秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
三種町編

編集・文:じゃんご 写真:船橋陽馬

「この砂像、どうやってつくったの?」砂像彫刻家に聞いてきた!

2019.08.21

毎年、三種町みたねちょうで開催されている「サンドクラフトinみたね」を知っていますか?

これは、環境省の「日本の快水浴場百選」にも認定されている釜谷浜かまやはま海水浴場で繰り広げる砂像制作展示イベントです。

環境とアートによる「まちづくり」と、子どもに夢を与え郷土愛を育てることを目的に開催されているイベントで、23回目となる今年は、7月27日、28日の2日間で34,000人が来場し、大盛況となりました。

一般の部、子どもの部の2部門で砂像の芸術性を競う「砂像コンテスト」の他、三種町関連の砂像や過去の砂像コンテストにおいて実績のあるチームが制作する「中型砂像」など、今年は全39基がずらり並んだ。
砂像コンテスト出品作品「天使」(チーム名:はまなす)
砂像コンテスト出品作品「人生は毎日がRenew!」(チーム名:メロンで乾杯)
制限時間内で砂像のアイディア、テクニック、完成度等を高校生対抗で競う「砂像甲子園」も行われた。

なかでも、ひときわ注目を集めたのが、招待作家による「特別砂像」の数々。

「Time travel」松木由子まつぎよしこさん(高知県)
「時空のRenew」尾張砂像連盟(愛知県)
「Phoenix dream」Fanny Vieiraさん(ポルトガル)
「Before the dawn」周聖強さん(台湾)

いかがですか? ものすごいクオリティですよね! でも、この砂像たち、どうやってつくられているのでしょう? 見るほどに、「雨や風で崩れないの?」「制作期間はどれくらい?」と、裏側も気になってきますよね。

そんな疑問もあろうかと、じつは、開催直前の会場へ潜入してきました!
このイベントの「砂像プロデューサー」を務めている保坂俊彦ほさかとしひこさんにお話を伺います。

保坂さんは能代市出身の彫刻家。世界各地のサンドクラフト大会に出場し、受賞歴も多数。「サンドクラフトinみたね」には第1回目から携わっている。

砂像ってどうやってつくるの?

——この砂像は……ゾウ……!?

保坂さん
保坂さん
ゾウに見えますが、これは「ガネーシャ」なんです。ヒンドゥー教の神様ですね。
幅約5メートル、高さ約3メートル。約80トンの砂でつくられている。

——遠くから作業を見ていたのですが、保坂さん、何も見ないで制作していますよね? 設計図って無いんですか?

保坂さん
保坂さん
設計図ね……。
ポケットをガサゴソ……。

——小さい! これが設計図!?

保坂さん
保坂さん
ほとんどメモ書きですね。

——文字や数字も書いてないんですね。「ここは〇センチ」とか。

保坂さん
保坂さん
砂像というのは、ベースとして木製の型枠に砂を詰めたものが用意されます。その型枠を上から順に外しながら削っていくんです。僕の木枠は5段あって、例えば2段目に顔がくるとか、3段目にお腹がくるとか……それだけわかるようにメモしています。
保坂さん
保坂さん
昔はもっと精密に図面を描いたり、小さなスケールの模型をつくったりしていましたが、まぁその通りにはいかないんですよ(笑)。
砂なので、型枠を外した時に角が落ちちゃったりもするんです。そんな、計算できないことが起きてしまうので、だいたいの位置だけ決めて、あとはやりながら調整していきます。

——なんというアドリブ力……。ちなみに、砂像の制作期間はどれくらいですか?

保坂さん
保坂さん
このガネーシャの制作期間は10日ですね。

——そんな短期間で作られるんですか?!

保坂さん
保坂さん
イベントの場合、制作期間は事前に決められています。でもその期間、天候が悪ければ制作できない日があるので、砂像づくりは時間との戦いになるんです。

砂像ってやわらかいの?

保坂さん
保坂さん
登って、触ってみてもいいですよ。

——え!いいんですか!?それでは失礼します……。

——うぉ~!!固い。なんだかアスファルトみたいですね~。砂像って触ったらすぐ崩れちゃうものだと思っていました。これだったら風もしのげそう。

保坂さん
保坂さん
削ったらすぐ、専用の凝固剤をかけて、削って、またかけて……を繰り返すんです。細かい部分は凝固剤10回くらいかけています。固まっているのは表面の数ミリのみで、少しでも力を加えると崩れてしまうのですが、多少の風雨なら大丈夫。

——細かい部分まで模様がついてる! 近くで見ると遠くから見るのとではまた違った砂像の雰囲気を味わえますね。

何を使ってつくっているの?

