食と暮らし学 もろこし

前回は「郷土菓子司 勝月」でもろこし作りの工程を学びましたが、今回はいよいよ「もろこしの歴史」を紐解きたいと思います。もろこし講義最終回は、もろこしの元祖として知られる「杉山壽山堂すぎやまじゅさんどう」にお話を伺います。

講師 杉山壽山堂 土田昭子さん

文=高木沙織

写真=鍵岡龍門

秋田銘菓「もろこし」の未来は?

もろこしの「元祖」へ

第1回の調査中に図書館で出会った本『お菓子の歴史』に書かれていた「初代杉山良作がこの地方特産のあずきを粉末としてこれに加えて作り、以来、幾星霜いくせいそう改良を加えて今日に至った」という記述。その「杉山良作」さんこそが「杉山壽山堂」の初代なのです。

今回は、この杉山壽山堂で20年以上働いてきたという土田昭子さんにお話を伺います。

「何も残っていない」

土田
実は、初代から代々継いできた杉山家はもうお店を手放されていて、今は別の会社で引き継いでいるんです。
高木
そうなんですね。引き継いだときに、何かしらの資料も受け継がれたのでしょうか?
土田
それが、私も杉山家の子孫の女性に何度かお会いしたことはあるんですが「私が子どもの頃に聞かされたのは、明治時代に蔵に火がまわって資料が全部焼けて何も残っていない」っておっしゃられて。
高木
え!?
土田
秋田市の半分以上を焼き尽くす大きな火事があったらしいんですね(注:明治19年の俵屋火事)。だから、子孫の方にも「お見せできるものがまったくないんです」と言われていて。
高木
そうだったんですね。もろこしって、これだけ今も秋田での存在感が大きいのに、誰に聞いても詳しいことはわからなくて、さらに詳しい文献もなかなか見つからないから不思議だったんです。
土田
杉山家はその後、3代ほど続いたと聞いていますけど、その確かなところは私もわからなくて。

「金槌で割るくらい硬いの」

土田
もろこし自体は、時代とともに代々工夫されて変わってきてると思うんですよね。例えば、お客さんで「金槌で割るくらい硬いのは、今はないのか?」って言われる方がいますけど、それくらいに昔は硬かったと思うんです。
高木
金槌で割るほど! 味も変わってきているものですか?
土田
昔はもっと甘かったかもしれません。
高木
昔は「甘い」イコール、高価な砂糖をたくさん使えるという豊かさの証でもあって、特に秋田では「甘いこと」自体に価値がある、とされることが多かったと聞きました。
土田
お砂糖が貴重なものだったから、「甘いからおいしい」っていう時代があったと思うんですね。でも、時代に合わせて甘みも加減されてきたと思いますね。
高木
県外の私からすると、今のものでも甘みが強い感じがして、正直、大きなサイズのものは、食べ切るのは大変でした。
土田
そういうこともあってか、今は、大きさも小粒の食べやすいサイズが中心になってきていますね。

「もろこしがいい」

高木
最近は、どんな方が買っていかれますか?
土田
うちのお客様の大半は首都圏や全国(北は北海道、南は熊本まで全国約25都道府県)の百貨店です。地元の方は自分たちで食べるというより親戚とかに送ってあげたり、県外に住む秋田出身の方が懐かしんでお電話で注文くださることも多いですね。
高木
やっぱり、地元の人、特に若い人たちは、離れてしまっているものでしょうか? 昔は「諸々の菓子を越えて」おいしいとされたものが、今は「諸々の菓子に越されて」しまっているような……。
土田
そういう部分もあるかもしれませんね。それでも、もろこしは地味ながら確かに続いてきてるんですよ。地元の小学校の給食でも「郷土のお菓子」として出すこともあるようです。だから、私もびっくりしたんですけど小学生でも、もろこし好きな子がいるんですよね。
おばあちゃんに連れられてきたお子さんが「欲しいもの買ってあげるよ」って言われて、「もろこしがいい」って。おばあちゃんが「他にももっといろいろあるよ」って言ってもその子はかたくなに「もろこし、もろこし」って。
高木
そうして、またつながっていくのかもしれませんね。
土田
私自身も、昔からそこまで、もろこしが好きというわけではなかったです。でも、あらためて食べるとこんなにおいしかったんだなって思います。そういう言葉は、ほかの人からもよく聞きますね。「もろこしなんて」って思ってたけど、久しぶりに食べたら、こんなにおいしかったって。

求めていた歴史の情報は、大火に見舞われ灰になってしまった。その事実はとても残念でしたが、300年という長きにわたって秋田で愛され続けてきたのは、きっと時代に合わせた変化が重ねられてきたからでしょう。
とはいえ、もろこし作りをやめたお店の話、職人の後継者不足などの問題もあり、その文化が途絶える危機すら感じられる今、あらたな変化の時期が来ているように感じます。
おみやげとしての役割や県外での需要はいまだあるというなかで、次の変化の可能性は足元にあるように思えます。今の時代、これだけ多様なお菓子やお土産がある中で、どうしたら秋田の地元の人たち、特に若者たちに選んでもらえる「もろこし」になるのか……新しいもろこしの姿を求めて試行錯誤していくことが、未来へとつながるのかもしれないと感じました。

  • 食と暮らし学 もろこし 終わり

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