

美しい野菜に会いに、すみれファームへ。
2020.03.04
秋田市にある「すみれファーム」は、東成瀬村の農家が営む野菜の直売店。
秋田市の中心市街地ながら静かな立地、営業日は冬場は週1日だけ、店頭に並ぶのは3〜4種類の農作物のみと、とてもニッチなスタイルなのですが、この店の野菜に魅了された人たちが足しげく通っているといいます。
話によると「とにかく野菜が美味しい、そして美しい」とのこと。でも、秋田県最南端の東成瀬村の農家が、はるばる秋田市で販売するというのは、どういうことなんでしょう? 半信半疑のなか、お店を訪ねてみることに。



扉を開けるとすぐに目に飛び込んできたのが、しいたけ。一目見て、納得。
驚くほど大きく、肉厚、そして噂どおり美しい。見ているだけで心が踊ります。

迎えてくださったのは、すみれファームの佐々木修さん、美佳さんご夫妻です。
売り手にも、買い手にも、
ちょうどいい店
美佳さん- 今日販売しているのは、うちで作ったしいたけとお米、知人の作っているほうれん草と、親戚が作っているりんごですね。





美佳さん- 八百屋のようにたくさんの品目を扱ってしまうとなかなか管理ができないので、品数を絞って、良いものをしっかり伝えるということに徹しているんですよ。
——でも、東成瀬村から秋田市までは、高速道路を使って車で片道1時間半くらい。そこまでして店を構えたのには、どういう思いがあったんでしょうか?
美佳さん- 私は秋田市出身なので、こちらには縁が深いこともあるんですけど、以前、イベントで販売してから「野菜を売ってくれないか?」と言われることが多くなったんです。
でも、JAに出荷してしまうと、求めてくださる方の手にはなかなか届かない。とはいえ、個別に発送するのも効率が悪い……。

美佳さん- 迷っていたときに、ちょうどこの物件に出合ったんですよ。がやがやと不特定多数の人が通る場所ではないけれど、求めて来てくださる方には来やすい場所がいいな……と思っていたら、ぴったりの物件で。
それが後押しになって、店をやってみることにしたんです。
——どんなお客さんがいらっしゃいますか?
美佳さん- リピーターがほとんどなんですけれど、自分の分だけでなく「近所の人や友だちに頼まれて買いにきた」という方もいますね。
そして、面白いことに「お土産に買っていく」という人がすごく多いんですよ。
——そうやって、口コミで広がっていっているんですね。

美佳さん- 客層は、平均すると60代以上の方々。若い人は郊外に行けるんだけど、年齢の高い方は歩いて買い物に行ける場所も限られてしまっているので、街なかにあるこの場所はちょうどいいみたいです。
——「ここに来れば美味しいものに出合える」という楽しみもあるのかもしれません。それに、食べることももちろん、佐々木さんたちとの会話を楽しんでいる方が多い印象です。
美佳さん- みなさん、ふらっと寄っては、試食してくださったり、お茶をしながら身の上話をしていく方もいて、スーパーに買い物に行くのとは違う感覚で来てくださっているのがわかるんですよね。

どうしてこんなに大きいの?

——それにしても、立派なしいたけですね!
修さん- これは、大きく「する」んですよ。一般的に出回っているのはこのくらいですよね(写真左)。店頭用のはこのくらいまで大きいものもあります(写真右)。

修さん- うちのしいたけは、JAに卸すものと、こうして直接販売するものの2つに分かれているんですが、JAのほうはここまで大きくすることはできないんです。
——大きいと出荷できない?
修さん- 規格外になってしまうんですよ。ここで販売するものは、通常のものを収穫せずに、2日間くらい置いて大きくしているんです。


——傘の厚さも2〜3センチはありますね。
修さん- しいたけそのものの素質にもよりますが、軸が太いとしっかり厚く育つんですよ。
——ということは、軸を太く育てるのが大事なんですか?
修さん- いえ、軸の太さはなかなかコントロールできなくて、最初から太さはあまり変わらないので、太い芽が出たら、それをゆっくり育てていくんですよ。


修さん- 1個の菌床から何個の芽を出させるかでも違ってきます。1個からたくさん出そうとすると、どうしてもそれぞれに栄養がいってしまうので、ひょろひょろになってしまう。

