文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
お母さんたちの見事なヘラさばきに感動した私たち。
どうしても自分たちもやってみたい! と、千釜一さんにお願いした末、
バラ盛りに挑戦させてもらえることになりました。
- 千釜
- 見学に来た中学生だってみんなでぎるがら大丈夫。
- 矢吹
- 負けられないな〜(笑)。とりあえず、気合いのほっかむりだけはしました。よろしくお願いします!
- 千釜
- アイスは柔らかすぎると厚くなってバラにならない。固すぎてもダメ。少し溶げだぐらいがちょうどいいんだ。こうやって……。
- 矢吹
- は〜! 途中から縦向きに盛っていくのか〜。そうやっていくとバラっぽくなっていくんだ……。でも……千釜さんより枝美子さんのほうが上手ですね(笑)。
- 千釜
- あの人はうまいものな。
- 矢吹
- ヘラに付けるときのコツはあるんですか?
- 千釜
- この、缶の脇にヘラをこするかんじで。やってみれ。
- 矢吹
- なるほど〜。この内側のヘリにね。まだ何を教わったかもよくわからないんですが……。まずは実践、やってみます! このヘリにこすって……。
- 千釜
- カップの真ん中を埋めで。
- 矢吹
- 少しずつ……縦向きに……。枝美子さん「左手はやんわり持つ」って言ってたっけ?……難しい〜! お母さんたちはみなさんこういう講習を受けるんですか?
- 千釜
- みんな自分がだで覚えるんだ。あ! それ、2回やればダメ。ヘラに付けた分は、1回で盛らないとバラにならない。
- 矢吹
- なんですって!? それ、早く言ってください! え〜全然バラじゃない……。
- 千釜
- だんだんよ。
- 矢吹
- なんか四角いもんな〜。しかも、枝美子さんのは黄色とピンク、きれいに別れてた。私のは汚いバラです……。
- 千釜
- 一回目でこれだばいいほうだ。
- 矢吹
- いいほう!?
- 千釜
- いい、いい、いい。
- 矢吹
- お母さんたちがいかに上手いかがわかりますね。
悔しいな〜。でも、不細工だけど美味しい。
- 千釜
- 3日もやれば慣れる。
- 矢吹
- まあ、十何年やってる人たちをいきなり越えちゃったら悪いからな〜(笑)。でも、お母さんたち、暑い中ありがたいですね!
- 千釜
- あのパラソルの下は意外と涼しいんだ。その代わりパラソルは高いから。
- 矢吹
- ははは〜。
- 千釜
- 普通のパラソルど違うもの。去年、二十数本、全部取り替えだ。
- 矢吹
- 勝負かけてますね。千釜さん、ここの跡取りは?
- 千釜
- 息子いるけども、これで食っていぐってば大変だ。県内では売り上げが昔の3分の1になってる。
- 矢吹
- 何が原因なんでしょう?
- 千釜
- 慣れだな。
- 矢吹
- 「食べたことあるから買わなくていいや」っていう?
- 千釜
- んだ。
- 矢吹
- やっぱり、県外に出していかないといけないんですね。
- 千釜
- 関東ではすごい売れでるんだ。向こうのレストランなんかに。今に飽ぎられるど思うけどな。
- 矢吹
- いやいやいや。40年続けてきて、どうですか?
- 千釜
- この仕事、辞めないでここまで来れだごどは、いがったど思う。
- 矢吹
- 夏はアイスを売って、冬はどうされてるんですか?
- 千釜
- 10月なれば八郎潟に白魚獲りにいぐの、12月がらは男鹿でハタハタ漁。そして1月がらは秋田市で除雪。
- 矢吹
- 忙しいですね。いろんな仕事もしながら、本職のババヘラは続けている、と。
- 千釜
- そう。やっぱり辞められない。昔がら働いでくれでる人だぢいるもの。オレが大変などぎがら一生懸命手伝って、がんばってくれでるもの。自分の都合では辞められない。
- 矢吹
- そうか〜。
- 千釜
- 去年まで、84歳の売り子の人がいだけど、オレがらは「辞めれ」っては絶対に言わない。本人がら「歳だがら……」ってない限りな。
- 矢吹
- うんうん。若い人がやりたいって入ってきたらどうですか?
- 千釜
- 雇うよ。
- 矢吹
- 来るもの拒まず、辞めるようにも言わず……。
- 千釜
- んだ。おめ、一回アルバイトさ来ぇばいい。
- 矢吹
- お〜! 面接基準はあるんですか?
- 千釜
- ない。
- 矢吹
- でも、やり始めたら私が辞めるっていうまで辞められないんだね(笑)。時給制なんですか?
- 千釜
- 1日計算。そして、いっぱい売ってくればさらに歩合制で。だがら、ちょっと良い所さ行げば、1日2万円くらいは儲かるよ。
- 矢吹
- お〜! いいなあ。
- 千釜
- お盆はどごさ行っても、最低1万円以上は儲かる。アイス売ってる人だぢみんな主婦で休んでるがら。
- 矢吹
- その反面、帰省してきた人たちは懐かしくって食べたいですもんね。じゃあ、お盆にバイトに来るか〜(笑)。
(夕方、今日の販売を終えたお母さんたちが次々と帰ってくる)
- 矢吹
- 枝美子さん、おつかれさまです! あのあとどうでしたか?
- 枝美子
- あれから30人くらいの団体さんがきて。
- 矢吹
- え〜! 30人!? 一気に30個盛ったんですか?
- 枝美子
- ええ。
- 矢吹
- すごいー! でも枝美子さんのスピードだったらあっという間なのかな。さっき千釜さんからバラ盛り習ったんですけど、枝美子さんみたいには、とうてい無理でした……。
- 枝美子
- ヘラに付けるのも大変でしょ? やっぱり数やらないと。
- 矢吹
- はい……バイトしにこないと。
- 枝美子
- ふふふ。それじゃあ、どうもお疲れさまでした〜!
- 矢吹
- 今日はありがとうございました! 明日もお天気良さそうだから、たくさん売れそうですね!
- お母さんたち
- 明日もがんばるよー!
秋田の大定番、ババヘラアイス。そのかわいらしさや美味しさは、働き者のお母さんたちあってこそのものと実感し、道路端のパラソルが、以前に増して誇らしく感じられるようになりました。
最後に、船橋枝美子さんの見事なバラ盛りを、動画でご覧ください!
ちがま冷菓のみなさんの言葉が
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