保坂さん
保坂さん
道具は専用のモノって無いんですよ。例えばこれは油絵用のハケ。あとはスプーンとか。ケーキの横に線をつける道具も使用しています。

——サンドクラフト専用の道具で制作しているのかと思っていました!

——保坂さんが首にかけているのはなんですか?

保坂さん
保坂さん
これは削りカスを飛ばすストローです。

——なるほど~!いろんな道具を駆使して作業していくんですね~。

砂像彫刻家という仕事

——保坂さんのような砂像彫刻家は日本にどれくらいいるんですか?

保坂さん
保坂さん
砂像彫刻のみで生計を立てている、ということでいうと、僕の知る限りでは、日本では2人しかいないと思います。それだけマイナーということですよ。サンドクラフトの大会自体、ここ5〜10年でやっと認知され始めてきたくらいなので。最近は「自然を使ったエコなアート」ということで、企業からの依頼も受けるようになってきました。

砂像彫刻家は日本に比べて海外のほうが多いですね。このイベントにも台湾やポルトガル、国内からは、高知県や愛知県からも参加してもらっています。僕自身も海外のイベントに呼ばれて、年間15カ所くらいに砂像を作りに行っています。
ポルトガルから参加しているFanny Vieira(フェニ ヴィエイラ)さん。
黒潮町砂像連盟(高知県)による特別砂像「空の上に届くケルン」。
砂像は360度楽しめる。「空の上に届くケルン」の後ろ側は、まるで石を積み重ねたようなデザインを、敢えて砂を彫って表現している。

——砂像彫刻家という職業の魅力はどんなところですか?

保坂さん
保坂さん
日本や海外、いろんな場所に行けて、いろんな人と会えることは、代え難い経験ですよね。それに、ものづくりをしている人間にとっては、つくる機会を得られるということ自体が最大の喜びなんです。そういった機会を与えて頂けることにとても感謝していますね。
保坂さん
保坂さん
天候などで苦労する部分も多いんですが、それよりも作っている時の充実感の方が遥かに大きくて……次はどこでどんな作品が作れるだろうって楽しみにしています。

ガネーシャに秘めた思い

このイベントで制作される砂像は、毎年決まったテーマに基づいてつくられています。
今年のテーマは「Renew~更新~」。
じつは、今年保坂さんが制作している「ガネーシャ」は、1997年の第1回開催の際と同じモチーフなんです。その時の「ガネーシャ」がこちら。

保坂さん
保坂さん
僕の母親が三種町出身というご縁もあって、第1回開催から参加させてもらっているんですが、人生で初めて砂像をつくったのもその時でした。なので、このイベントは、自分にとって原点と言えるイベントなんですよね。

——そこからの「Renew」。かつてのものと比較して見ると、まさに大幅に「更新」されていますね! 23年を経たガネーシャ、ご自身の評価は?

保坂さん
保坂さん
1回目の時は僕もまだ学生だったので、遊び半分でした。当時のクラスメイト3~4人で制作するのがやっと……。今は砂像制作を職業にしているので、プロとしての責任もあります。今年のガネーシャは、23年間で得た知識と技術を全てお見せ出来るよう制作ができたかなと。

——23年関わっていると、このイベント自体も変わってきたのでは?

保坂さん
保坂さん
毎年参加させていただいていると、お客さんや関係者の方からもたくさん声をかけてもらえるようになってきて、ほかのイベントとは違う、ホームのような安心した気持ちで作品を制作しています。
保坂さん
保坂さん
それに、最近は現場スタッフには20代も多くなってきたんですが、ということは、僕は彼らが生まれた頃から釜谷浜で砂像を制作していたことになるんですよね。そういう世代にも楽しんでもらいつつ、一緒にイベントを続けられていることが、今はすごく嬉しいです。
なにより、23年も続いていること自体が素晴らしいことだし、23年かけて三種町最大のイベントに成長していることが嬉しいですね。

イベントの開催は終了したものの、今年の砂像は、2019年9月1日まで展示されています。
保坂さんのガネーシャをはじめとする、素晴らしい作品を見に、釜谷浜海水浴場へぜひ足を運んでみてはいかがしょうか?

【サンドクラフト2019inみたね】
〈開催日〉2019年7月27.28日
〈砂像展示期間〉2019年9月1日まで
〈会場〉釜谷浜海水浴場:秋田県山本郡三種町大口釜谷
〈TEL〉0185-85-4830(実行委員会事務局)
〈HP〉http://sand-mitane.com/

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