秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希、秋田スティーラーズ

自分にだってできる
3×3秋田スティーラーズの挑戦

2021.08.18

「3x3(スリー・エックス・スリー)」というスポーツ競技をご存知ですか? 3人制のバスケットボール競技で、東京2020オリンピック競技大会から正式種目として採用されたこともあり、一度は目にしたことがあるという方も少なくないのでは?

2014年にプロリーグ「3×3.EXE PREMIERドットエグゼプレミア」が発足。現在は、5カ国(インドネシア、韓国、タイ、日本、ニュージーランド)、1地域(チャイニーズタイペイ)で全102チーム、日本には男子が42チーム、女子が6チームあります。

今年3月、この男子チームに新規参入したのが、にかほ市を拠点とする「秋田スティーラーズ」。発足したばかりのこのチームの代表として奮闘中の亀山星華かめやませいかさんにお話を伺います。

プロ選手はお肉屋さん?

——あらためて、3×3とは、どんなスポーツなのでしょうか?

亀山さん
亀山さん
3人制のバスケットボール競技で、コートの大きさは5人制で使うものの約半分。ゴールは1つ。1試合10分間で多く点を取るか21点先取すれば勝利となります。

体育館だけでなく、全国の駅前や商業施設などを会場に開催されていて、DJやMCが会場を盛り上げたりと、エンターテイメント性の高いスポーツになっています。
亀山さん
亀山さん
リーグの試合はYouTubeでご覧いただけるようになっています。

スマホの時代、時間の捉え方も変わってきていて、5人制のバスケのような40分という試合時間では離脱してしまう人も多くなってしまいます。その点、3×3は1ゲーム10分。短時間で気軽に、集中してみてもらえるんですよね。

——YouTubeでスティーラーズの試合を拝見しましたが、その展開の早さに驚きました。選手は現在、何名いらっしゃるんですか?

亀山さん
亀山さん
契約選手は6名です。というのも、リーグでは6名までの登録が原則となっているんです。そして大会の都度、その中から4名までエントリーできるようになっています。

6名中、秋田在住の選手は2名で、ほか4名は関東在住です。

——県外の選手が大半なんですね。

亀山さん
亀山さん
はい。リーグの試合は週末に開催されるんですが、コロナ禍で練習も厳しい状況。今は現地集合で調整しています。

プレイシーズンが5月から8月までの4カ月間で、今年は全部で8大会。収入源の基本がファイトマネー(出場給)なので、全国的にみても、選手それぞれが他に仕事を持ちつつプレイしているんです。

——みなさん兼業されているんですね。

亀山さん
亀山さん
はい。リーグとしても兼業することを推奨しているんです。バスケに限らず、スポーツ選手は選手生命が短いですよね。

スポーツをしている子どもの親御さんたちって「スポーツじゃ食べていけないよ」という方が多いんですが、ほかに仕事を持ちつつプロを目指すことができるというのは魅力の一つだと思っています。

公務員をしながらプロ選手をやっている方もいるし、バスケをしている社会人の方から「え? 仕事、辞めなくてもいいの?」という声もあったりします。「自分も目指せる」と思ってもらえたら嬉しいですね。

——秋田在住の選手はどんなお仕事をされているんですか?

亀山さん
亀山さん
一人は肉の配送業、もう一人は県外出身で、企業スポンサーでもあるバスケットスクールで働いています。

——配送業をされている方は秋田県内のご出身?

亀山さん
亀山さん
にかほ市出身なんですよ。

——自身の出身地域のチームに所属してプロスポーツができているなんて、幸せですね!

にかほ市出身の佐々木学選手に伺いました。

佐々木選手
佐々木選手
ふだんは食肉加工品などを扱う会社で配送と営業をしています。以前は製造業をしていたんですが、バスケとは関係なく、4月にこの仕事に転職しました。

今の仕事は終わり時間も遅いし、水曜と日曜だけの休みなので、その1日をバスケに費やすのも厳しい。両立できているのかと言われるとなんとも言えないところです。
佐々木選手
佐々木選手
でも、みんなやりたいんですよね。3×3は自分も含め30歳オーバーの選手が多いんです。Bリーグができたのは自分が大学生のころで、下の世代はそこを目指すことができたけど、自分たち世代は目指せなかったから。だから今、こうやってプロを目指す環境があるっていうのは大きいですね。
佐々木選手
佐々木選手
コロナ前は毎週のように試合があったのでファイトマネーだけでも結構稼ぐことができる環境。元のように試合ができるようになれば、仕事の仕方も選びながらバスケにウェイトを置くことも考えられるようになります。

オリンピックで盛り上がってきていて、配達先でも「体力キツぐねぇが?」なんて声をかけてもらえるようになりました。36歳と、年齢的にも厳しいところなんですが、なんとかがんばって続けていきたいですね。

スポーツの力を信じて

——亀山さんはにかほ市のご出身なんですよね?

