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編集・文:矢吹史子 写真:高橋希
あなたを死なせない。「秋田モデル」が守るいのち。
2020.09.30
全国的にも深刻な問題とされている自殺対策。秋田県は、かねてから自殺率(人口10 万人当りの自殺者数)が高く、全国ワーストワンの時代が続いてきました。しかしながら、ここ数年で自殺者数は大幅に減り、ピーク時からは63%もの減少を見せているといいます。
このような要因の一つとして「あきた自殺対策センターNPO法人蜘蛛の糸」という機関の貢献が大きくあるといえます。
今回、このセンターを訪ね、その取り組みや考え方について理事長の佐藤久男さんにお話を伺いました。
個人の問題から、社会の問題へ

佐藤さん- 「蜘蛛の糸」は、死を考えている人たちに対しての相談機関です。2002年の6月に立ち上げて、19年目になります。
秋田県は昭和35年頃から、だんだんと自殺率が高くなっていって、長い間ワーストワンの状態が続いていました。それを放っておくこと自体がおかしい、誰かが取り組めば必ず問題解決できるはずだという考えから、私一人で立ち上げました。
始めたころはこういう取り組みは誰もしていませんでした。それは、自殺問題は個人問題であって、がんばっても食い止めることはできないのではないかと考えられていたからなんですね。
——日本全体の自殺者数はどのような状況だったのでしょうか?
佐藤さん- 1998年に自殺者数がものすごく上がって、前年は約24,000人だったものが約32,000人に。1年で約35%も上がったんですよ。(2019年は20,169人)
——どういうことが影響していたんでしょうか?
佐藤さん- 1990年代にバブルが崩壊して、不良債権を抱えた銀行が貸し渋りを起こしたために、企業倒産が増えて失業率が上がってしまったんですね。自殺のほとんどが経済問題からくるものでした。

佐藤さん- 年間3万人も亡くなるというのは、もはや国家的損失ですよね。若者も亡くなるし、生命保険の支払い額も当時は3兆円にも達していた。3万人というのは、秋田でいうと、ナマハゲで有名な男鹿市の人口の規模。
——男鹿市に暮らす人がそのままいなくなってしまうくらいの人数。
佐藤さん- それが毎年ですよ。なので、これは法律を作らなければいけないと、全国の仲間たちと「自殺対策基本法」の法制化のために署名運動を行いました。こうした訴えが実を結んで、2006 年に法律が公布されたことで、国に動いてもらえるようになり「自殺は社会問題だ」という考え方に変わっていきました。
——秋田県の自殺者数のピークはいつ頃だったのでしょうか?
佐藤さん- そこにグラフが貼ってありますが、2003年の519人。

——今はその半数以下に減っているんですね!
佐藤さん- 約63%下がりました。そして、全体として減少傾向が続いているというのも特徴的ですよね。
秋田モデル

——具体的には、悩みを抱えた方がこちらへ相談に来られるんですか?
佐藤さん- 電話だけの方もいるし、まっすぐここへ来る方もいます。電話では、まずはどういったお悩みかを聞いて、その悩みの性格に合わせて、弁護士さん、臨床心理士さん、生活保護関係の相談機関などを紹介する、いわば総合病院のようなものですね。
——病院の窓口で体調を伝えて「では何科へ」と案内してもらえるような。こういう機関というのは、全国にもあるのでしょうか?
佐藤さん- 民間主導型の機関があるのは秋田県だけで、「秋田モデル」と言われています。秋田は「民間主導型、民学官連携」として、我々と、大学、行政が一丸となって対策に取り組んでいるんです。

——これまで日本にはなかったものを秋田県では実践しているんですね。実際、年間どのくらいの方が相談に来られるのでしょうか?
佐藤さん- 面談には約200人。電話は数えきれないほどですが、私自身は、これまで6000人くらいの相談を受けてきました。
——どういう相談が多いのでしょうか?
佐藤さん- 多いのは高齢者の経済問題、家庭の中の問題、生きる価値観がない、病気になってしまった……などですね。
秋田は農業をやっている方が多いですよね。例えば、夫婦二人で暮らしていたとして、農業をやれている60代くらいまでは年金に加えて現金収入もあるんですが、80代になると農作業はできなくなる。
そして、ご主人が亡くなって奥さんだけになってしまうと、農家は年金額が低いので、暮らしていくのがギリギリになる。さらに家が古くなって修繕するのにもお金がかかる。そこで、子どもの家に世話になろうとしても、一緒に生活するのにも肩身が狭くて、どうやって生きていったらいいかわからなくなってしまう。

