提案(願望)!
全高校よ農業高校たれ!?
金農が教えてくれた、
農業高校スタンダード。
2018.10.31
編集・文:藤本智士 写真:船寄剛
イラストレーション:石川飴子
いやいやいや、今年の甲子園、盛り上がりましたねー。ふだん兵庫県西宮市(甲子園まですぐ)に住んでいる僕は、母校の報徳学園の試合は見に行かなかったのに、必死になって金農(秋田県立金足農業高校)戦のチケット取って、編集チームと一緒に全力応援してきました。
そろそろ締めようかという飲み会も、誰かがあの夏のエピソードを一つ語りだしたら、間違いなくもう1軒行っちゃう、今年の忘年会はさぞエンドレスなことでしょう。しかし、そんな秋田県民のみなさんに、僕は言いたい。
吉田輝星くんもいいけど、
金足農業高校そのものにも注目してみて! と。
僕は金農ナインの快進撃を見ながら、彼らを育んだ農業高校という存在が気になって仕方ありませんでした。
ということで、甲子園の興奮冷めやらぬなか、取材させていただいたのが、今回の記事です。
- ・そもそも農業高校ってどんなところ?
- ・彼らを育んだ金足農業ってどんな高校?
- ・ふだんどんな授業をしてるの?なに食べてるの?
といったシンプルな疑問はこの記事ですべて解決! それどころか僕はいま、こんなふうに叫びたい気持ち。
全高校よ、農業高校たれ!!!
と。
ええ、わかってます。それはまあ言いすぎ。だけど僕は、この取材を終えて、農業高校こそが普通高校になる、そんな未来のスタンダードを本気で想像しました。
ということで、ここから、金足農業高校の教頭先生、小野博美さんへのインタビューをお届けします。途中からは校長先生も加わって、さらにヒートアップしますよー!
- 藤本
- いやぁ、本当に、あらためていい学校ですね。
- 小野教頭
- ありがとうございます。
- 藤本
- いろんなものが、すごく羨ましかったです。というか、世の中の学校、全部農業高校でいいんじゃないかって思いました。よっぽど学びが多いんじゃないかって思います。
僕は関西の町で育ったので単純に新鮮で、余計に感動が大きかったのかもしれないですけど、自分の高校時代と比べて、こうも違うのかって驚きました。ちなみに僕は、報徳学園出身なので、同じく野球が強いぞっていうのはあったんですが。正直、学校に対する愛情っていうのが、全然違うなと。
- 小野教頭
- うちの生徒はとくに、在校生のうちから愛校心があるんですよ。学校が大好きな子が多いですね。
- 藤本
- さっき、造園緑地科の先生もおっしゃってましたけど、卒業生が毎日一人は来てるとか……。
- 小野教頭
- そうなんですよ。
- 藤本
- さっきも、梨を買いに来てた方に聞いてみたら、卒業生だって言って大量に買っていってましたね。
- 藤本
- 実は個人的に「金足」って言葉になぜか聞き馴染みがあったんですね。でもそれがなんでなのか思い出せなかったんです。それが最近、秋田魁新報(秋田の新聞)で「金足農業高校は、石川理紀之助の意志を継いだ学校だ」という内容の記事を読んだんです。それで「あ!金足って、理紀之助が生まれたところだ!」って思い出したんです。というのも僕は以前、「のんびり」という雑誌で、石川理紀之助の特集を組んだことがあって、結構しっかり取材したんです。
- 藤本
- 魁の記事によると、「農業の神様」と言われる理紀之助が「こういう学校が必要だ!」と言ってたんですよね。残念ながら生前は叶わず、没後10年経って、地域の人のなかから再び「こういう学校が要るんだ」っていう熱が上がり、紆余曲折ありながらも創立されたのが金足農業高校だと。
- 小野教頭
- はい。そう聞いています。
- 藤本
- 石川理紀之助という人のことを秋田県民以外は、まず知らないと思うんですけど、秋田では『農聖』とまで呼ばれて、農業の神様として知られていますよね。だけど僕はしっかり取材をしてみて、この人は農業の神様ではなく、教育の神様だと思ったんですね。しかし当時の取材では、金足農業高校のところまで行き着けなかった。だけど、甲子園の快進撃をきっかけに、やっぱりそうだったんだ!と、僕のなかの点と点が繫がったんです。
- 小野教頭
- うちの学校は、創立が昭和3年で、今年創立90周年を迎えるんですけれども、石川理紀之助の繫がりでいくと、「校是」つまり本校の大事にしている教育方針のなかに「寝ていて人を起こすことなかれ」の言葉があるんですね。
- 藤本
- 「寝ていて人を起こすことなかれ」!理紀之助の一番有名な言葉ですね。
- 小野教頭
- これを規範とする、とあるんですが、校是のなかの1番目に「自主」とあって、それがこれに当たります。ご覧になられたかもしれませんが、校舎の前には石碑もあります。
- 小野教頭
- 生徒を見てもらえれば、その精神を受け継いでいることを感じとってもらえるんじゃないかなと。
- 藤本
- さっき、果樹の出荷準備をしていた生徒の男の子が、「食べます?」って、梨を剥いてくれたときにも感じました。その行動に感動して、「誰かに教わったの?」って聞いたら「自分から出てきたもんです!」って言ってました。まさに「自主」が育まれてる。でもそれってなかなか教育できるもんじゃないから、ほんとに不思議だなって思って見てたんですよね。ちなみに、秋田県に農業高校っていうのは、いくつあるんですか?
