新米が穫れるころ、秋田県民が心待ちにしているのが「きりたんぽ」。炊きたてのご飯を潰して串に付けて焼いた秋田の郷土料理の代表格で、とくに県北地域では、並々ならぬ誇りのもと食べられているように感じます。
しかしその一方、県外で食べられている様子を見ると、豆腐や豚肉が入っているという本場ではあり得ない姿に、もの申したくなることもしばしば。
ということで今回は、全国のみなさんに、「これぞ、秋田のきりたんぽ!」というものを、しっかりとお伝えしていきたいと思います。
文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
まずは初歩的なところから。
今回は「きりたんぽ発祥の地」といわれる鹿角市花輪で「きりたんぽ協議会」の会長をされている、岩船勝広さんを訪ね、その、ポピュラーな食べ方について教わっていきます。
- 矢吹
- まずは「きりたんぽ鍋」に使われる基本の具材を教えていただけますか?
- 岩船
- はい。 まずは鶏出汁のお醤油味のスープ。いまは市販のスープもすごく美味しいんですけど、鶏ガラでとるとさらに美味しいですよ。
- 矢吹
- そうですよね。鶏はやっぱり日本三大地鶏にもなっている、秋田の「比内地鶏」ですか?
- 岩船
- 必ずしも比内地鶏じゃなくてもいいんですよ。でも「地鶏」ですよね。きりたんぽは基本的には農家の料理で、昔は庭で放し飼いしている鶏を使っていたんですよ。だから、きりたんぽ鍋の次の日になると鶏が2羽ぐらいいなくなってるんですよね。
- 矢吹
- へ〜!
- 岩船
- でも、じつは昔、ブロイラー、地鶏、比内地鶏の3つで食べ比べをしたことがあるんですよ。というのも、きりたんぽが発祥したころは比内地鶏っていうものはなかったんですね。でも、きりたんぽそのものは、比内地鶏との相乗効果で人気が出てきたんですよ。それで、発祥の地である鹿角としても新しい地鶏を作れないか? という話になって。でもやっぱり、比内地鶏が美味しかったんですよ。
- 矢吹
- それで、結局は新しい地鶏を作るよりも比内地鶏に?
- 岩船
- 美味しさでは、やっぱり比内地鶏が一番ですね。
- 矢吹
- つづいての具材は……?
- 岩船
- 主に山のものを入れます。まずはキノコ。何でもいいんですけど、シイタケあたりはクセがあるので入れないほうがいいですね。一番いいのはナラタケ。こっちでは「サモダシ」って呼ぶんですけど。でも豪華に見えることもあって、一般的にはマイタケが多く使われてますね。
- 矢吹
- うんうん。
- 岩船
- でも、じつはもっといいキノコがあってね。シメジ系のキノコで、キンタケ、ギンタケってあるんですけど、美味しいのはギンタケ。
- 矢吹
- ギンタケ! それ、聞いたことがあります!
- 岩船
- ただね、なかなか採れないから、採るとみんな自分で食べちゃって、流通されないんですよ。あとはゴボウですね、臭み消しに。
- 矢吹
- ゴボウからもコクがでますよね〜、大事!
- 岩船
- 鶏の出汁、キノコの出汁、野菜の出汁……が鍋を美味しくするんですよね。
- 矢吹
- うんうんうん!
- 岩船
- あとは糸コンニャクが入って。
- 岩船
- そしてもちろん「たんぽ」ですよね。
- 矢吹
- はい! 炊いたご飯を潰して、串に付けて焼いたもの。
- 岩船
- 鍋に入れるときはそのたんぽを切ってください。
- 矢吹
- もともと、棒状のものそのものは「たんぽ」なんですよね? それを切るから「きりたんぽ」。
- 岩船
- そうです。だから、味噌を付けて焼くと「味噌付けたんぽ」。
- 矢吹
- そもそも「たんぽ」って何なんですか?
- 岩船
- 諸説あって、槍の鞘をたんぽと呼んでいてそれに似ているから、という説と、蒲という植物の穂をたんぽと呼んでいて、それに似ているから、という説があるんですよ。
- 矢吹
- へ〜! たんぽもお店によっていろいろありますが、こだわりとかあるんですか?
- 岩船
- 米の潰し具合と、厚さと、焼き具合。あくまで好みになるんですが、鍋に入れるのであれば、潰し具合はやっぱり「半殺し」ですよね。
- 矢吹
- 出た! 半殺し! お米の粒感を半分くらい残すような潰し加減をそう呼ぶんですよね。もともと、たんぽは家庭でふつうに作られていたんですよね。
- 岩船
- はい。最近はもう、買ってきたものがほとんどで、家でやるかたはだいぶ少ないですよ。でも、作るとしたら串は杉でないといけません!
- 矢吹
- やっぱり秋田杉!
- 岩船
- はい。香りが大事なので「数回使ったらもう使わない」という料亭もあるみたいですよ。
- 矢吹
- すごいこだわり!
- 岩船
- そして鍋に入れる場合、厚からず薄からず……でも表面はきちっと焼かないといけません。
- 矢吹
- 入れると崩れちゃうから?
- 岩船
- はい。鍋のときは、真ん中の穴からスープがしっかり染み込んで、でも表面はある程度パリパリ感が保持できるように、焼きたてを放り込むのが一番だと思います。
- 矢吹
- 昔は囲炉裏で焼いていたんですよね? 今は、鍋に入れる前にオーブントースターなんかで焼けばいいですか?
- 岩船
- そうですね。
- 岩船
- あとはネギが入って、そしてセリ! セリは絶対に欠かせない。多めに入れますね。それで、本当に好みなんですけど、私は根っ子まで入れるのが好きなんですよ。
- 矢吹
- はい! 私は絶対に入れます!「セリの根っ子を入れなきゃきりたんぽじゃない!」って、県外の仲間には刷り込んでますから! やっぱり入らないと物足りないですよね。秋田では、スーパーに並ぶセリにはみんな根っ子が付いていますよね。出汁が出るし、食感もいいし。
- 岩船
- きりたんぽってやっぱり、旬のものを食べるための鍋なんですよね。今は年がら年中食べられますけど、やっぱり夏に食べたいって言われても、ネギは固いし、セリもなかなか手に入らないし、たんぽだって米を収穫してから時間が経ってますからね。食べるならやっぱり今頃、秋ですよね。
- 矢吹
- 今、ほんとに美味しいですからね。
- 岩船
- 「新米が穫れて数日間のきりたんぽが一番美味しい」なんて言う人もいますよ。
- 矢吹
- そんなに短い期間?!
- 岩船
- 私にはそこまでの違いはわからないけどね(笑)。
ああ、想像しただけでお腹が鳴ってきました……。岩船さんにきりたんぽ鍋の基本を教わったところで、次回は、鹿角市花輪が「きりたんぽ発祥の地」と呼ばれるその所以を伺っていきます。
<11月3日は鹿角市で「きりたんぽ発祥まつり」が開催! 詳しくはコチラ!>