——普通にあり得る話ですよね。この場合は、どんなアドバイスをされるんですか?
佐藤さん- 今のような話だったら、生活保護に結びつけて考えていきますね。市の生活保護担当の経験者を専門に付けて、世帯分離して、アパートを斡旋して、生活保護を受けられるようにしていく。
——解決方法を具体的に示してもらえるんですね。
佐藤さん- 八方塞がりになっているようだけれど、八方が塞がっていても、上下が開いている場合もある。
自分で自分がわからなくなっている場合が多いんですよ。過重労働だったり、うつ病になったりすると特にね。でも、第三者から見るとどこかに希望がある。そこに針を刺して、真っ暗になっていたところに光が差し込むようにしていくんです。
——そんなふうに、組織的に解決していくために、いろんな業態の方が仲間になっているんですね。
佐藤さん- 弁護士、司法書士、臨床心理士、社会福祉士、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント……全部、この機関の中の職員ではないんですが、相談があったときに集まってもらえる体制を作っています。

佐藤さん- 一人の方の悩みには、大概、4つか5つの要因があるんですよね。例えば、会社がうまくいかなくなったところに弁護士を紹介する。それで法的に解決できたとしても、うつ病になっていたりもする。そうしたら臨床心理士さんにケアしてもらう。そうやって、一人の抱える様々な問題を、情報を共有していきながら個別に解決していくんですね。
——「自分の悩みなんてわかってもらえない」「こんなこと相談していいんだろうか」と手前で考えてしまいそうですが、受け皿がしっかりとあるのであれば相談してみたくなりますね。
佐藤さん- 一番に思っているのは「ここに来た人を絶対に死なせない」ということ。少なくとも、この7年くらいは、相談に来て亡くなった方はいないんですよ。
そして、「死にたい」ということの前には「死ぬほど苦しい」ということがあるんですよ。そして、この「死ぬほど苦しい」の先には「なぜ苦しいのか」ということがあるんです。その原因を取り除くことが大事なんですよ。
男性は死にたいという原因が発生してから実際に自殺を図るまでに約3.8年間かかると言われています。女性は8.1年間。だから、今、急に亡くなるという人はいないんですよ。

——悩みが積み重なっていく期間があるんですね。
佐藤さん- 積み重ねて視野狭窄になっていったときに、別の要因が重なって引き金を引いてしまう。そういう状態になる前にここへ来てもらえるように「死にたい」となる前の「死ぬほど苦しい」の段階から相談を受けていくというのが「秋田モデル」なんですね。
そして、危険そうな方には担当者を付けて、家まで訪ねてみたり、こまめに連絡をとるなどして、相談後もアフターケアする仕組みを作っています。
私が立ち上がらなければ

——佐藤さんがこの機関を立ち上げたことには、何かきっかけがあったのでしょうか?
佐藤さん- 私自身、破産した経験があるんです。私は元々は秋田県職員だったんですが早期に辞めて、自分で会社を作って、40〜50名の社員を抱えていた時期もあったんです。しかし、経営がうまくいかず、もうどうにもならない「万策尽きる」という状況になってしまってね。
それが2000年の10月のことです。その半年前くらいからうつ病にもなって……。
そんななか、私が破産したのと同時期に経営者仲間が自殺したんです。それにショックを受けてしまってね。「私が立ち上がらなければ」と思うようになったんです。
——ご自身も大変な時期だったわけですよね。何が佐藤さんをそこまで突き動かしたんでしょうか?
佐藤さん- やっぱり、私は愛県人だからなあ。秋田の山が大好きだし、酒飲みで気の良い、県民の人柄も大好きなんです。だからこそ、秋田県が抱える自殺問題に憤りの心が立ち上がってきたんですよね。
何の知識もなかったんですが、ノウハウは後から溜めていけばいいと思って始めました。当初は、相談者に罵倒されることもあったけれど、そういうことを積み重ねて、いろいろな勉強会にも参加しながら、5年くらいで約1000人の方の相談を受けたんですね。すると1000人のデータが溜まる。そうやって、だんだん力を付けていきました。

佐藤さん- やっていて感じるのは、その人の問題解決策は、必ずその人の中にあるということ。私たちはその人の見えなくなっている潜在的なものを引き出していくのが役割なんですね。
そして、人間というのは死にたい感情を持ちながら生きるものなんですよね。死にたい感情が大きい日もあるけれど、生きたい感情が大きくなる日もある。その生きたい感情のほうに焦点を当てて、増幅させていく。

佐藤さん- ダメなものを数えたらきりがない。でも、いいものっていっぱいあるんだよね。だから小さなことでいい。そこにも花があるでしょう?そういうものを見て「ああ、いいな」って、小さな幸せを溜めていく。そうやって、3年くらいかけて一人の人と向き合っていっていますね。
若者世代の受け皿
——コロナ禍で、経済的にも精神的にも不安定な方も増えてきていると思いますが、その対策などもされているのでしょうか?
佐藤さん- そういう相談も増えてきていますね。8月からは若者向けのLINE相談をスタートしました。相談員にも若いスタッフを配置していましてね。こちら、担当の鎌田悠香子さんです。

