2月15日。やって来たのは美郷町六郷。この日は「六郷のカマクラ」の最終日。六郷のカマクラは、豊作祈願の火祭として700年余りの歴史がある小正月行事で、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。
行事は毎年2月11日から始まり、5色の短冊を繫げた長い紙に願い事を書いて青竹に吊るして飾る「天筆書き」から始まり、各町内にはカヤで屋根を覆い「鎌倉大明神」を祀った雪室「鳥追い小屋」などが作られます。
期間中は、イベント会場で一般客や観光客も天筆書きをすることができ、全国に向けて代筆サービスもあり、雪で真っ白な町がカラフルな天筆で彩られます。
15日の夜は諏訪神社前の「かまくら畑」を会場に、行事のクライマックスを飾る「天筆焼き」と「竹うち」が行われます。
「天筆焼き」では、各町で書いた天筆が一同に集められ、正月の注連飾りなどを焼く「ドンド焼き」の火とともに焼かれます。
「竹うち」では、町を南軍・北軍の二手に分け、男衆が長さ6mほどの青竹を振り下ろして打ち合い、北軍が勝てば豊作、南軍が勝てば米の値が上がるといわれています。
これら、2月11日から15日までの一連の催しを「六郷のカマクラ」というのです。
夜7時。「天筆焼き」と「竹うち」が始まる直前。北軍の町内の一つ、旭町を訪ねると、出陣式のために男衆が集まり始めていました。
- 矢吹
- すごいヘルメットですね〜! 水中メガネまで持ってる! 完全防備。これ、ご自分のなんですか?
- 男性
- はい。私のです。
- 矢吹
- 毎年これで参加しているんですか?
- 男性
- いえ、私は今年初めて参加するんですよ。出身は大阪で、秋田には仕事で来てるんですよ。
- 矢吹
- そうなんですか! どうですか? 初めてのご参加は。
- 男性
- すごく楽しみです!
- 矢吹
- 緊張しませんか?
- 男性
- 岩手県の「蘇民祭」っていう祭りにも毎年参加していて。
- 矢吹
- うんうん。
- 男性
- 一歩間違えるとケガしてしまうような、ものすごく荒々しい祭りなんですけど、楽しいんですよ。
- 矢吹
- それが、楽しいんですね!
- 男性
- ……と言いながら、始まったら思いっきりやられちゃうかもしれませんけどね(笑)。
- 矢吹
- ははは〜! おっ、出発の時間ですね!
- 旭町の代表者
- 去年も勝ったので、今年も勝ちましょう! みなさん、ご唱和お願いします。今年も南軍を打ち倒すぞ!
- 一同
- おー!
- 代表者
- 押しつぶすぞ!
- 一同
- おー!
- 代表者
- 頑張りましょう!
長い竹を担ぎながら会場へ出陣。途中、町内のかたにお話を伺います。旭町の荒田耕司さんです。
- 矢吹
- 始まる前は緊張するものなんですか?
- 荒田
- 大いに緊張します!
- 矢吹
- 闘争心が湧いてくるんですかね?
- 荒田
- んだな。会場に行ぐどぎがらだな。
- 矢吹
- じゃあ、いままさに!
- 荒田
- 胸ときめいでる!
- 矢吹
- 年に一度のことですからね。私も竹うちは初めて見るので、胸ときめいています! 荒田さんは、竹うち暦何年くらいなんですか?
- 荒田
- あ〜、私は40〜50年なるな。
- 矢吹
- 若い頃からずっと参加して……?
- 荒田
- 毎年これに出なければ、年が始まらないっていう感じだな。使う竹は、今は昼間のうちにほとんど車で会場に持って行っちゃうんだけど、昔は今よりももっと多い数を、担いで会場に行ったんだよ。それで自分の陣地を決めて、竹を置いておくわげ。私はその竹の番兵なわげだ。
- 矢吹
- 番兵? 竹の見張り番ですか?
- 荒田
- んだ。闘ってる最中に、相手側だったり、見ず知らずの人に竹を取られないように。
- 矢吹
- なるほど〜。今年は勝てそうですか?
- 荒田
- さあ〜。わがらねえな(笑)。
- 矢吹
- 勝敗はどうやって決めるんですか?
- 荒田
- 押されだほうが負げよ。全部で3回やって、2勝したほうが勝ち。
- 矢吹
- でも、ここ数年は北軍が勝ってるんですよね? 何が勝因なんですか?
- 荒田
- やっぱり人数なんじゃないの? 昔はヘルメットなんか被らないで、頭にコブつけでやったもんだども。
- 矢吹
- えー!! ケガするでしょ?!
- 荒田
- ボコボコよ。
- 矢吹
- でも、それが勲章なんですか?
- 荒田
- そう、勲章。
- 矢吹
- 福を授かったような。
- 荒田
- んだ。コブでぎで、1ヵ月も痛がった。今はそんなバガいねぇがら。
- 矢吹
- 痛みも忘れて夢中になってしまうんでしょうね……。(会場に近づいて)いよいよ始まりますね!
- 荒田
- 始まりますね。今は人数が不足になったがらよぉ。
- 矢吹
- 今でもかなりいるように感じますけど。
- 荒田
- いや〜、少ない少ない。昔は何千人といだもんだがら。
会場に着くと盛大に花火が打ち上げられ、竹うちが始まります。
2回戦まで行った後、会場中央で「天筆焼き」が行われると、炎の灯りとともに5色の短冊が輝き、会場は一気に華やかに。炎は高く燃え上がるほど、願いが叶うといわれています。そして、激しく炎がゆらめくなか、3回戦が始まります。
「ボエー」という木貝が吹き鳴らされるなか、無数の人と竹が激しくぶつかり合い、バリバリと大きな音を立てますが、次第に竹が絡まり合うと、人と竹が大きな渦のようになって押し合いが始まります。その激しい戦いを、動画でもご覧下さい!
しばらくすると終了の合図が鳴り、勝敗の発表です。結果はなんと、引き分け。例年、北軍が勝てば豊作、南軍が勝てば米の値が上がると言われているなか、今年は「豊作で、米の値段が上がる」とのこと。まさかの結果に驚きつつも、今年の行事が幕を閉じました。
「六郷のカマクラ」は、願いを込めた天筆が町を彩る穏やかな雰囲気と、竹うちの荒々しい雰囲気を一度に味わうことができる、表情豊かな行事でした。
次回からは「かまくら」といえばでおなじみの「横手のかまくら」についてお伝えしていきます。