お土産や、贈答品としていただくことの多い稲庭うどん。手間ひまかけて作られた上質なうどんを、より美味しくいただくためのポイントを伺うため、「佐藤養助商店」の厨房を覗かせていただくことに。ご案内してくださるのは、秋田県稲庭うどん協同組合の山品祐一さんと、佐藤養助商店総本店店長の高倉克司さんです。
- 矢吹
- 稲庭町には工場がたくさんあるように、稲庭うどんが食べられる専門店も多いんでしょうか?
- 山品
- それが意外と少ないんですよ。稲庭町どころか、湯沢市内でさえも専門店は「佐藤養助商店」3店舗しかありません。
- 矢吹
- そうなんですね。こちらに来たら、聖地のようにうどん屋さんだらけなんじゃないかと思っていましたが……。ちなみに、山品さんはどんなふうに食べるのがおすすめですか?
- 山品
- 私はなんでも美味しい(笑)。冷たくても、熱くてもOKです。佐藤養助商店では、温麺とせいろ、両方食べられるメニューもあるので、初めての方にもおすすめですね。せいろも、醤油だれとゴマだれの2種を比べられるものもありますよ。
今日は温麺と冷たい麺、両方を作ってみてもらいましょう。こちらが厨房になります。
- 矢吹
- お邪魔します!
- 高倉
- うちの麺はだいたい3分くらい茹でます。早い段階でかき混ぜると、麺が折れやすいので、くっつかないようにしながら少しずつ混ぜて。家で茹でるときも、たっぷりのお湯で茹でてください。しばらく茹でていると、だんだん透き通ってきます。
- 矢吹
- 透き通ったら、あとはくっつかなくなっていくんですね。
(しばらくして)わ〜! 透き通ってきましたね。最初と全然違う。お〜!さすが、手さばきも早いですね。
(釜から水へ、麺を移す)
- 矢吹
- そして、こちらの水で一気に冷やす!
- 高倉
- 釜から揚げてからできるだけ早く冷やす。うちらは「もみ洗い」って言ってます。そして、さらに氷水で冷やします。ここのスピードが一番大事ですね。その冷やしかたが甘いと、モソモソとした食感になってしまうんですよね。
冷たいのはこれで出来上がりですが、温麺はこのあと、熱湯で湯せんします。
- 矢吹
- なるほど〜。温かいほうも、完全に冷やしてから、もう一度温めるんですね。だから、温かい麺でもきゅっと引き締まった食感が残るんですね。
- 高倉
- やっぱり、冷やすタイミングですね、一番のポイントは。
- 矢吹
- お出汁はお醤油ベースのものですか?
- 高倉
- これは、「かえし」って言って、だし、醤油、みりん、砂糖を煮たものを使っています。この分量はこれまで何度も試行錯誤して変えてきました。温麺の場合は薄口醤油、せいろの場合は濃口醤油を使っていますね。
(盛りつけして)はい、これで出来上がりです。
- 山品
- おいしい稲庭うどんには、麺、茹で方、出汁、この3つが揃わないといけないんですよ。
- 矢吹
- なるほど〜。うわー美しい。やっぱり品がありますね〜。器は湯沢市の川連漆器ですか?
- 山品
- そうですね。
- 矢吹
- いつも気になっているのが、器に盛ったとき、麺がきれ〜いに揃っていますよね? これ、家でやるとああはならないんですが、何か道具でもあるんでしょうか?
- 高倉
- ああ、手ぐしですよね。
- 矢吹
- 手ぐし?
- 高倉
- 盛りつける前に麺を掴む段階で、水の中で泳がせながら、手ぐしを通してやるんですよ。そうすると、麺線がきれいに出るんですよ。やってみますね。
- 矢吹
- わ〜! そうなってるのか〜。両手で、水を絞るようにして盛りつけるんですね。すごいリズミカル! 家でもできるかな……。
- 山品
- 絹女うどんもそうですが、佐藤養助商店のうどんも、すべて、手作りなんですよ。今は機械で作ってるところも多くなってきているんですけれどね。
- 矢吹
- でも、佐藤養助さんは、県内でもとても規模が大きい印象ですが。
- 山品
- それでも、ずっと変わらず手作りで。今は県外で作られたものでも「稲庭うどん」という名前で、しかも機械で作ったものが安く売られていますからね。そうなると、どうしても本場のものとは品質が違ってしまうんですよね。
- 矢吹
- そうなんですね。
- 山品
- それを食べた方に「なんだ、稲庭うどんってこんなものか」と思われては残念なので、こうして専門店では、より美味しく食べていただけるようにして味を守っていかないと。
- 矢吹
- 実際、県外の方々はこちらまで食べにいらっしゃるんですか?
- 山品
- 連休など、多いときで1日900〜1000人いらっしゃいます。
- 高倉
- うどんの量にして、100kg。
- 矢吹
- 100kg!!
- 高倉
- 毎回茹でたものを一気に冷やさないといけないので、1回でだいたい1.2kg茹でるのが限界なので、かなりの回数茹でることになるんですよ……。
- 矢吹
- 美味しさのためとはいえ、大変ですね……。やっぱり産地ということで、みなさんここを目指していらっしゃるんでしょうか?
- 山品
- そうですね。わざわざここまで来て、1〜2時間待ったとしても、食べて帰っていただいています。
- 矢吹
- 佐藤養助商店さんでは、お店の奥で製造の様子を見学もできるんですね。
- 山品
- はい。一通りの工程を見ることができます。今やってるのは「小巻」の作業ですね。
- 矢吹
- 体験もできるんですね。
- 山品
- はい。体験工房があって、事前にお申込みいただければ、一度に30名くらいはできるので、おすすめですよ!
佐藤養助商店さんの厨房で、茹で方のコツを教わった私たち。次回は、早朝の仕込みを見せていただくため、ふたたび、稲庭絹女うどんさんへ伺います。そこで、思いがけず、稲庭うどんの未来を感じられるようなお話を伺うことができました。