とにかくゆっくり回すといいですよ。やってみますか?
- 矢吹
- う〜……やってみます!
ドキドキしながら、火振りに初挑戦しましたが、地区のみなさんに教わりながら、なんとか振り終えることができました。
その後も、地区の人々や観光客が次々とやってきては火振りをしていくなか、餅つきや温かい食べ物の振る舞いもあり、そこにいるみんなが一つの家族のように感じられる、温かい行事でした。
そして最後に、天筆に火が灯され、この年の行事が締めくくられました。
次回は、また別のかまくら行事、「六郷のカマクラ」をご紹介します。