秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
秋田市編

編集・文:竹内厚 写真:蜂屋雄士

もっきり天国、土崎で100年以上続く酒屋を教わりました。
竹内酒店(秋田市土崎)

もっきりという世界をご存知でしょうか。酒屋の一角で簡単なアテとともに飲むことができる場所のことで、角打ちとも呼ばれます。近年、「角打ちブームが到来」ってウワサも聞こえてきますけど、そんなブームなどどこ吹く風。これぞ秋田のもっきりのリアルだという店にたどり着きましたので、こちらでレポートします。

出会いは突然でした。 別に記事を書いた土崎の“ホソレコ”で、帰り際に町のオススメを聞いたところ、「土崎にはもっきりが4軒くらいあるよ」という話が出てきました。土崎に生まれ育った、なんも大学編集部・矢吹氏も「えっそうなんですか!?」という、土崎のオトナの世界。

なかでも「昔からずっとやってる店。そこは飲食店の免許もとっちゃって、みんな店に上がりこんで飲んでますよ」という情報を聞いてやって来たのがこちら、「竹内酒店」です。

写真では普通の酒屋のように見えますが、入り口には酒箱がいくつも積み上がってたりして、正直なところ一見では入りにくい。

店のなかに入っても箱や冷蔵ケース、その他いろんなものが多すぎて、なかなか店内の全体を見渡すことができません。

店内正面のレジ周り。とても情報量が多いけど、まずは奥へ。お店の方の姿もまだ見えない。
冷蔵ケースを曲がると、そこで飲んでいた!

酒のケースやベニヤ板などをうまく組み合わせてつくられたテーブルセットが置かれた手前。そして、左奥のスペースは、小上がりというよりも、家のリビングみたいなカジュアルさ。奥は、なかなか酔ってられるのが伝わってくる先客でうまっていたので、ひとまず、手前に座りました。

焼酎お湯割りからスタート。お湯は自分で注ぐ仕組み、なのはわかるけど、まだお湯を入れない状態でこれ。濃い口確定!

まだ店のルールもよくわからないものですから、ひとまず簡単なツマミでもと思って、サバの缶詰とパックの豆腐を特に何も告げずに手渡したところ、この形になって返ってきました。ウレシー!

ポテサラが添えられているのがどこか家庭的。
相席となったおとうさんが親切にいろいろ教えてくれた。後ろの酒も当然すべて飲める。

見慣れない顔の珍客のわれわれもすぐに受け入れられたのですが、それもこれも、店を切り盛りしていた竹内恵美子ママのおかげ。酔って子どもに戻ったような顔したおじさんたちを相手にしながら、上品な物腰でとても楽しそうにカウンターの向こうに立ってらっしゃいました。

竹内恵美子さん、ご主人と交替で店に立つ。
角度を変えると酔客が絡んでいるようにしか見えない。恵美子さんの頭上には飲食店許可証が掲げられている。

——かなり昔からやってる店だと聞いてきました。

竹内
100年ちょっとになるかな。

——100年を超えますか!

竹内
うちのおばあちゃんがここに嫁いできたときにはもう酒屋で、おばあちゃんが97歳で4年ばかり前に亡くなったのね。そのおばあちゃんの親の代から続く店だから。私と主人で3代目。

——もっきりのスタイルも創業当初からなんですか。

竹内
こうやって飲める風になったのは、この場所になってからだから、それでも80年以上にはなります。その頃、火事で街が焼けたので、いまの場所に移ってきました。

——先にお聞きしておきたいんですけど、どうして店内にいろんなものが山積みになってるんでしょう。

竹内
だって昔々からやってるからね。まあ、いまはお酒の種類も多くなったじゃない? 前は在庫を倉庫に入れてたんだけど、人手が足りないときに、お客さんを置いて倉庫まで行けないことがあって、それで在庫も全部こっちに積み上げちゃって。

——倉庫も兼ねてるということなんですね。

竹内
だから入りにくかったでしょ(笑)。それと、外からあんまりお客さんの顔がすぐに見えてもね。ほら、このへんは狭い地域だから。
路面側に積み上がる箱はストックにして目隠しだった。確かに、座ってしまうとこの方が落ち着く。

——すごく楽しそうにみなさん飲んでますね。

竹内
そうね、朝は9時から夜の9時まで。シャッターを開けると待ってる人もいます。

——朝の9時から待ってる!

