


文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
ババヘラアイスは、どんな人がどんなふうに買っていくの? その様子を見させてもらうべく、男鹿市鵜ノ崎海岸で販売をする、船橋枝美子さんの売り場にお邪魔した私たち。枝美子さんとお話していると、早速、この日最初のお客さんがやってきました。

- 枝美子
- おはようございます〜。
- 矢吹
- どちらからですか?
- お客さん
- 岩手からです。
- 矢吹
- アイス、食べたことありました?
- お客さん
- いや、ないです。
- 矢吹
- お! 初のババヘラなんですね。存在は知ってましたか?
- お客さん
- はい。
- 枝美子
- 知らない人はいないですよね〜! 今日は釣り?

- お客さん
- はい。昨日から秋田に来て、秋田市内に泊まって。年に1回来てるんで。
- 矢吹
- 何が釣れるんですか?
- お客さん
- サクラマス釣りに来たんですけど釣れないんで、今日は男鹿の海で釣ってから帰ろうかと。
- 枝美子
- 釣りが盛りだからね、今は。
- 矢吹
- わ〜バラになってきた! 美しい……。これ、バラ盛りっていうんですよ。知ってました?

- お客さん
- あ〜!
- 枝美子
- 特別にいっぱいね。最初ですからね。ありがとうございます、200円です。
- 矢吹
- 初のババヘラ、どうですか?
- お客さん
- 美味しいです! さっぱりしてて。
- 枝美子
- ありがとうございますー!

(続いて、お客さんがやってくる)
- お客さん
- おはようー。
- 矢吹
- 常連さんですか?
- 枝美子
- そうです。いっつも私にもごっつお(ごちそう)してくれるんですよ。
- 矢吹
- アイスは毎週買いにくるんですか?
- 枝美子
- これから暑くなってくると毎週だね。
- お客さん
- オレは早いんだ。何しに来るかっていうと、ここの海岸のトイレ掃除。
- 矢吹
- そうなんですかー! ご苦労様です。

- お客さん
- ほら。あなたたちも食べて。
- 矢吹
- えー! 私たちにも!? ありがとうございます! この景色の中で食べるのも最高ですね!
- 枝美子
- ですよね〜。
- 矢吹
- こういう常連さんとのやりとりも嬉しいですね。
- 枝美子
- 私、いつもここにいるからね。この前は魚ももらってね。美味しかったよ。
- お客さん
- それじゃあね〜。
- 矢吹
- ごちそうさまでしたー!
(車でお客さんがやってくる)

- お客さん
- おはよう〜。
- 枝美子
- おはようー! 今日は寄らないのかなあと思って時計見でだんだよ。
- 矢吹
- このかたも常連さん!? すごいなー。関所のように人が来る!
(車の助手席に乗っているおじいさんに向かって)
- 枝美子
- お父さん、おはよう!

- 矢吹
- お父さん、いつもアイス食べてるんですか?
- お客さん
- おう! 何十年と食べでる。他のは買われねぇ。1週間に1回食べるんだ!!
- 矢吹
- お父さん、おいくつですか?
- お客さん
- もう90歳になる!
- 矢吹
- えー!? 元気!
- お客さん
- (大声で)今日も元気で、声高げぇど〜! ♪アイヤサ〜〜〜!
- 矢吹
- わ! 歌い始めた!!
- 枝美子
- 奥さんが入院してるのよ、それで毎週病院にお見舞いに行く途中に寄ってくれるの。
- 矢吹
- ファンがいっぱいいるんですね。あ、またお客さんかな。山形ナンバーだ。

- 枝美子
- こんにちは〜。
- お客さん
- 5つください〜!
- 矢吹
- ご旅行ですか? どちらから?
- お客さん
- 山形の東根から。
- 矢吹
- このアイス、食べたことありますか?
- お客さん
- はい。「(ババヘラが)いないかな、いないかな、いないかな」って探してたらここにいた! 途中の道の駅にもあったんだけど、それは建物の中にあって、それじゃあなんか風情がない感じがして。
- 矢吹
- やっぱり道路沿いにいないと……ってね。

- お客さん
- わ〜きれいだ〜!
- 枝美子
- 昨日は男鹿に泊まったんですか?
- お客さん
- はい。(車にいる仲間に向かって)みんな〜降りて来て〜!

