秋田の伝承学 花嫁道中

その年結婚する花嫁、花婿を馬そりに乗せて、昔ながらの嫁入りの情景を再現させた行事、花嫁道中。今回は今から32年前の、第1回目のエピソードを伺っていきます。

講師 「ゆきとぴあ七曲」実行委員 菅原弘助さん

Contents

  • ①花嫁道中
  • ②ゆぎふって、えがったんしな
  • ③雪と暮らすということ
  • ④つづけていくために

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。 フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

②ゆぎふって、えがったんしな

矢吹
立ち上げの際は、どういうメンバーで始められたんですか?
菅原
当時、ちょうど町制施行30周年で「うごべこまつり」というのをやったんですけど、そのメンバーでもある地元の役場職員とか商工農の青年たちで。最終的には250人くらいになったんですよ。
矢吹
すごいな〜!
菅原
うご牛まつりは夏に開催したんですが、私は冬の一番厳しいときにイベントをやりたくて。子ども時代はスキーを楽しく滑った経験があったもんですから、七曲峠を通行止めにしてスキーレースをしたら楽しいだろうと思いついたのが「ゆきとぴあ七曲」なんです。当初は、花嫁道中はその前夜祭だったんですよ。
矢吹
そうだったんですか。
菅原
いまはスキーレースはちょっと休んでいて、花嫁道中がメインになっていますけれどね。
矢吹
初回はとくに、ご苦労もあったんじゃないですか?
菅原
道中が通るのが生活道路なんでね。最初は公的な機関、県とか土木とか警察関係とか、そこを説得するのがやっぱり大変でしたね。
矢吹
そうですよね。
菅原
とにかく、会う人会う人に頭を下げてお願いして、電信柱にまで頭下げて……。
矢吹
はははは!
菅原
当時、まだ35歳の若造だったんで、なんの名誉も地位もないですからね。上の人たちからは「素晴らしい発想だ」とか言われるんですけれども、現場の人たちには「そんな話聞いてないよ、できるわけない」って言われてしまうんですよね。だから、何度も直接挨拶に行かないと厳しいんですよ。
矢吹
実際、一番苦労されるのが現場の方ですからね。思いが伝わっていかないと、動いてもらえませんよね。
菅原
七曲峠を通行止めにしたり、馬そりで5時間かけて12キロも歩くなんて言っても、「夢物語だ」って言われましたよ、最初は。「そんなことできるはずがない」って。
矢吹
なかなかイメージできないですよね。
菅原
長年温めてきて10年もかかってますから、自分では当たり前に思ってますけども、常識で考えたらね。
矢吹
そうですよね。
菅原
事務局が羽後町の企画商工課なんで、それには本当に助けられましたけど、全く新しい発想でしたから。振り返ってみると昨日のことのように思い出しますが、あれから32年も経ったんだなあ……。第1回目は、猛吹雪だったんですよ。
矢吹
え~!
菅原
雪で真っ白で。それがまた良かったんですよ。無線で会場と繫がっていて、峠を歩いて来ると、吹雪の音と、実況してくる人の声と、自分たちの荒い呼吸が混ざって。 そして、ゴールの雪まつり会場に到着したときは、1000人くらいの人たちが待っていてくれて。普段は人っこ一人通らないところにですよ! その光景に本当に感動しましたね。
矢吹
わぁ……。
菅原
到着するまで、そんなに村の人がいると思いませんでしたからね……。12キロ歩いてきた馬そりをみんなが囲んで、馬から出る汗もすごいなか、そりから花嫁花婿が出てきた姿を見て、「ああ、これは続くな」と思いましたね。
矢吹
わ〜!
菅原
12キロ歩いてきて疲れたとはいっても、心地よい疲れでね。周りからも「また来年も頼むよ」「いやぁ、感動した」って言われてね。これは、たとえ私がいなくなっても、この行事はきっと誰かが続けていってくれるって思いましたね。(涙ぐんで鼻をすする)
矢吹
うん。
菅原
そして、「ゆぎふって、えがったんしな(雪が降ってよかったですね)」と。こう言われて。
矢吹
わ〜!!
菅原
やっぱり当日は、雪が降らないと困るんですよ。アスファルトが出たり雨が降ったりすると、そりも動かないし、歩きにくいし、風情もなくなりますから。
矢吹
それで「ゆぎふって、えがった」と!
菅原
どんなに吹雪いても、雪があれば最高なんです。
矢吹
素晴らしい転換ですね!
菅原
これは、田代と七曲という自然環境があるからなんですよね……あぁ、涙出てきた。七曲峠は49ヵ所ぐらい曲がるところがあるんですが、国道が広いまっすぐな道だと、こんな行事はできないんですよ。ここしかできないんですよね。
矢吹
うんうん。でも、雪が降る、降らないで、ものすごく左右されるんじゃないですか?
菅原
だから準備はもう、ほとんど当日なんですよ。
矢吹
事前にきれいに整備しても、雪が降ったら埋もれちゃうから……。
菅原
そうなんですよ。行事の最高潮が夕暮れからなんで、キャンドルロードの穴掘りだったり、雪敷きは当日の午前中から。
矢吹
わぁ~大忙しですね。ほぼ1日、2日くらいで全ての準備を?
菅原
そうですね。集中的に……。
矢吹
雪がない年も大変なんじゃないですか?
菅原
そういう年は雪を敷くんですよ。道路の両端に除雪した雪があるので、それを機械や人の手で崩していくわけです。それも町の人たちが率先して協力してくれるんですよね。
矢吹
すごいな〜。でもそれって、みなさんがこの行事に感動したり、楽しもうっていう気持ちがあるからなんですよね。
菅原
そうですね。毎回毎回、感動しますね。
矢吹
う~ん!
菅原
昨年、羽後町にできた「鎌鼬かまいたち美術館」の開館式のときにも、あいさつの中で地域振興局の局長さんが「東北の各行事を見てきましたけど、花嫁道中ぐらい感動した行事はなかった」って言ってくれたんですよ。それはびっくりしましたね。涙が出そうになりましたね。

はじめての開催から今まで、町のみんなの力で開催されてきた花嫁道中。次回は、この行事の最大のポイントである「雪」と、この土地に暮らす人たちの関係について、お話いただきます。

3. 雪と暮らすということ へつづく

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