秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
東成瀬村編

編集・文:菅原真美 写真:高橋希

農村のお母さんたちが作り出す、“働く未来”。―なるせ加工研究会―

2020.03.18

東成瀬村にある「農事組合法人 なるせ加工研究会」。以前、なんも大学の「秋田もっちり旅」の記事でもご紹介した郷土菓子「あずきでっち」をはじめ、さまざまな加工食品を製造、販売しています。

こちらが「あずきでっち」。小豆と、もち米を使用した東成瀬村の代表的なおやつ。程よい甘じょっぱさと、もちもちした粒感がたまらない。

2017年には、秋田の農業のアカデミー賞ともいえる祭典「秋田県種苗しゅびょう交換会」 で、この「あずきでっち」が「農林水産大臣賞」を受賞。過去にも数々の商品が賞に輝いていて、なるせ加工研究会は、食品加工のスペシャリストともいえる存在なんです。

そんな、なるせ加工研究会のメンバーのほとんどが東成瀬村に住む60歳以上のお母さんたちです。今回、お話を伺ったのは、代表の谷藤たにふじトモさん。まずは、会の成り立ちについて伺いました。

谷藤さん
谷藤さん
昭和57年頃かなぁ。当時、地域の生涯学習で食品加工を学べる講座があって、そこへ通い始めたんです。農家のお母さんたちが集まって、自分たちで作った野菜や近くの山で採れた山菜を持ち寄って、加工食品の作り方を教わっていました。

——ちょっとしたお料理教室みたいな?

谷藤さん
谷藤さん
そう、そう。それが3〜4年続いて、そろそろ講座も終わりだなっていう時に、役場の方に「東成瀬村は、なんにもお土産がない。せっかくこういう会ができたから、お土産になるようなものを作ってけねが。村の方でも協力するから」と言われて。
谷藤さん
谷藤さん
「それじゃあ…やってみるがぁ」という本当に軽い気持ちから始まって。講座で習った筍の瓶詰めをみんなで作ってイベントで売ってみたんです。そしたら、ぼちぼち売れて、気をよくしちゃったもんだから(笑)。
現在でも「山香る」シリーズとして、東成瀬村の山で採れた筍やキノコの瓶詰めを販売。手前にあるのは「ばっけみそ」。“ばっけ”は、秋田弁で“ふきのとう”のこと。春になれば、みんなで近くの山へ収穫しに行くそう。
谷藤さん
谷藤さん
あの頃、私も30代で若かったのね。元々は湯沢市駒形町こまがたちょうの生まれで、よそからここへ嫁いできたから、誰も知り合いがいなくて。でも、そこで友だちができたり、ほぼお姑さんくらいの年代の方々に面倒みてもらいながら、一緒に作ったりしてすごく楽しかったの。
谷藤さん
谷藤さん
それから生涯学習のメンバーたちと、農協の女性部が合同で活動することになって、昭和62年に「なるせ加工研究会」が正式に設立されました。平成21年には法人化して、今は13名が働いています。

ものづくりは、“もったいない”から。

東成瀬村産「完熟トマト桃太郎」を使用した「飲めるピューレ」や「トマトジャム」、「手作りケチャップソース」。どの商品もトマト本来の甘みや濃厚さがストレートに伝わってくる。
東成瀬村産トマト「麗夏れいか」を使用したソースやピューレ。パスタやうどんなど麺類との相性が抜群。

——商品を見ると、地元産のトマトを使用したものがたくさんありますね。

谷藤さん
谷藤さん
東成瀬村はトマトの産地で、 かつて夏秋かしゅうトマトの生産日本一にもなったことがあったんです。でも、生産量が増えるほど、必ず「規格外」のものが多く出てくるじゃないですか。その“もったいない”をどうにかしたいという思いがあって、トマトを使った加工品がたくさんあるんです。
この日、加工所内では焼肉のたれやケチャップソースなどに使用するりんごの下処理中。
こちらのりんごも小傷があったり、サイズにばらつきがある規格外のものを利用している。
りんごの皮や痛んだ部分を綺麗に取り除いたものを蒸し、ミキサーでペースト状にしたものが商品に使用される。
谷藤さん
谷藤さん
「かゆ餅」というお菓子も、たくさん残っていた米粉を使って何か作れないかなぁと考えていたとき、湯沢市の皆瀬みなせに住む方が作ってきてくれて。「こりゃ、うんめえ!」となって、商品にしました。
「かゆ餅」は県南地区で食べられる保存食。米粉と、お粥を混ぜて丸く伸ばしたものを一度凍らせた後、 氷点下の中、数日掛けて天日干しにする 。
米油で揚げると、外はサクっと、中は少ししっとりとした食感に。一度食べ出したら止まらない砂糖醤油の味。各商品が購入できるのは、県南地域のスーパーや道の駅、加工所に併設された「夢・なるせ直売所(4月下旬〜11月下旬、営業予定)」など。直売所が閉店している間は、加工所内の事務窓口で直接購入できる。

