文・鈴木いづみ
写真・鍵岡龍門、高橋希
鈴木いづみ/岩手県一戸町出身・盛岡市在住。30代半ばでいきなりライターになり8年目。「北東北エリアマガジンrakra」をはじめとする雑誌、フリーペーパー、企業や学校のパンフレットまで幅広く(来るもの拒まず)活動中。
佐藤玲さんのお店「佐藤勘六商店」でいちじくをいただいていたら、近くに住む須藤聖也さんが顔を出してくれました。代々いちじくを栽培している家で生まれ育った聖也さんは、現在29歳。若手のいちじく生産者たちで結成された「いちじくボーイズ」の中心メンバーでもあります。
- 鈴木
- 聖也さん、いつからいちじくの栽培を?
- 須藤
- 俺が手伝いを始めたのは7年前ですが、うちでは50年ぐらい前からいちじくを栽培しています。ひいじいさんが小遣い稼ぎで育てたのが始まりで。
- 鈴木
- じゃあ、聖也さんは4代目だ。小さい頃からいちじく食べてたんですね?
- 須藤
- いえ、甘露煮は苦手で。まずあの匂いがだめ。生なら食べるけど。
- 鈴木
- さっきの「おにぎり亭」でも同じようなこと言ってたな……。でも、好きじゃないいちじくの栽培を手伝おうと思ったのはどうしてですか?
- 須藤
- うちは兼業農家なんですけど、祖父が定年退職後にいちじくの木を増やしていって、俺が社会人になるころには結構な規模になってたんです。でも祖父母は足腰が弱くなり始めてきたし、両親は平日仕事だから週末しか畑に行けない。自分はシフト制勤務で平日休みがあるから、じゃあ手伝おうかなって。
- 佐藤
- でも最初はイヤイヤだったでしょ(笑)
- 須藤
- はい(笑)
- 鈴木
- どんなところがイヤだったんですか?
- 須藤
- 朝起きるのがつらい。まだ真っ暗なうちに起こされて、明るくなってきたのと同時に収穫を始めて。じゃないと、出荷の時間に間に合わないから。
- 鈴木
- その日に出荷しないと悪くなっちゃうんですものね。聖也さんのところは、どのぐらいの規模なんですか?
- 須藤
- ざっくり数えて500本ぐらいかな。
- 鈴木
- すごいー!
- 須藤
- 今の規模になったのはここ1、2年ぐらい。父親が今53歳なんですけど、「いちじくやりたい」って早期退職して。
- 鈴木
- お父さんは今専業でやっているんですね。それは、いちじくに可能性を感じているからなんでしょうか。
- 須藤
- そうだと思います。
- 鈴木
- 聖也さんも、それは感じていますか?
- 須藤
- そうですね。今「安心安全」っていうキーワードで、地産地消とか、産地のものが注目されてるなと思っていて。県や市にも目をかけてもらって盛り上がってきているから、やるなら今しかないかなって。
- 鈴木
- 最初はイヤイヤだったけど……。
- 須藤
- はい。朝早くてイヤだなあと思うけど、おもしろいこともあったりするし。例えば、自分が手をかけたいちじくが大きく育った時のうれしさとか。あと、いちじくが注目されるようになって、いろんな人に話しかけてもらえるようになったり。
- 鈴木
- へえ〜、例えばどんな人に?
- 須藤
- 今まで話したことがなかった会社の人とか。去年の「いちじくいち」で俺を見かけたらしく、次の日「家でいちじく育ててるんだね」って。ほかにも、今までは知り合いになり得なかったような人たちとつながりができたり。こんな風に取材とかも(笑)
- 鈴木
- いちじくがいろんな縁を運んできてくれるんですねえ。
- 須藤
- そう思います。
「いちじくいち」とは、2016年9月ににかほ市で初開催されたマルシェイベント。地元生産者による生いちじくの販売を中心に、秋田県内外の飲食店や雑貨店も出店。いちじくの甘露煮ワークショップ、音楽ライブなども行われました。玲さんと聖也さんは、その「いちじくいち」の実行委員会メンバーでもあります。
- 鈴木
- 「いちじくいち」、予想以上の反響だったと聞きましたよ〜。
- 須藤
- あれは本当、大変だったっす(笑)
- 鈴木
- 何人ぐらいお客さん来たんですか?
