毎年2月15、16日は、横手市で「横手のかまくら」が開催されます。この日は、町の至る所に「かまくら」と呼ばれる雪室が立ち並び、その幻想的な風景を楽しみに、たくさんの観光客が訪れます。
会場の横手公園を訪ね、このかまくら行事で、かまくら委員長をされている、横手市観光協会の照井吉仁さんにお話を伺います。
- 照井
- 横手のかまくらっていうのは、歴史としては450年くらいあるらしいんですね。
- 矢吹
- はい。
- 照井
- どういうふうにして始まったかという文献は残ってないんですが、横手っていうのは武士の町で。この地域には横手川ってが流れてるんですが、その川のこちら側が武士の町、向こう側が商人の町だったんです。
- 矢吹
- はい。
- 照井
- それで、武士の町では、小正月に正月のしめ飾りやしめ縄を燃やす、という火祭りがあって。同じような行事で「佐義長」というのが全国的にもありますが、こちらでは、雪の釜を作って焼いていたんですよ。それが由来の一つで。
- 矢吹
- はい。
- 照井
- あと、もう一つは、川向こうの商人の町は、とても水に苦労していて……。
- 矢吹
- 水難があったんですか?
- 照井
- 水難というより、井戸が少なくて水を確保するのに大変だったんですね。それで、水への感謝の気持ち、ありがたいという気持ちで、水の神様をお祀りする行事があったらしいんです。
- 矢吹
- なるほど。
- 照井
- あとはもう一つ、田舎のほうにいくと雪が多いんで、そこに行くと「雪穴」っていって雪に穴を空ける遊びがあったんですよ。
- 矢吹
- はい。
- 照井
- それらが、いつのころからか一つになったんじゃないかと。それぐらいしかわかってないんですよ。それで、神様が暮らす場所、神様がおわしますところという意味で「かみくら」と読んでいたところから来てるんじゃないか、と。
- 矢吹
- へ〜! 他の地域のかまくら行事でも「諸説あるらしいんですが……」っていわれるんですよね。でも、そこがはっきりしないのも、またロマンチックというか……(笑)。
- 照井
- そして先ほどもお話したように、かまくらの中には水神様をお祀りするというのが決まり事なんですが、といっても、どこか決まった神社の神様をお祀りしているわけじゃなくって……。
- 矢吹
- 広~い意味での水神様?
- 照井
- そう。「万物に神様が宿る」じゃないけれども、それでいいわけです。自分の心の、感謝の気持ちなので。
- 矢吹
- いい意味で自由なんですね!
- 照井
- それからね、このかまくらの日だけはね、子どもたちはどれだけ夜更かししても怒られない。
- 矢吹
- ふふふ。
- 照井
- 子どもたちは、かまくらの中に七輪を置いて餅を焼いたり甘酒を用意して。「あまえこ(甘酒)飲んでたんせ〜」って言って、お客さんを招くんですよ。
- 矢吹
- うんうん。
- 照井
- この日は、あたかも一家の主のようになれるわけですよ。子どもだから「(お酒を)飲んでたんせ」っていう言葉は、普通使いませんからね。
- 矢吹
- そうですよね。おままごとで、お母さん役、お父さん役になるような。
- 照井
- そうですね。「大人はこんな言葉を使ってたなあ」とね。そして、子どもにしてみれば、大人を招き入れるということは、お賽銭、お小遣いがもらえると。
- 矢吹
- ふふふ!
- 照井
- そういうのを、子どもも大人も互いにわかってる。お祭りではなく「行事」なんですよね。
- 矢吹
- 子どもはウキウキですね! それにしてもすごいですね、町なかにこんなにたくさんのかまくらがあって。そして想像以上に大きくて、テンションが上がります!
- 照井
- だいたいの規定があって、幅が3.5メートル、高さ3メートル。
- 矢吹
- 「かまくら職人」っていう人たちがいるって聞いたんですが。
- 照井
- はい。今年は20人いて、30歳代後半〜最高齢77歳まで。普段は農業をやってたり、石材屋さんだったりが、冬場の仕事が少ない時期にやっているんですよ。
- 矢吹
- かまくらを作ることを仕事にできるほど、たくさん作るんですか?
- 照井
- 職人だけで、毎年80基ぐらいですかね。
- 矢吹
- そんなに!?
- 照井
- それ以外にも、各家々で作っているものもあるし、企業の協賛のかまくらなんかもあるので、行事の際は市内には約100基あるといわれています。
- 矢吹
- それをどのくらいの期間で作るんですか?
- 照井
- 1ヵ月前の、1月中旬くらいから作り始めてますね。途中、補修して、倒れないようにしながら。
- 矢吹
- 一つ作るのにも、時間がかかりそうですね。
- 照井
- はい。1基作るのに、4人1班で動くんですよ。ローダーで雪を積み上げるのだけで半日。そのあと、3日間くらいはそのまま置いて雪を締めて。それから半日くらいかけて穴を掘ります。
- 矢吹
- レンガ状の雪を積み上げて作っているって思うかたも多そうですよね?
- 照井
- そうですね。形も、昔はかまくらっていうともっとべたっと横長な形だったんだけど、今は縦にひょろ長い形ですよね。
- 矢吹
- それはどうして変わったんですか?
- 照井
- 現代の道路事情なんですよ。道路端に作るんで、車の邪魔になっちゃいけない。450年の歴史のなかで、かまくらの形も、行事そのものも、時代に合わせてどんどん変わっていってきているんですよ。
照井さんから、横手のかまくらについて伺った私たち。
次回は、照井さんのお話を通して、このような行事が行われる背景や、続けていくことについて、学んでいきます。