- 枝美子
- じゃあ、まず2つ。どうぞ。
- お客さん
- わ〜!! いただきま〜す。念願の!
- 矢吹
- 山形にこういうアイスは?
- お客さん
- ないですよ〜。さっぱりしてて美味しいし、綺麗でね〜。

- 矢吹
- 今日はこれからどちらに行かれるんですか?
- お客さん
- もう帰り道。今、ゴジラ岩(男鹿名物のゴジラ型の岩)も見てきてね。毎年、男鹿に泊まりに来てるんですよ。
- 枝美子
- そうですか〜ありがとうございます。また来年もお待ちしてますね。
- お客さん
- ごちそうさま〜!
- 矢吹
- こういうやりとりがあると辞められないですね。
- 枝美子
- 「ああ、去年来てた人来ないな、どうしてるかな……」とか思いますね。
- 矢吹
- 来る側にしても「いつものおばちゃん、また会えるかな?」とかね。
- 枝美子
- そういうのあるね。
その後も続々お客さんがやってくるなか、他の売り場のお母さんたちの様子も知りたくなった私たちは、同じく男鹿市の観光道路「なまはげライン」の前で販売する、加藤つたえさんの売り場へ向かいました。

- 矢吹
- おつかれさまですー。どんなかんじですか?
- つたえ
- まあボチボチですかね。
- 矢吹
- ここは暑そう!
- つたえ
- そう、日陰が全然できないからね。パラソルはあるからまだいいけど、今日みたいに暑いと、アスファルトの照り返しが暑くて座ってられないの。だから立ってないと。
- 矢吹
- お天気次第のお仕事ですもんね〜。
- つたえ
- 雨降ったときはもっと大変。途中で雨降ると迎えが来ないから、その時は困る。雷鳴ったりすると一番怖い! このパラソルがあると逆に怖いし。
- 矢吹
- そうか〜。あ〜!!! 観光バスが来た! わっ! 別の車も来たよ! こういうボーナスステージみたいなのがあるんだ! つたえさんだけで大丈夫かな……。

- 矢吹
- みなさん、県外からですか?
- お客さん
- 岩手県から。
- 矢吹
- 嬉しい限りですね。
- つたえ
- ほんとに。

- お客さん
- 岩手のほうだとこういうアイス、ないんですよ。今日は暑いからね、食べたかった〜!
- 矢吹
- つたえさん、すごい手さばき。だいぶ作ったけど、あと10個!? まだまだだ〜!
- お客さん
- いま稼がないとね(笑)。腱鞘炎になっちゃうんじゃない?
(十数個やっと作り終えて)
- つたえ
- はい、どうも〜。
- お客さん
- ありがとうございますー!!




- 矢吹
- いや〜、一気にいっぱい来て大変でしたね。スリリング!
- つたえ
- ほんと。1台寄ればみんな寄るのよ。なのに、誰も停まってないと、もう素通り。だから、ああいうふうに寄ってもらえるのはいいのよ。あんなふうにはなかなか来ないのよ〜。
- 矢吹
- よかったよかった〜。私だったら、あんな十何人も来ちゃったら「ごめんなさい」って言うしかないですよ〜。
- つたえ
- でも、話ししながらやってれば、みんな待っててくれるから。私も最初のうちは「まだ始めたばっかりで……」って言えば、みんな合わせてくれたよ。
- 矢吹
- コミュニケーションですもんね。
- つたえ
- そう。でも、昔はただ山みたいに盛るだけだったんだけど、最近ですよ、バラ盛りなんて。ああいうふうにたくさん来れば、最初の人が「バラ盛りにして」って言えばみんなそうしなきゃいけないからね(笑)。
- 矢吹
- どんどんレベルアップを求められちゃうんですね(笑)。つたえさん、今日もこれからまだまだありますけど、がんばってくださいね。ありがとうございました〜!
- つたえ
- はーい!
お客さんたちとの楽しいやりとりと、お母さんたちの見事な手さばきに感動した私たち。見ていたら、どうしても自分たちでもやってみたくなり、千釜さんにお願いして、バラ盛りに挑戦させてもらうことになりました!
