秋田の伝承学 なまはげ

「秋田といえば」の代表格のひとつ、秋田県男鹿おが市に伝わる「なまはげ」。怖〜い鬼が「泣ぐ子はいねが〜!」と子どもを叱りにくる、そんなイメージが強いこの行事ですが、実はなまはげって、それだけじゃないんです。今月は、そんな秋田のなまはげ行事について学んでいきたいと思います。

講師 真山伝承館、なまはげ館のみなさん

Contents

  • ①なまはげに会いに
  • ②はじめてのなまはげ
  • ③泣ぐ子はいねが〜!!
  • ④心のふるさと

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

①なまはげに会いに

早速やってきた、男鹿おが市。大きなモニュメント、橋、看板など、至るところでなまはげのモチーフを目にしながら、たどり着いたのは「男鹿真山しんざん伝承館」。ここでは、大晦日に行われるなまはげ行事の再現を年間通じて見ることができます。ここに来ればなまはげに会えるということで、この日も関東からの観光客でいっぱい! ドキドキのなまはげの登場を前に、まずは案内役のかたが解説をしてくれます。

男鹿真山伝承館

案内役のかたのお話
まずは「なまはげ」という名前の由来ですが、男鹿地方では、ストーブなどの火にあたっていると手足に付く赤い斑点のようなものを「なもみ」といいます。なもみは、怠けている人によく付きますので、それを剥いでこらしめる、「なもみ剥ぎ」というのが訛って「なまはげ」になったと言われています。

なまはげ行事は、昔は1月15日の小正月の晩に行われていましたが、いまはほとんどの集落で12月31日の大晦日の晩に行われています。地区によって様々ですが、ここ真山地区のなまはげは、3人一組になって歩きます。なまはげが2匹、先立さきだちという予告をして歩く人が一人です。

はじめに、先立が家になまはげを入れていいか確認しに来ます。その年、出産や不幸があった家には、なまはげを入れない風習になっているからです。その後、なまはげが入ってきますが、最初に7回四股を踏んでから、家の中に上がります。

そして「怠け者はいねぇが、泣ぐ子はいねぇが」と言って、戸を叩いたり、大きな声を上げて、家中をくまなく探し回ります。こうして大きな音を立てると、家の中の悪霊が取り祓われると言われています。
家の親方は、お正月ですので、なまはげにお膳を勧め、なまはげは5回四股を踏んでお膳に着きます。その後、親方となまはげとで様々な問答が行われ、それが終わると、なまはげは最後に3回四股を踏んで再び家の中を探しまわります。始めからですと、7、5、3と、縁起の良い数として四股を踏んでいきます。また、真山のなまはげは角がありません。それは、お山の神様だからだと言われているからです。

なまはげが家の中を探しまわっているとき、着ている「ケデ」のワラが落ちますが、そのワラには神様が宿っているといわれ、一晩片付けないで、そのままにしていきます。落ちたワラの中でも、長いものは頭に巻くと賢くなるとか、風邪をひかないとも言われています。ただ、なまはげから引っ張ったワラにはご利益がないそうですので、引っ張らないようお願いいたします。

それでは、そろそろなまはげが来るようですので、お話はこのへんで終わりにしたいと思います。

その後登場したなまはげに、館内は大盛り上がり! この日、観光で来ていたというご夫妻にもお話を伺ってみました。奥さんの長井利子さんのお話です。

長井
よかったです〜! すばらしいですね。ツアーに参加して千葉から来たんですが、ここへ来たのは初めてです。
矢吹
なまはげのイメージ、変わりましたか?
長井
変わりました! 意外にかわいいっていうか、お茶目なんだなって思いました。昔からの伝統のものだから、もっとトゲトゲしたものかと思っていたら。
矢吹
問答も楽しいですよね。
長井
ええ! 私は子どものころに大人から「良い子にしてないと鬼に怒られるよ!」って言われて育った年代だから、「鬼」と言われたときの「うっ!」っとなる気持ちは、こういうことだったんだなあって思いましたね。孫もやんちゃな時期なので、今日の写真を見せてあげようと思います。反応が楽しみです(笑)。

