Hanayome Dochu (Bridal Procession): 4. Looking to the future


編集・文:矢吹史子 写真:高橋希
太陽から生まれた、じゅんさいピッツァ?!
2019.08.28
三種町はじゅんさいの生産量が日本一。町の各所には、じゅんさい沼が点在し、毎年5月中旬から7月にかけて、その収穫が行われます。(その様子は、動画「Discover AKITA」にてご覧下さい。)
じゅんさいといえば、お吸い物などにちょこんと浮かぶイメージの食材ですが、日本一の三種町では食べ方も個性的。 鶏肉やごぼう、きのこなどとともに、大量のじゅんさいを入れる「じゅんさい鍋」は、地元では夏の大定番。

さらには、じゅんさいソフトクリーム、じゅんさい丼などが食べられるお店もあるなか、なんと、じゅんさいが乗ったピザまであるというのです! じゅんさいとピザ……? なんとも想像し難い組み合わせですが、いったいどんなものなのでしょう?


気になるメニューを求めてやってきたのは、三種町JR森岳駅のそば佇む「ピエーノディソーレ」。三浦千富さん、悦子さんご夫婦が営む店です。
お邪魔するなり、さっそくお目当てのメニュー「じゅんさいピッツァ」を注文。そして待つこと十数分。

こちらが「じゅんさいピッツァ」!

チーズは、モッツァレラとマリボーの2種類を使用。ベーコン、ズッキーニ、そしてたっぷりのじゅんさいが色鮮やかに乗っていますが、気になるお味は……? 不安を抱きつつ、いただきます!
ん……?!
じゅんさいの「ぷりぷり、シャキッ」とした食感に、チーズのなめらかさ、そして生地のもちもち感……一体となってやってくるさまざまな食感の波!
おいし〜〜〜い!!!
程よい塩気のチーズと、ほんのりとした甘みの生地が、じゅんさいの魅力を損ねずにしっかり調和しています。「これって、じゅんさいの最高の食べ方なのでは?」と思えてしまうほど。

ほおばるごとに感動しながら、妻の悦子さんにお話を伺います。
——まさか、じゅんさいがこんなにピザに合うとは思いませんでした!
悦子さん- 地元の方もこういう食べ方はしないから、みなさんびっくりされますね。鍋にしたり、つけ麺用のつゆをかけてわさび醤油をかけて食べることが多いんですけど、ピザというのはないですよね。
——この味にたどり着くまで、かなり試行錯誤したのでは?
悦子さん- 難しかったですよ〜。はじめは、ニシンの塩辛を一緒に乗せたものを考えていたんですが、ニシンは苦手な方も多いだろうと思って。じゅんさいは透明感がすばらしいので、そのままの美しさをピザに乗せられるように、芸術的に仕上がるようにって考えていったら、どんどんシンプルになっていって、今の形になりました。
——「芸術的」というのが大事なんですね。
悦子さん- そうですね。そこにこだわっちゃってます。この店を始めて5年になるんですが、やっと地元の方にも親しんでいただけるようになってきました。まだまだこれからですよ。


——じゅんさいは生のまま乗せるんですね! 色鮮やかで、シャキシャキ感もしっかりあったので、焼いたピザに、後から茹でたじゅんさいをトッピングしてるのかと思っていました。


- 千富さん
- 焼き時間は1分半。石窯の中は400度になります。その間でちょうど良く火が通るから大丈夫なんですよ。最初は茹でてみたりもしたんだけど、試行錯誤の末、今の作り方に至りました。


——お店を始めて5年とのこと。以前からこういう夢があったんですか?
悦子さん- とくにお店をやりたいとは思っていなかったんですけれど、あるとき、家族で山形に遊びに行ったらスキー場に石窯のピザ屋さんがあったんです。そこでみんなでピザを食べたらすごく楽しくて。家族で一つのものをつまんで食べる、というのが妙に心に残ったんです。

悦子さん- それで、こっちに戻ってきてから、試しにドラム缶で簡易的な石窯みたいなものを作って焼いてみたら、「こんなに美味しいの!?」っていうくらい美味しくて、「本物の石窯でやれば、なんぼ美味しいべな〜」ってなって。
失敗するかもしれないけど石窯を作ってみようって、本格的に材料も揃えて作り始めてしまったんです。
——そこから、お店にまでしてしまうといのうには、何かきっかけがあったんでしょうか?
悦子さん- じつは、この店を始める前、家業として運転代行業をしていたんですが、時代の流れもあって止めることになってしまったんです。同時に、それぞれ副業もしていたので、いつかは夫婦で一緒にできる仕事をしたいとも思っていました。
そんなときに、ピザの世界に出合って。三種町にはこういったお店もなかったので、何か新しいことを始めたら以前仕事でお世話になったみなさんにも恩返しができるんじゃないか? 自分たちの人生の後半、町のみなさんも自分たちも楽しめるものにできるんじゃないか? って思ったんです。

——実際に始めてみて、いかがでしたか?
悦子さん- 想像以上に大変でした。最初は「お店をやる」ということに私が自信を持てなくて、お父さんには当たってしまうこともありましたね。もう、へろへろになりながらやっていましたよ。 でも、幸運にも、新聞やテレビで取材していただいたりして、最初はたくさんの方に来ていただいたんですよ。

悦子さん- でも、そのあとに試練というのもやってきました。3年目、4年目、お客様に来ていただけない時期が続いたんですよね。さらには、お手伝いしてくれていた人たちも事情ができて来られなくなってしまったり。波が引けていくようにして、みんな離れてしまったんですよね。
——それは、どうやって解決していったんですか?
悦子さん- とにかくできることを考えて動く。トイレ掃除とか床ふきとか、基本的なことを徹底的にやりました。笑顔と明るさをもってね。
これはメンタルを強くしなければいけない時期なんじゃないかなって、あきらめずに続けました。「ほんとうに私たちにお店をやっていけるのか」って、試されている期間だったんじゃないかな、と思いますね。
でも不思議なもので、自分が強くなってくると、お客様もぞわっとやってくるようになったんですよ。

——お店の「ピエーノディソーレ」という名前は、どこから付けられたんですか?
悦子さん- 「太陽がいっぱい」っていう意味なんですけど、この石窯は、太陽に見立てて作ったんです。
私は、誰もがみんな、個々に才能を持って生まれてきていると思うんですよ。それに、美しいものに触れると、希望や喜びが溢れて、自分の中身が出しやすくなってくるそうなんです。ここに来ることで、みなさんが自分の才能を開花できる、そんな場にしていきたいなと思うんですよ。
——じゅんさいピザを「芸術的に」と目指したのは、そういう思いからだったんですね。太陽はその思いの象徴。 お二人のホスピタリティに触れながら美味しいピザをいただいて、私たちもエネルギーをいただきました。ごちそうまでした!

【ピエーノディソーレ】
〈住所〉山本郡三種町森岳字柳田1-4
〈TEL〉0185-88-8820
〈営業時間〉11:00〜16:00
〈定休日〉月曜日・火曜日(祝祭日の場合は営業)