——鎌田さんは、いつ頃からこちらに?
鎌田さん- こちらに所属して2年になります。私自身も元々、同級生やいとこを自死で亡くしていたのと、私自身も学生時代に悩んだり、死にたいという気持ちを抱えた時期もあって。 以前は東京で働きながら自殺予防のボランティアをしていたんですけれど、地元で本腰を入れてやっていきたいという思いから、秋田に戻ってきて、今に至ります。今は対面相談、LINE相談、zoomでの相談も担当しています。
——8月からスタートして2ヵ月弱、どのくらいのLINE相談がありましたか?
鎌田さん- 昨日(9月下旬)までで217件。人数にすると156人ですね。同じ方から繰り返し相談があったり、自分の居場所のように感じてくださる方もいるようですね。
——直接面談に来るというのはやっぱりハードルが高いので、LINEで相談できるのは嬉しいですね。
鎌田さん- 10代の方だと、大人に相談するということからして難しいですよね。LINEだと、家の中や安全なところから相談できて、嫌になったら止められるというのも良いようです。
10代〜20代の方の学校や会社の悩みは、今すぐ解決できるものではなかったりするので、まずは、今その方がどういう状況に置かれているかというのを少しずつ聞き出していくようにしています。

鎌田さん- 私たちは相談員の立場にいるので「学校に行きたくない」というような相談も否定せずに受け入れることで「初めてそういうことを言ってもらえた」という反応をする方もいますし、周りと比べて何もできていないと感じる方も多くいるので、その方の良さを見つけていくようにもしています。
——第三者に客観的に見てもらうことが大事なんですね。
佐藤さん- じつは、秋田県の自殺者数が63%下がったとはいっても、下がらないのが30代以下の若者のところなんです。
鎌田さん- 秋田県内の10 代〜30 代の自殺者数は、県警のまとめによると、過去5年間で 211 人。年間でおおよそ40名の若者が自殺で亡くなっているということになります。とくに勤務者男性の自殺率が上がってきているというデータも出ています。
——どういう要因が多いのでしょう?
鎌田さん- 職場でのパワハラや過労、仕事の悩みが多い印象で、これは企業の体制にも問題があるのかもしれません。そういう相談には、社会保険労務士さんを紹介したり、保障制度を伝えたり、転職したいという要望にもサポートできるようにしています。
——いまは、SNSでの批判や攻撃というのもどんどん激しくなっていますよね。
鎌田さん- はい。批判や攻撃の他にも、いつもオンラインにいないといけない、すぐに既読にしないといけないとか。でも、一方で、SNSを通して、普段の繋がりとは違う仲間ができて、そこでは本音で話せることもあるようなので、使い分けていけるといいんですが。
——若い世代とのやりとりを通して、感じられていることなどありますか?
鎌田さん- 秋田には若者が気軽に相談できる場が少ないようにも思えます。うつ病などの精神疾患のことや発達障害、LGBTQ(性的マイノリティ)に関することなど、秋田ではまだまだ適切な理解が得られないことや、多様性が認められにくいことが多くて。
これでは秋田では生きづらいよなとは思うこともあります。いかに若者が秋田で過ごしやすくできるかを考えていきたいですね。
自殺がなくなる日に向けて

佐藤さん- コロナの影響から、世の中がどう変わっていくかはとても興味深いことですよね。我々も、そこにどうフィットさせていくかが大事になってきます。
でも、秋田県では、過去のデータから「どこに問題があったらどう解決していく」というがはだいたい見えてきているんです。時間はかかっても特質が見えてくると、手の打ち方がわかる。自殺問題は可視化できるようになってきているので、若者の自殺率も少なくすることができると思っています。

佐藤さん- そして、私は、秋田県が抱える問題というのは、ひっくり返して考えたらいいと思っているんですよ。
例えば、高齢化の問題についても「高齢者がいることが素晴らしい」となっていったらいいと思うんです。この土地を否定するんじゃなくて、地震も少ない、原発もない、教育レベルも高い。そういう素晴らしい環境であることを、もっと発信するべきだと思いますね。
——まだまだやるべきことがたくさんありますね。
佐藤さん- 私はこの機関を始めて19年になりますが、これからは、「秋田モデル」を世界に発信していきたいと思っています。このノウハウはどこでも使えるので、世界に発信していこうと。
そして、この火を消さないように、鎌田さんのような若い人材による組織も作っていこうと思っています。そして近い将来、「自殺問題なんていうものが、昔、秋田にはあったんだって」と言われるような世の中にしていけたらと思っているんです。

【あきた自殺対策センターNPO法人蜘蛛の糸】
もしもいま、つらい気持ちを抱えていたら
遠慮せずに私たちにお話をきかせてください。
もしも身近に、悩んでいる方がいたら
相談できる場所があることを、伝えてあげてください。
〈住所〉秋田市大町三丁目2-44 恊働大町ビル3F
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