
前回、「稲庭絹女うどん」の工場を訪ね、うどん作りの工程を学んだ私たち。今回は社長の高橋和彦さんに、作るうえでのこだわりを伺っていきます。
- 矢吹
- こちらは、いつごろからうどんづくりを始められたんですか?
- 高橋
- 昭和42年からですね。ちょうど今年で創業50年なんですよ。うちの親父と爺さんが一緒に始めたので、私は2代目というか、3代目というか……。
- 矢吹
- お父さんやお爺さんがやっているのを見て、ご自身もやりたいって思われたんですか?
- 高橋
- そうですね。気付いたら自分もやっていました。学校を卒業して、4年くらいは秋田市でサラリーマンをしていて、そのあとからなんで、いまで15年目くらいですね。最初は迷いながらだったんですけれど……。

- 矢吹
- こちらの稲庭うどんは「絹女」という名前が印象的なんですが、これはどういうところから付けられたんでしょう?
- 高橋
- できあがったうどんの見た目から、みたいなんですけれど。
- 矢吹
- 絹のような……女性? 色白の秋田美人のようなイメージなんでしょうか?
- 高橋
- そんなかんじだと思います。
- 矢吹
- ははは〜! でも確かに、うどんが並ぶこの光景、本当に美しいですよね。「絹女」と付けられるのも納得です。稲庭町にはたくさんのうどん工場がありますよね。作り方自体は、どこも同じような流れなんでしょうか?

- 高橋
- 効率化のために、工程の一部を機械化しているところはあるかと思います。でもうちは「たくさん作っていこう」というスタンスではなくて「いいものを作ろう」っていうことばかり考えてきた会社なんで。社員は6名だけですし、機械は入れていませんけれど、味のほうは評価していただけているかなって思っています。
- 矢吹
- 味は各社違うものなんですか?
- 高橋
- やっぱり違いますね。一番違うのは、原料の小麦粉。それはそれぞれ独自に仕入れていますので。うちは2種類の粉をブレンドして使っているんですよ。あとは、微妙に麺線が違っていて……。
- 矢吹
- 麺線?
- 高橋
- 麺の平べったさというか、潰し具合いというか……。
- 矢吹
- ほかの稲庭うどんよりも細いように感じますね。

- 高橋
- はい。うちの麺は、平麺は平麺なんですけれど、ある程度厚みを残しているんですよ。麺を潰してすごく平たくする店もあるんですけれど、うちはあえて潰していないんですよ。
- 矢吹
- そうすると、歯ごたえが変わる?
- 高橋
- そうですね。コシも残るし、つるめきも違ってきますね。
- 矢吹
- つるめき?
- 高橋
- ツルツル感のことを、この業界では「つるめき」っていうんですよ。
- 矢吹
- 麺線につるめき。ほんの数ミリ単位の違いなんでしょうけれど、そのこだわりで違ってくるんですね!
- 高橋
- はい。その品質を落とさないようにって思ってやっています。

- 矢吹
- でも、すべて手作りでやっていると、その品質を保つのも大変ですね。
- 高橋
- 加水率とか、麺線をきちんと作っていくところとか、本当にいろいろ繊細なんですよ。年間通して同じうどんを作ろうとしているんですけれどね。
- 矢吹
- こちらは、冬は雪深いうえに、夏はかなり気温が上がりますからね。
- 高橋
- だから、季節によって塩っ気なんかも変えていくんですよ。でもその変えるポイントを少しでも間違えたりすると、一部が太くて一部が細い、みたいなことになるので気が抜けないんです。冷暖房が完璧な施設だったらいいんですけれど……。
- 矢吹
- 常にお天気とにらめっこしながら……。

- 高橋
- 麺線を確認するために定期的に試食もするんですが、そのときは一度に18回ほど麺を茹でるんですよ。
- 矢吹
- へ〜!
- 高橋
- 今日はAさんのとBさんの作ったものを……というかんじに食べ比べてみるんです。同じように作っているように見えるんですけれど、日によって、微妙に太さが違ったりするんですよね。それを常に修正していかないと。
- 矢吹
- それぞれのクセで変わっていってしまうこともありそうですからね。
- 高橋
- 食べ比べるときは、腹っちぇくてね(腹一杯になってね)(笑)。
- 矢吹
- 食べるところを手伝いに来たいくらいです(笑)。

- 矢吹
- できあがったうどんは、地元で消費されているんですか?
- 高橋
- 「いろいろなうどんがあるけど、やっぱり絹女うどんがいい」って買いにきてくれる近所の人たちもいますけれど、うちは県内は1〜2割くらいしかなくて、あとは全部県外。首都圏が多いですね。
- 矢吹
- やっぱり贈答用が多いんですか?
- 高橋
- そうですね。あとは飲食店に使ってもらっているものが多いんですよ。料亭さん、居酒屋さんへ業務用で流通しているものが半分くらいですね。

- 矢吹
- 素材へのこだわりが強いところからも、評価が高いんですね。全国のお客さんからの感想も来ているんじゃないですか?
- 高橋
- はい。印象的だったのが、県外のお客さんで海外旅行が好きなかたがいて、1ヵ月近く旅行に行かれるそうなんですが、そこから帰ってきて、いつも一番最初に食べるのがうちのうどんだって言ってくれて……。
- 矢吹
- そのかたにとっての「帰る場所」なんですね!
- 高橋
- そういうメールをいただいて。嬉しかったですね!
- 矢吹
- そのかた、きっと「最後の晩餐」にも絹女うどんを食べるんじゃないかな(笑)。
ところで、ご相談なのですが、うどんづくりの工程で、今日は見ることができなかった、早朝に高橋さんがお一人で捏ねているという姿、ぜひ拝見したいんですが、後日またお伺いしてもいいですか? やっぱりここまできたら全ての工程を見てみたくなってしまって……。
- 高橋
- こちらはいいんですけれど、朝早いので大変ですよ〜。
- 矢吹
- 朝5時からでしたよね……う〜ん。でも……ぜひ見させてください!

後日、早朝からの訪問を約束した私たち。その様子をお届けする前に、次回は、贈答品としていただくことが多い稲庭うどんの、家庭で調理する際にも役立つような食べ方のポイントを、調理のプロから教わります。