楽しみは、10時と15時。

時刻は15時。加工所で作業していたみなさんが事務室へと戻ってきました。
ここから、30分間のたばこの時間(秋田の一部地域では、休憩時間をこう呼ぶ)。おいしい「お茶っこ」を飲みながら、ひと息つくのかと思いきや……部屋中に響き渡るマシンガントークと笑い声。
抱腹絶倒!?ここからは「なるせ女子トーーク!」をお楽しみください。

谷藤さん
谷藤さん
10時と15時の時間がいつもの楽しみ!私が「まだ、たばこでねぇの?」って言うと、いつもみんなから「まだだー!」って言われてな。

——リーダー自ら言っちゃうんですね(笑)。

メンバー
もういつものお決まりよね!
谷藤さん
谷藤さん
「時計、狂ってるんでねが?」って言うと……。
メンバー
「いや、おめの、体内時計が狂ってるんだ!」って言ってな。
一同
はははは(笑)。
テーブルの上を彩るのは、人参のいぶりがっこやポテトサラダ、黒豆の煮物などなど。
それぞれ持ち寄った手作りの1品が並ぶ。

——本当にみなさん仲が良いですね!

メンバー
もう家族みたいな感じよ。
メンバー
家族に言えないこともここでは言えるのよね。
谷藤さん
谷藤さん
家さ帰ると、ぶすーっとして無口になる。
一同
はははは(笑)。
谷藤さん
谷藤さん
家の人に「くたびれた!」って言えばよ、「なんだ?喋り疲れがぁ?」って言われるの。

——バレちゃっているじゃないですか(笑)。

谷藤さん
谷藤さん
もうここへ来るとね、卵10個以上食ってるようなものよ。

——卵、10個以上!?どういうことですか!

谷藤さん
谷藤さん
みんなで話して笑うとね、卵10個分以上の栄養をとったみたいに元気になるってこと!

働く楽しみも選べるように。

——女性のみなさんがいきいきと働く場で、大切していることはありますか?

谷藤さん
谷藤さん
それはね、やっぱり「チームワーク」ですよね。一番ほじない( だらしない)私が先になっているから、「なんとかしてけねば(なんとかしてあげないと)」ってみんなが団結してくれるんですよ。「ほらぁ、あの人また忘れでらぁ」って、まわりが助けてくれる。

あとは毎年年末に「検討会けんとうかい」というのをやっていて、みんなで出掛けたりするんです。美味しいもの食べて、湯っこ(温泉)さ入って、ちょっと昼寝して、帰りに晩のおかず買って、家さ帰る。

それだけで、母さんがたはおもしぇのよ。みんなでコツコツお金貯めて、「今度は、どこさ行こうか?」って話したり。そういう楽しみも作らなければね。
谷藤さん
谷藤さん
今、ここで働く人の多くは、60歳を越えて第一線を退職された方々なんですよ。

歳をとると、あちこち痛くなって油っこを差さなければならないんだけど、働いている時は自然と忘れちゃうのよね。逆に動かないでいると、心のモヤモヤが増えてしまう。

それに、農村だと定年してからの働き口が少ないんだけど、まだまだ働きたい人が元気に動ける場所が増えればいいなと思うんです。

——高齢化が進んでいく秋田で、定年後の暮らし方はとても大きなテーマですよね。

谷藤さん
谷藤さん
そうなんです。これからは、そんな方々にもっと入ってきて欲しいなと思っています。
それで、実はね、3〜4年前に、この研究会の定年を75歳に決めたんです。去年の春、その制度で2人退職しました。

80歳以上の先輩がたが働いてくれていた頃もあったんだけど、新しい世代に繫げていくためには、年齢的な面で一線を引かないとダメだなと思ったんです。
退職したお二人はまだまだ元気だし、長年頼りにしてやってきたから、やっぱり淋しかったけどね。
谷藤さん
谷藤さん
決断するのは大変でした。でも、お二人には作業着をそのまま置いていってもらって「ロッカーも空けたままにしておくからね」と言ってあって。忙しい時は手伝いに来てもらったりもしているんです。

——辞められても、縁は続いていきますからね。

谷藤さん
谷藤さん
私ももう数年で定年を迎えます。この研究会を続けていくためにも、柱となって一緒に働いてくれる人が現れてくれたら嬉しいですね。

【農事組合法人 なるせ加工研究会(加工所)】
〈住所〉秋田県雄勝郡東成瀬村岩井川字下村91-1
〈TEL〉0182-47-2220

【夢・なるせ直売所】
〈住所〉秋田県雄勝郡東成瀬村岩井川字下村91-1(加工所隣り)
〈営業日〉金・土・日・祝日 8:00~16:30
(4月下旬〜11月下旬、営業予定※天候により変更あり)

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