秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:竹内厚 写真:蜂屋雄士

いつでも竿燈を楽しむひとつの方法。
秋田市民俗芸能伝承館(秋田市大町)

2018.04.25

秋田を、東北を代表する夏祭り「竿燈かんとうまつり」。数多くの提灯を吊るした竿燈が大小280本以上、夜の街を約1万個の提灯が揺れて舞う豪壮華麗な祭りです。といっても、竿燈まつりの行われる夏の4日間に秋田市を訪ねることができない人はどうすればいいでしょう。そう、秋田市民俗芸能伝承館(愛称:ねぶり流し館)がいつでもあなたを待っています。

秋田市民俗芸能伝承館を訪ねた日、館内に入るとこんな光景が飛びこんできました。いきなり。竿燈の実演です。 高さ12mという、まさにこの実演のためにあつらえられた室内でかつがれる竿燈。これでも中若ちゅうわかと呼ばれるサイズで、大若おおわかという最大の竿燈はさらに2~3m高く、重さは50kgにも達します。

私がはじめて「竿燈まつり」を見たときにも、驚かされたのは目の前で繰り広げられるパフォーマンス。遠くから俯瞰の目線で見れば、夜の街に竿燈が揺らめく風流な景色ですが、それを支えるのは人力。たったひとりの差し手が、手のひらだけでなく額、肩、腰にまで竿燈を乗せていく力と技の演技は、実はかなり個性的でそれぞれの人柄がにじむようでした。しかも、差し手によっては一本歯の高下駄を履いたり、さらに傘を回してみたり。思わず「そこまでやるんだ!」と感嘆の声が漏れます。

「できるだけ動かないことが前提ですね。そのうえで、簡単に余裕をもって乗せているように見せること、大きく見せることを目指しています」と教えてくれたのは、この日実演を担当していた市職員の世継よつぎさん。手を広げているのにはそんな理由もあったんですね。

秋田市民俗芸能伝承館には、そうした技を証明するような資料も展示されていました。

市内でもこの高下駄を履いて竿燈をあげられる人は数えるほど。昔は、箱からハトを出すなど、さらに自由度の高い演技が披露されていたという。
竿燈まつりの期間中には「妙技会」が開催され、町や職場単位で技を競う。
いっせいに竿燈をかつぐ様が描かれた絵で見ると、妙技を競う祭りでもあることがよくわかる。
提灯を吊るす軸となる親竹に何本もの継竹つぎたけを足して、長さを伸ばしていく。
世継
実はこの竹を手配するのも大変なんです。山へ採りに行ったりもするのですが、肉厚でまっすぐ、節の間隔もちょうどいい理想的な竹は、1日山を歩いても2、3本あるかどうか。採ってきた竹もすぐ使えるわけではなく、乾燥に最低でも3年、理想をいえば5年以上乾燥させる必要があるので。

——竹のよしあしも演技を左右するんですね。

世継
そうですね、いい竹を使うと最終的には差し手の技量に左右されますが、重心のブレが少なく持ちやすいです。なかには、採ってきた人の名前がついている竹もありました。高速道路を走っていて、いい竹やぶが目に入ったりするとつい気になってしまいますね(笑)。
このしなり! 竹の大切さもよくわかる。

秋田市民俗芸能伝承館のいいところは、こうした「竿燈まつり」のちょっとした疑問も話を聞く機会が持てること。 そしてもうひとつ、小さな竿燈に誰でも挑戦することもできるんです。竿燈まつり本番では、女性はお囃子などを担当して、竿燈をかつぐのは男性に限られていますが、この伝承館では女性も体験することができます。

当然、目線は上で固定、口は無意識に開いて、おのずとこの顔になる。単純な力でもバランス感覚だけでもなく、やりはじめたら夢中になってしまうやつ。

——みなさんもかなりの練習を積んでますよね。

世継
祭りの1カ月前になると練習を始めますが、その前から筋トレをやったり、継竹だけで訓練をしている方もいます。遊びの範疇ですけど、箒やハシゴといった長いものを見たら、ちょっとかついでみたくなるのは竿燈好きのあるあるかもしれません(笑)。

早い子だと幼稚園の頃から小さなサイズの竿燈をあげはじめるそうで、3歳から立派に竿燈をかつぐ“神童”もいるんだとか。4年前の妙技会で史上最年少の個人優勝を果たした貴志冬樹きしとしきさんという若き名人は、まさに3歳から竿燈まつりに参加。世継さんも憧れる存在だといいます。

世継さんの演技。定期公演は4~10月の土日祝日に行われているが、その他の季節でも随時披露される。

祭りは祭りの開催期間に。それがもちろん第一ですが、オフシーズンだからこその発見や体験もあります。祭り本番とはまた違った形で竿燈まつりを身近に感じられる。それが秋田市民俗芸能伝承館のいいとこですね。

各地区、職場・団体ごとに提灯のデザインが違う。4~10月の週末実演は、各地区が持ち回りで登場する。
竿燈まつりは毎年8月3日~6日、秋田市中心部の竿燈大通りで開催。妙技会は4~6日の日中に行われる。

【秋田市民俗芸能伝承館(ねぶり流し館)】 〈住所〉秋田市大町1丁目3-30〈観覧料〉お一人様100円(高校生以下無料) ※団体(20名以上)料金、関連施設との共通観覧料などの詳細はHPへ 〈時間〉9:30〜16:30 〈TEL〉018-866-7091 〈ホームページ〉http://www.city.akita.akita.jp/city/ed/ak/fm/default.htm/