修さん- それと、しいたけって、ショックを与えないと生えてこないんですよ。
——ショックを与える??
修さん- 水に漬けたり、叩いたり、温度調節をしたりと、菌床にショックを与えて菌を目覚めさせることで、芽が出てくるんですよ。
——刺激を受けて成長していく……なんだか人間みたいですね。

——表面が白っぽく、フサフサしているも印象的です。
修さん- 「この白いのは何?」って、よく言われるんですけれど、何て答えたらいいんだろう……産毛のようなものですよね。
——スーパーに並んでいるものには、なかなかこういうものはありませんよね。
修さん- 毎回店頭に出しているものは、前の日の夕方とか、その日の朝に収穫したものなんですよね。パックしたり、収穫して1週間もすると、水分が抜けていくし、この白い部分はなくなってしまうんですよ。
——新鮮な証拠なんですね。大きいものでも味に遜色はありませんか?
修さん- 味は変わらないですね。でも、食感は違ってきます。しいたけって、火を通すとすごく縮まるじゃないですか。なので、火を通してからの食べ応えというところでいくと、大きなものは格別ですよね。歯ごたえ、ボリュームが全然違います!
——これだけ見事な姿を前にすると、食べる側も誠実にいただかなければ、という気持ちになりますが、どう食べるのがオススメですか?
修さん- しいたけ好きの方は、オーブンや七輪で焼くのが一番っておっしゃいますね。うちのは軸を付けたまま食べてもいいし、繊維にそって割いたものを炒めて食べても美味しいですよ。
東成瀬村で農業をするということ
——農業を始められたのは、いつごろなんですか?
修さん- 平成8〜9年ころですね。

——それ以前は違う仕事をされていた?
修さん- はい。実家は東成瀬で農家をしていたんですが、結婚してからは、システムエンジニアなどをしながら8年ほど東京にいました。
農家の継ぐ予定の兄貴がいたんですが、訳あって兄貴ができなくなってしまって、自分が継ぐことになって。東成瀬に戻ってきました。

——東成瀬村で行う農業というのは、いかがですか?
修さん- 東成瀬村は、豪雪地帯なんですよ。隣の横手市や湯沢市も雪が多いと言われていますけれど、それとは比べものにならないくらい多い。
ほかの地域よりも冬が早くやってきて、春がやってくるのが遅いから、この土地で農業をするというのには、はっきり言ってハンデがあるんです。
でも、トマトでいうと「東成瀬のものは質がいい」と言われています。

——何が違うんでしょう?
修さん- 一般的には寒暖差だと言われるんですが、水や気候条件がトマトによく合っているんでしょうね。時期は短いけれど、トマトの力がよりよく出るようなやり方を試行錯誤しながらやっています。
——美佳さんは、農業に携わってきて、いかがですか?
美佳さん- 結婚するときは「農業はしない」って言われてたんですけどね(笑)。しかも、私は東京時代、原宿で働いてたんですよ! そこから東成瀬ですからね。

——東成瀬村には、スーパーはなくて、コンビニも1軒だけなんですよね。東京とは180度違う世界。
美佳さん- 最初は鬱になりそうでしたね。秋田市に住んでいたころですら、「こんな田舎イヤだ!」って思って東京に出て行ったのに、さらに田舎に来てしまって。
——どうやって乗り越えたんですか?
美佳さん- 子どもができてからかな。習い事の繫がりで、まわりの人たちと接するようになって、お母さんがたとも仲良くなったりして。

——それでも、村のなかだけでなく、こうして秋田市に店を持つことは良いリフレッシュにもなりそうですね。秋田での暮らしの一つの方法のようにも感じます。
これから、すみれファームとして目指していることなどはありますか?

修さん- より新鮮で、より充実した、味のある野菜を、みなさんの「日常の物」として食べて頂きたいと思っています。
秋田市に店を持ったことで、お客さんから「東成瀬の事が気になるようになった」「東成瀬のニュースに気持ちが向くようになった」と言っていただくことも多くなりました。
食や対面販売を通じて、東成瀬に興味を持って貰えていると実感しています。
いずれは、この繋がりから、村にも来て頂けるような流れを作っていけたらと思っています。

【すみれファーム】
〈住所〉東成瀬村田子内字滝の沢41
〈TEL〉0182-47-2205
【直営店 すみれファーム矢留】
〈住所〉秋田市千秋矢留町3-33
〈TEL〉080-9049-8864