- 小野教頭
- 秋田県では農業関係の高校が6校あります。秋田北鷹高校、能代西高校、金足農業高校、西目高校、大曲農業高校、増田高校。
- 藤本
- へ〜。でも「農業高校」と付くのは、大曲と金足だけなんですね。
- 小野教頭
- そうですね。純粋に、農業だけの高校は2校ですね。
- 藤本
- ほかは普通科もある?
- 小野教頭
- そうですね。総合学科であったり普通科と一緒だったり。やはり秋田県は農業県ですから、なくてはならない学校の一つですし、理紀之助の強い意志もあって、「県都、秋田市に農業高校を」と地域から求められてできた学校です。そういった創立当時の思いは、折りに触れて校長が生徒たちに伝えていますので、平成生まれの彼らの心の片隅にもしっかり入ってると思います。
生物資源科
稲作、野菜、畜産、果樹、草花の栽培や飼育、農業経営や、情報処理、バイオテクノロジーなどを学びます。
環境土木科
土木事業の計画、設計、施工、管理や、水循環や環境保全などを学びます。
食品流通科
食品化学コースでは、成分分析、食品衛生、加工食品の製造などを学びます。
流通コースでは、農産物を主とする、食品の製造や流通、情報などを学びます。造園緑地科
造園の計画、設計、施工、管理、造園に使われる素材生産を学びます。
生活科学科
生活文化コースでは、生活環境、家庭生活を豊かにするための分野を学びます。
生活福祉コースでは、社会福祉、介護、看護などを学びます。
- 藤本
- なるほど。
- 小野教頭
- だからこそ、本当の意味で地域に根ざした学校とされていますし、思いを引き継いだ子たちが「自分たちが秋田県の農業、秋田の産業を支えるんだ!」っていう気持ちをすごく持ってるんですね。うちの生徒たちは、就職者の80〜85%は県内就職で、しかも、そのうち約4割が学科関連の専門を活かした職業に就いてるんです。なかなかこういう学校は少ないと思います。
- 藤本
- みんな地元が好きっていうのは、自分たちの世代(ちなみに僕、藤本は44歳です)からすると、それが不思議で仕方ない。だいたい高校生くらいの頃って、地元が嫌いじゃないですか。「早くここを出たい」とか。そういう感じがあんまりないのはおもしろいですね。
- 渡辺校長
- 学食のカレー、食べました?
- 藤本
- カツカレーの大盛りを! でもデカすぎて生徒たちに食べてもらいました(笑)。あのカレー、癖になる美味さですね。
- 渡辺校長
- ですよね。俺はあれをカレーうどんにして、天ぷらと卵も入れるんだ(笑)。フルコース!