続いて、伝承館の隣にある「なまはげ館」へ。ここでは、なまはげに関する資料映像や、なまはげに変身できるコーナーなどもありますが、なかでも見所なのが、なまはげの展示スペース。男鹿の各地区のなまはげのお面が一同に展示されています。

解説員の太田忠さんのお話
ご覧のようにたくさんのお面が展示されていますが、これらは実際に各集落の行事で使われてきたもので、こちらには、60集落150枚のお面があります。
なまはげには、ご覧のように、決まった顔がありません。集落によって全部違っており、身近にある材料を使って集落のかたが手作りしています。古いものでは、いまから約300年くらい前に作られたものもあるといわれています。また、今でも大晦日の行事の際は、ここから外して使われているお面も約30枚ほどあります。

着ているワラの衣装は「ケデ」といって、毎年新しいものを集落ごとに作り替えます。なまはげは1年間の豊作豊漁を約束してくれますので、豊作になった長い良いワラを使って新しい衣装を作ります。
このなまはげ行事は国の重要無形民俗文化財にもなっておりますが、始まった時期、詳細については明確には解明されていません。

太田忠さん

解説が終わって、改めて太田さんにお話を伺いました。

矢吹
こんなにたくさんのお面があるんですね?!
太田
入った瞬間に、みなさんびっくりされますよね。「あれ? これもなまはげなんですか?」と。赤と青で角の生えたお面、あれしかないと思う方がほとんどなんですよね。
矢吹
私も秋田にいながら、こんなに違いがあるっていうことは知りませんでした。
太田
お面も大事なんですが、私は家の主人となまはげの問答、これが大事だと思うんですよ。ただただ飲んで騒いで、というイメージを持たれやすいんですけれどね。
矢吹
伝承館で見た問答でも、子どもを叱る以外にも、家族の体調の心配だったり、田畑の出来映えについての話も出ていましたね。
太田
ただ叱るだけじゃなく、怠けないで、悪いことをしないで、汗水流して一生懸命充実して生きていきなさい、みんなで助け合って生きていきなさい。そうすることによって、きっと良い年になるよっていう教えでもあるんですよね。
矢吹
なるほど〜。
太田
人としてのあり方、習わし。これだけは時代が変わっても大切にしなさいっていうことなんですよ。だから、子どもだけでなく、大人にとっても大事な行事なんです。だからこそ、これだけ長い間続いてきたんだと思うんですよ。
矢吹
実際、太田さんもなまはげ行事には参加されているんですか?
太田
もちろん! 時代のせいで、やらない家も多くなってきましたけれど。
矢吹
やっぱり、子どもが少なくなってきているからですか?
太田
そうですね。それから、なまはげになる人も少ない、なまはげを断る家も増えている……。家に上げると汚れるし、年末で忙しいからってね。
矢吹
そういう理由で?!
太田
お膳料理を作るのが面倒だからっていう家もありますよね。年に一度、神様の使いが厄払いをしてくれる、新しい年に祝福を与えてくれる、ありがたい行事なんですけどね。汚れるんだったら玄関先だけでもいいんですよ。いまはコンビニやスーパーで売られているおつまみとお酒だっていいんですよ。
矢吹
迎え入れる気持ちの部分が大事なんですね。
太田
そうですね。若いうちは、なまはげが来るのが嫌だという方も多いかもしれませんが、歳を重ねるうちにやはり来てほしいなっていう気持ちも芽生えてくるんですよね。
矢吹
気持ちが引き締まるというか……。
太田
はい。歳の節目にきてもらって、心に喝を入れてもらうといいますか。そして「神様は常にお山にいるんだ」っていう、ある種の信仰心的な部分もあると思いますね。

男鹿真山伝承館、なまはげ館でなまはげの基本を学んだ私たち。次回は、実際になまはげ行事に参加しているかたたちにお話を伺っていきます。

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2. はじめてのなまはげ へつづく

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