亀山さん
亀山さん
はい。高校を卒業してからは公務員をしていて、ずっと県外にいたんですが、2020年の春に地元に戻ってきました。

——それは、このチームを作るために?

亀山さん
亀山さん
チームを作るためというよりは、秋田のために何かできないかっていうのが強くあって。
元々、公務員に就いたのも「世のために何かしたい」という思いがあったからなんですが、「秋田のために」と考えても、秋田のことを知らないが故に、うまく発信できないのがすごくもどかしくて。まずは戻ってみて考えることにしたんです。

——「秋田のために」から3×3まで辿りついた?

亀山さん
亀山さん
元々、「スポーツで」地域を盛り上げたいという思いはあったと思います。秋田県民って、よそ者を受け入れづらかったり、初対面だとうまく距離を縮められない。

でも、Bリーグの秋田ノーザンハピネッツや、高校野球での金足農業高校の活躍を通して知らない人同士でも盛り上がっている様子を見て、あらためて「スポーツってすごいな」と感じるようになりました。
亀山さん
亀山さん
それに、自分自身、県外にいたころは知らない土地で不安もあったけれど、そこでバスケをしたことで職場と家の往復だけじゃない、もう一つの居場所ができたのも大きいですね。

——それでも、プロチームを作るというのはなかなかのこと。その熱量はどこから湧いてきたものなんでしょう?

亀山さん
亀山さん
「草バスケでもいいじゃん」って言われることもよくあるんですが、子どもたちに夢を与えるという意味で「プロ」という肩書きは魅力に感じました。

そして、何でもない自分がやることで、「あの人でもできるんだ。自分でもやってみようかな」と、誰かの気持ちを後押しできるかもしれないと思ったんですよね。

亀山さんとともにチーム支える広報担当
佐藤柚羽さんにも伺いました。

佐藤さん
佐藤さん
私は、にかほ市地域おこし協力隊としてスティーラーズの広報を担当していて、SNSでの発信などをしています。

北秋田市出身で、もともとバスケをしていたんですが、どちらかというと見るほうが好きで。バスケに関わることを仕事にしたいと思っていたので、高校卒業後は県外に出て専門学校でスポーツビジネスを学んでいました。

「秋田には何もない、秋田じゃできない」と思って県外に出て、帰ってくるつもりもなかったんですが、スティーラーズの発足のことを知って、すぐに亀山さんに連絡して、秋田に帰ってきました。

私はこのチームのおかげで、やりたいことを秋田で見つけることができました。これからは、同じように思っているような人たちに、私にとってのスティーラーズのようなものを見つけてもらったり、帰ってくるきっかけや居場所を作っていけたらと思っています。

まずは知ってもらうことから

——今シーズンからリーグに所属して、残りの大会は8/21を残すのみとのこと。手応えはいかがですか?

亀山さん
亀山さん
実力ではベテランチームには到底及ばないのですが、第一目標は秋田の方にこういうスポーツがあることを知ってもらうことだと思っています。

ゆくゆくは、秋田在住の選手を増やしていきたいという気持ちもあるのですが、今はそもそもの競技人口が少ないので、もっと手前のところを整備していかないといけません。
亀山さん
亀山さん
コロナ禍で今は難しいことが多いのですが、チームに県外の選手がいることは「秋田のために」という思いの一つでもあって、秋田にゆかりのない選手を秋田に呼んで一緒に練習して、その流れで観光もしてもらうということも考えています。

それに、秋田が開催地になれば併せてファンのみなさんにも観光をしてもらえたりもする。

——チームがあることが関係人口を作ることにも繋がる。ここから盛り上げていくには、亀山さんや選手だけでなく、地域や企業の協力も必要ですね。

亀山さん
亀山さん
自分たちがバスケをできればいい、ということだけではないんですよね。スティーラーズという名前は、「星」のラテン語「ステッラ」と、「力強い」という意味の「スチール」を組み合わせた言葉です。

星型って5つの点を繋いでできていますよね。その5つに、行政、ファン、チーム、地域、企業を当てはめています。そのみんなで、力強く、これからの未来を作っていけたらと思っています。

【秋田スティーラーズ HP】
https://www.steelers3x3.com/