- 藤本
- 今日一日学校を回らせていただいて、ものすごく学びがありました。「世の中の学校、みんな農業高校になればいいのに!」って思いました。
- 渡辺校長
- 義務教育の段階から農業体験を取り入れて感性を育てながら、さらには義務教育の良い所も取り入れて、学力も積み重ねていけるといいですよね。社会に出ると、就職の試験だったり、超えなければならない壁がたくさんあるので、学習する術や習慣を身に付けることも絶対大切なんだけど、農業体験のようなことも並行してやっていくことによって人間性も鍛えられる。そういうシステムをきちんと作っていきたいんですよね。
- 藤本
- うんうん。とてもよくわかります。
- 渡辺校長
- これからもっと生徒の数は少なくなってくるし、個々の人間性を高めていかなければならない。そういう意味で、秋田県の教育スタイルはもっと考えていかなければならないなと思ってますね。
- 藤本
- 僕は常々、秋田県の「学力ナンバーワン」っていうのを疑っているというか、それが本当に良いことなのか?って思っているんですね。その本意は、まさにいま校長がおっしゃっていた、バランスです。農業高校的要素が足りなすぎるって思いますね。
- 渡辺校長
- うんうん。
- 藤本
- 今日は、とくに鶏を解体する女の子たちに感動しました。
- 渡辺校長
- 誰もがみんな最初はイヤがる。血は見たくないし、脂はヌルヌルだし。でも、「これが美味しい食べ物になるんだ」っていうのがわかると、そこから変わってくるんですよね。粗末にしちゃいけない、苦しませちゃいけない、きれいに、安全に、素早く。それがかっこいいんですよ。
- 藤本
- いやぁ、そう!とにかくかっこいいんですよ!もう、みんな嫁にしたい!ってくらい魅力的でした(笑)。
- 渡辺校長
- 将来みんないいお母さんになりますよ。これまでの卒業生も、1年生で家畜の飼育をして、そこで解体して、米の収穫をして、それら全部を使って「だまこ鍋」を作ったり。 おもしろいのが、育てるところから秋の収穫まで、1年間かけていろんな体験をすると、みんないい作文を書くようになるんですよ。「命の大切さ」を、自分の思いを込めて書くようになる。体験がすべてですよ。
- 藤本
- あとはここに醸造科があったら最高ですね。
- 渡辺校長
- それが無理なんだよ〜(笑)。その許可は下りない。あったらおもしろいけどね。
- 藤本
- さっきも教頭先生とお話したんですけど、果樹のところで、男の子がささっと梨を剥いてくれたんですけど、それもかっこよかったんですよね。その気配りある所作が。この自主の精神が生まれる理由は何なんですかね?
- 渡辺校長
- 「金農三生活信条」っていうのを、前任の鈴木校長が作ってくださったんですが、「挨拶励行、時間厳守、整理整頓」。まずは、人と会ったとき、挨拶が一番大切だよねって。でも、ただ頭を下げる、声を発する、じゃなく、目を見ながら、にこっと笑って「おはようございます」「こんにちは」「おつかれさまです」って言ったらさらに良くならない?って。じゃあ、今度は会ったら一歩立ち止まってにこっと笑って挨拶しない?って、そういうふうにして(鈴木校長が)育ててくださったんですよ。
- 渡辺校長
- 1年生のときは何にもできないけど、3年生になって就職を目指す頃になると、ほんとにそういうことの大切さが身に沁みてわかってくるんですよね。だから実習のなかでも、お客さんが来れば自分から進んで「こんにちは、いかがですか?」ってやれるんですよ。ほかにも、イベントにもたくさん出ているので周りの人と触れ合う機会があるし、インターンシップで大人と触れ合う機会もある。やっぱり生徒たちは外に出して育てていかなくちゃ。
- 藤本
- なるほどー。
- 渡辺校長
- 学校のなかだけじゃなく、地域社会にでること。それが一番の教育に繫がる。
- 藤本
- 何気ないことかもしれないんですけど、そこからでき上がっていくんですね。
- 渡辺校長
- 将来は、できればきちっと作業服を着て、地元でガッツリ働いてもらいたい。重機に乗ったり、除雪したり、何か災害でもあれば「おっしゃ!」ってパワーショベルを動かすような、そういう子たちがいないと、この社会は作れません。