竹内
ほら、早朝から市場で働いてたりする人もいるから。みんな朝から飲んでます。
ボトルキープもたくさん。ワンカップに付箋でキープしてる人もいる!

——それが毎日なんですね。

竹内
いま、この時間はちょっと年齢層若めだね。60代から70代前半くらいでしょ。

——それが若めの年齢層ということは、いつもは?

竹内
70代の後半かな。うちのおばあちゃんとおじいちゃんがどっちも90代で亡くなったけど、ずっと店に立ってたから。

——そうか、その頃からのお客さんがずっと来られてる。

竹内
そう。家でひとりでショボっとして飲んでるよりは、ここでみんなでおしゃべりしながら飲むほうがいいじゃない。だから、毎日来る人が来ないと心配で、どうしたんだろうって電話かけたりして。したら、「今日はたまたま娘が来てるから休む」って聞いてホッとしたり。
客層若めという時間帯、みんな恵美子さんと話したい。
家から梅干しを持参したというお客さんは本日3回目の来店。「晩寝の手前だ」という理由。昼寝を挟んで1回ずつ、夜寝る前にもう1回来るということなんだと理解した。
タッパーの梅干しをつまみはじめると、もはや親戚のおじさんが集まる実家の趣き。
「害はぜんぶ自分で処理する、これがピースの吸い方だ」という技を披露してくれる方も。
恵美子さんに「もうドクターストップよ」と止められていた方は7杯目。腰が抜けたようでなかなか立てない。
トイレは一度外に出てガレージの方へ。恵美子さんも心配でついていった。
10円単位の駄菓子もいろいろ。もっと早い時間に訪ねると揚げ物も充実しているそう。

土崎には国鉄よりも前、明治期の鉄道庁の時代からJRの大きな車両工場がありました。そして、港湾施設も。そのため古くからもっきりが盛んだったようです。ここ「竹内酒店」のことを教わった「細川レコード店」も、戦争前後の商品がない時代は、店の一角でもっきりをやっていたんだそうです。

土崎出身のなんも大学・矢吹氏がこの店のことを知らなかったのは、この街に暮らしたのが20歳まで、未成年だったからのようで、けど、矢吹家が営業していた豆腐店のことは恵美子さんも他のお客さんもよくご存知でした。「おー、あそこの豆腐屋のムスメか」から始まる地元トーク。故郷に錦を飾りましたね、矢吹さん。

土崎工場で作られたD51機関車が、大森山公園に保存されている。そういえば、タバコの煙を飲みこむおじさんに「デゴイチみてえだ」と声が飛んでいた。

——おかあさんも飲んでます?

竹内
私は飲まない。どっちかっていうと甘党なので、珈琲飲んだり、ココア飲んだり。毎日見てるから、あまり飲みたいと思わないんです。

——みんなを見守る係。

竹内
そうそう。みんなが来てわいわいやる場所、それでいいなぁと私は思ってます。
「笑いは人を幸せにする薬」をまさに実践する店のあり方。

ちょっと1杯だけのつもりが、店内のテレビで中継されていた大相撲春場所も終わって、外はすっかり暗くなっていました。その間、ずっとしゃべり続けていたけど、何の話をしてたんでしょう。常連みんなで温泉へバスツアーをして向こうで酒飲んで、帰ってきたらまたこの店で飲むんだよぉとか、そんな話。

店内で少し録音していた音声を後日聞き返してみましたが、秋田弁が濃くて、いろんな人が同時にしゃべっていて、ほぼ何を言ってるのかよくわからないのに、なんだかまた笑っちゃうくらいに盛り上がっていました。 そして、飲んでいたあの時は秋田弁もすべて理解した気でいました。そんな場所のそんな時間。

これはなんの握手だったか。
いろんな木彫りやダルマは亡くなったおばあさんが集めていたものだそう。

記事として賑やかな部分をクローズアップしましたが、1杯だけ飲んでさっと挨拶して帰る常連さんの姿もあり。きっとこの店に通うのが日々のことだから、自分のペースはみなさんわかっています。 土崎の日常にちょっと混ぜてもらったような感覚。

店を出ると、魔法がとけたかのように車内であっという間に眠ってしまいました。地元のナマな日常はヨソモノにとって非日常、ワンダーランドですね。

【竹内酒店】
〈住所〉秋田市土崎港中央6丁目2-20
〈時間〉9:00〜21:00
〈定休日〉不定休 ※毎年三が日は休業
〈TEL〉018-845-0028
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