秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:船橋陽馬

年貢、一揆、助太刀?!
「村民になる」という関わり方。
シェアビレッジ町村(五城目町馬場目)

2018.06.27

「年貢」「一揆」「助太刀すけだち」……。いくら秋田が農業県であるとはいえ、さすがにこの時代、なかなか耳にしない言葉ですが、五城目にはそれがふつうに使われている場所があります。それがこの「シェアビレッジ町村まちむら」という茅葺の古民家。

この古民家を村に見立て「年貢を納めると村民になることができる」というプロジェクトが行われているのです。 年貢に古民家。まるで時が止まっているかのような話ですが、この場所から、新たなコミュニティの形が生まれていました。

シェアビレッジは、株式会社kedama、ハバタク株式会社が運営する。迎えてくれたのは半田理人はんだまさとさん(28)。半田さんはここの「家守やもり」として、家の管理や宿泊客の調整などを担う。

——すばらしい建物ですね。

半田
この家は、明治18年に建てられたもので、築130年以上になります。この集落はほとんどが「伊藤さん」というお宅なんですが、ここはその伊藤家の本家の建物だったんです。

——こんなに立派な建物が残っていたこと自体、奇跡ですね。

半田
じつは、解体して更地になるはずだったんですよ。これまではオーナーさんご自身で費用をかけて補修をしてきていたそうなんですが、維持していくのに限界がきてしまって……。
シェアビレッジのある町村という集落は、500年以上続く五城目朝市の発祥の地とされている。
四季を通じて地域の植生が感じられるようにと、オーナーさんが植えた山野草。春は九輪草が見事に咲く。

——そこで、みなさんが手を挙げた?

半田
自分は形ができてから加わったんですが、今の上司である丑田うしだ(ハバタク株式会社)と秋田の起業家仲間たちが、この家を守りつつ「村」として再生させる「シェアビレッジ」というプロジェクトを始めました。2015年からスタートして、この5月で3周年、4年目に入りました。
訪ねた日は屋根の葺き替えの最中だった。シェアビレッジが始まった当初は半分はブルーシートで養生された状態で雨漏りもひどかったそう。3年経ってようやく全体の半分の葺き替えができた。

——あらためて、シェアビレッジの仕組みを教えていただけますか?

半田
まずは「年貢」と呼ばれる年会費を納めていただきます。金額は3000円からで、年貢を納めることによって「村民」になることができます。村民の権利の一つとして、この村に泊まりにくる「里帰り」することができます。
半田さんは五城目町の隣の井川町出身。ここで家守をする前は栃木県の大学に勤務。元はご自身も年貢を納める村民の側だったそう。

——ここに来ることを「里帰り」と!? ちなみに、全員が村民でないと泊まれないんですか?

半田
定員は10名なんですが、うちは3名様以上のグループから、代表1名が村民であれば、お連れ様は村民ではなくても宿泊できるようになっています。
食事は基本自炊。オプションとして、半田さんによるかまどでご飯を炊くレクチャーや、近隣のお母さんたちとの「だまこ鍋づくり」なども。

——ほかにも村民には特典などあるんですか?

半田
SNSの非公開ページがあって、そこで意見交換ができる場があったり。いまは、ここ以外に香川県にもシェアビレッジがあるんですが、どちらもそんなに簡単に集まれる場所ではないので、近隣の都市部で「寄合」という定例会っていうのをやっています。飲み会みたいなものですが(笑)。
年貢を納めると村民証が届く。訪れた回数に応じて、ブロンズ村民(ブロンソン)、シルバー村民(シルソン)、ゴールド村民(ゴールソン)、名誉村民(メイソン)と呼称が変わる。

——それぞれネーミングが徹底してますね。

半田
年に一度のお祭りは「一揆」。「年に一度は一揆を起こそうぜ!」っていう。この家に縁日風の屋台を用意したり、土間でライブをしたり。そのときは近隣の人たちも来られるようにして、みなさんに楽しんでもらっています。

——村民は今、どのくらいいるんですか?

半田
2100人くらいなんですが、半数以上が首都圏の方です。頻繁に里帰りする人たちは全体の2割くらいで、残りの8割は、何度も足を運べないとしても「これはおもしろい!」と遠隔でプロジェクト自体を支援してくださる方ですね。

—— いま、そこに住まずともその土地と関係性を持つ「関係人口」という考え方がありますが、ここでは、それを先駆けて実践してきているんですね。

半田
まさにそうですね。関わり方を選べるところが肝だと思います。SNSでカジュアルにコミュニケーションが取れる関係性もあるし、東京の日本橋には「村役場」として「ANDON」という拠点があって、そこに通っている人もいますし。

——シェアビレッジができてから、五城目町自体が盛り上がっているように感じます。

半田
自分自身も、五城目を県外から見ていて「どうやったら関われるんだろう」って思っていたときに「年貢」っていうシステムを知ったんですよ。今日泊まりに来る学生さんも、いまの五城目の雰囲気に惹かれてるそうで、まずはここできっかけを作ろうとしてるみたいです。

——ここを入口に関わり始めた人たちが、その後どう繫がっていくかも課題になりそうですね。

半田
ここが持続的に守られていくというのは、まだまだ先の長い話なんですが、うちには「助太刀」っていうシステムもあるんですよ。

——今度は助太刀ですか!

半田
ここに来て、ただ滞在するだけじゃなく、近隣の農作業を手伝ったり、町のイベントにボランティアで参加したり、それこそ、ここの屋根の葺き替え作業の手伝いをしたり。まずは、そういう主体的に関わってくれる人を増やしていきたいなって思っています。

古民家を守るために生まれた「村」という考え方は、人々を動かし、今や町全体の原動力にまでなりつつあるようです。

【SHARE VILLAGE MACHIMURA/シェアビレッジ町村】
〈住所〉南秋田郡五城目町馬場目字町村49
〈時間〉10:00〜15:00
    見学可能(HPよりお問い合せください)
    16:00〜10:00 宿泊者専用
〈定休日〉火・木・祝日
〈HP〉http://sharevillage.jp/