- 藤本
- ほんとに! 彼らこそが日本の基礎体力になると思いました。
- 渡辺校長
- いくら情報化社会って言ったって、やっぱり農業ですよ。食が基本。
- 藤本
- だからほんと、全部農業高校でいいんじゃないかな。
- 渡辺校長
- それは極論(笑)。バランスが大事です。
- 藤本
- 先ほども、石川理紀之助の思いから、脈々と続く地域の人たちの情熱あってこそ生まれた高校だという話をしていたんですが、やっぱり、情熱をもってできたものは、その情熱の残り香のようなものがずっとあるんだなと思いました。
- 渡辺校長
- この学校の周辺は農村地帯なんですけれど、たくさんのOBの方がいらっしゃる。地元のたけや製パンの企画で金農生が携わって作った「金農パンケーキ」も6年くらい販売が続いてるんですよ。あれは売れるからこそ続いている。地元の人たちが買ってくれるんですよね。OBのみなさんが田植えの時期になれば「パンケーキが出る頃だな」って。田植えしながらおやつに食べる。
- 藤本
- 高校生として、いまその価値がどのくらいのものと実感しているのかわからないけれど、自分たちが携わったものがそうやって世の中に流通されるっていうのは、なかなかの経験ですよね。
- 渡辺校長
- すごい自信になりますよ。そういう、成功体験をさせたいんですよ。
- 藤本
- うん。やっぱり僕は教育に大切なのは自信だなって思うんです。とくに僕は関西に住んでいるので、秋田に来るとみなさん、自分たちの暮らしを卑下することが多い。最近は少子高齢、人口減ってネガティブに言われるので余計に。
でも僕にとっては満員電車でギュウギュウになって心すり減らすより、こっちのほうがよっぽど豊かじゃないかって思うんです。 - 渡辺校長
- うんうん。
- 藤本
- だけど、それもよそ者ゆえの見方だから、住んでる身としてはそう思えないのもわかるんですよ。でも、そんななかで、彼ら、彼女らに会って「学校が好きだ」とか「わが町が好きだ」とか、よくまあ堂々と、胸張って言ってるなあって思って。それはすごいことですよね。
- 渡辺校長
- だって、暮らしやすいもんな。自分だって親と一緒に暮らしていて、子どもができても親父とおふくろにみんな面倒見てもらいながら、こういうふうに勤められているし。やっぱり3世代同居っていうのは一番いいスタイルだと思いますよ。それで、農家やりながら、自分で美味しい米を作って、野菜もみんな自分の家で作ったものを食べて、それで元気だもん!
- 藤本
- そうですよね。校長、相当元気そうですよね! 夜飲み屋であんまり会いたくないもん(笑)。
- 渡辺校長
- はははは! やっぱり食うものちゃんと食ってるからですよ。人間、生きていくエネルギーは食べたものからしか得られないので、それをいかに取り込んで消化して、力にしていくか?ですよ。単純なことです。
- 藤本
- うん。超シンプル。
- 渡辺校長
- だから、そういう意味で秋田は、気候もいいし、食べ物もいいし、ほんとに暮らしやすいいい土地だと思います。そうみんなが言っていけば、子どもたちだってそう思うようになるんですよ。
- 藤本
- そうですよね! やっぱり大人がもっと言っていかなきゃいけない。
- 渡辺校長
- 大人が「秋田だば、なんもねぇ〜」って言ってちゃダメなんですよ。大人が元気で「今日も一日頑張ったな!」って話して、ぐっすり眠ることができたら、毎日が楽しいんですよ。
- 藤本
- やっぱりそこだな。今回の甲子園のことって、結局、なんであんなに秋田の人たちが盛り上がったのかって、やっぱりふだんは「うちの県になんか何もない……」って言ってた人が、本当に誇りや自信を持てたっていうことなんですよね。だからみんな見事に「ありがとう、ありがとう、ありがとう」ですもんね。
- 藤本
- 金農に気づかせてもらったことがあるっていうことですもんね。意味深いなぁ〜。そういうときに、校長をされているっていう渡辺先生の巡り合わせもすごいですね。
- 渡辺校長
- いや、校長は関係ないですよ。この4月からここに座ってるだけですもん。
- 藤本
- 昔、こちらにいらしたんですか?