- 佐藤
- 始まる前は「2日で1000人ぐらい来てくれたらいいねえ」なんて話していたんだけど、オープンしたら5000人の来場がありました。
- 鈴木
- わおー!5倍!
- 佐藤
- イベントの数日前から、ウェブのCM動画の再生回数とか、ワークショップの予約状況を見て「やべえ」って思い始めて。いちじくいちに参加する生産者の分だけじゃ足りないって思って、集落の有線放送で「ぜひみなさんのいちじくを勘六商店に出してください。お願いします」って呼びかけました。
- 鈴木
- それで、集まったんですか?
- 佐藤
- はい、みんな持ってきてくれました。それでも全然足りなかったけど(笑)。「ひとり何キロまで」って制限を設けた販売にしてもあっという間になくなっちゃって。買えなかったっていう人がたくさんいて、申し訳なかったなと。
- 須藤
- もう、いちじくを会場に持って来た瞬間から忙しかったもん。お客さんの勢いがすごくて(笑)。
- 佐藤
- もともとは、地元の生産者たちだけで、小さいテントを構えて直売会をやるっていうアイデアだったんです。それぐらいが自分たちでできる限界だから。そんなとき、秋田市で編集やイベント企画をしている仲間に相談してみたら「だったらマルシェイベントにしましょう」って。
- 鈴木
- いきなり規模が大きくなった(笑)
- 佐藤
- でも、親世代はピンとこないわけですよ、「マルシェっぽい感じ」って説明しても(笑)。でも聖也が「やる」って言ってくれて、それに続くように生産者の息子や孫世代が「ボーイズ」として動いてくれた。僕だけが「やろう」って呼びかけてもダメだったと思う。
- 鈴木
- 聖也さんを中心に若い世代が動いてくれたから、年配の方々も付いてきてくれたんですね。参加した生産者さんの感想はどうでした?
- 須藤
- みんな「やってよかったな〜」って言ってました。自分としては、あの賑わっている光景をじいさんに見せることができたのもよかったって思う。苦労してきたから。
- 鈴木
- おじいさんも会場にいらしていたんですね。
- 須藤
- あの日はどこの生産者さんも家族総出で対応してました。いつもの出荷より早い時間に収穫しなくちゃいけなかったし、家族が団結しないと乗り越えられない状況だったから。
- 鈴木
- 「いちじくいち」で、家族がより団結したっていう……。
- 須藤
- そう。ひとつにまとまった。
- 鈴木
- ああ、すごくいい話ですね……!
- 佐藤
- あの盛況ぶりをみて、みんな「どんだけポテンシャルあるんだ、いちじく」って、思ったよね。
- 須藤
- 次の日にSNSを見たら、タイムラインが「いちじくいち」の話題でもちきりでした。みんな実はいちじくが好きなんだなって。なんだよ、もっと早く言ってよ、って(笑)。
- 鈴木
- 聖也さんも、いちじく好きになりましたか?
- 須藤
- 甘露煮は食べないけどね(笑)。
最初は「イヤイヤ手伝っていた」という聖也さんが、今は若手生産者をひっぱる存在になっていること。初開催した「いちじくいち」が大盛況で、みんながいちじくの可能性を再認識したこと。家族の絆を強くするきっかけになったこと。話を聞いて、なんだか胸が熱くなりました。次回最終回では「北限のいちじく」の未来を担っていくふたりに、これからのこと、それぞれの思いについて話を聞いていきます。
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