- 渡辺校長
- ええ。ここの卒業生で、大学卒業してから1年間臨時講師でいて、それから平成17年から3年間教諭を務めて、平成27年に教頭として1年、そしてこの4月から校長として。だから、金農の歴史はずっと見てるんですよ。大変だった頃もわかっているし、それを先生がたが頑張って変えてきたのもわかっている。そういうみんなの思いがあるからね。それを引き継いで頑張っていきたいなと。ちなみに、小野教頭は二つ下の後輩ですから。
- 藤本
- あ〜やっぱり。なんか先輩後輩感、感じてました(笑)。
- 藤本
- 僕は兵庫県の神戸に事務所があって、そこそこ都会なんですよね。でも、物質的な豊かさはあっても、本質的な豊かさがないって思うときがあるんですよ。食べ物にしても、どこかで作られたものをスーパーで買って食べるのが基本。
生産者ではなく、消費者として生きることがベースの都会と比べて「いったいどっちが豊かなんだろう?」って思うがゆえに、秋田の人たちにその豊かさに気づいてほしいんです。そこに、よそ者としての役割があるのかなとも思うんですけど、でも、本当は自分自身で気づくのが一番だとも思うんですよ。 - 渡辺校長
- うんうん。
- 藤本
- というのも、僕が秋田に来るようになったきっかけは、羽後町の花嫁道中という行事なんですね。毎年1月の最終土曜日に、その年に選ばれた花嫁花婿が馬そりに乗って、雪深い峠を越えながら十数キロの距離を歩くんです。
- 藤本
- その馬そりには蓑を着て菅笠を被った人たちが一緒に付いて、まるで昔話みたいな風景で。ゴール地点に着くと、町じゅうの人たちがみんなで花嫁花婿を迎えて、二人は雪の舞台に上げられる。町長が仲人のように挨拶して、その後は餅まきがあって、最後には花火がバーンと上がって……。
偶然出くわした僕たちにとっては、見知らぬ二人の結婚祝いなのに、なんだか「おめでとう!」って気持ちで胸いっぱいになって、一緒にいたカメラマンと二人で号泣して帰ったんですよ。 - 渡辺校長
- なるほど。いいお祭りですね。
- 藤本
- そうなんです。「こんな昔話みたいな行事がずっと続いてるなんてすごいな」って思って、自宅に帰って調べてみたら、なんとこの行事、意外にも近年に始まったものだったんですよ。
- 渡辺校長
- ほう。
- 藤本
- 羽後町はあまりにも雪深くて、冬になるとみんなふさぎ込んでしまうので、これをどうにかしなければと思った地元の若者たちが、自分たちで立ち上げたイベントだったんです。それまでは寄せても寄せても降ってくる雪に辛い思いしか抱いていなかったけど、この行事を開催するようになってからは、雪が少ないと「今年は馬そりでちゃんと峠を越えられるかな?」と心配されるようにまでなって、しっかり雪が降ると「あぁよかった!たくさん降って」と、イヤだったはずの雪を待ち望むように逆転したんです。
- 渡辺校長
- うんうん。
- 藤本
- これはすごい!と思いました。そうやって、自分たちで気づいて自分たちで行動する人がこの秋田にはいるんだっていうのを知ってから、僕は毎年秋田に来るようになったんです。秋田という土地に対して、僕のなかでそういう原体験があるだけに、次、秋田にどんな人が出てくるんだろう?ってずっと思っていたので、それが、野球部を代表する金農生のみなさんだったんだ!と。
- 渡辺校長
- 確かに、今回の甲子園が、そういうきっかけになっていればいいなあと思いますね。甲子園から帰ってきたときに、地元の農協の組合長さんがすぐに来て「校長!おらがだ、もっと頑張らねばダメだ!」って、真剣な顔をして言ってくれたんですよね。嬉しかったですね。どうしても農業って閉塞感があるでしょう?将来的に厳しいなっていう。でも、そうじゃいけないって。
- 藤本
- この影響っていうのは、いろんなところに出てきて、5年後10年後に繫がっていくんじゃないかなって思いますね。今回伺ってみて、その理由がわかったように思います。ありがとうございました。
- 小野教頭
- この、甲子園で校歌を歌っている写真に、すべてが凝縮されているような気がしますよね。金農生である、農業高校生であるという、自信と誇りが、すべて出てますよね。
—と、そこに渡辺勉校長が登場—
最後に教頭が言ってくれた、校歌斉唱時の金農ナインの姿。全身から絞り出すように校歌を歌う彼らの独特の姿勢をみた僕は、まさに「胸を張る」とは、こういうことなのかと思い知らされました。
校長の言葉を借りるなら「秋田だば、なんもねぇ〜」そう言っていた大人たちが金農生に教えられたこと。それはとてもシンプルに「胸を張る」ってことなんだと思います。
きっと今年の夏をきっかけに、秋田の町は変わっていくんだろうなあ。
金農のみんな、感動をありがとう!!!