秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
藤里町編

編集・文:竹内厚 写真:船橋陽馬

サフォークにホゲット
羊をめぐる冒険

2018.11.07

白神山地のふもと、どこまでも続くような草原に顔の黒い羊たちがのびやかに過ごす風景。まさしく牧歌的な世界が広がる、ここは藤里町が運営する町営の大野岱おおのたい放牧場です。

この牧場だけでも一見の価値あり……なんですけど、なんと今では藤里町でしか流通していないという羊肉もあり。それを食べられる場所にもドラマが! といくつもの物語が重なった、“羊をめぐる冒険”をお届けします。

大野岱放牧場で飼育されているのは、黒い顔と脚が特徴のサフォーク種。
景色が雄大すぎてカメラのレンズが追いつかない。
悠々と目の前を横切っていく黒毛和牛も。迫力がある。

藤里町が羊の飼育をはじめたのは約30年前から。もともと牛だけを放牧していた町営の土地に、全国的にもまだ珍しかったサフォーク種の羊を導入。最盛期には700頭を超えるサフォークを飼っていたといいますが、いまは数を減らして100頭程度になっています。

「牛のように大きな市場があるわけでもないし、正直、むつかしいです。一時期、撤退するかなんて話もあったけど、ここの土地を上手に利用するには何か飼育している方が楽だってこともあるんです」と話してくれたのは、放牧場で働く藤里町職員の高橋さん。

放牧場には遊歩道や展望施設も設けられている。

飼われているサフォークはすべて食用ですが、そもそも羊肉の需要が少ないうえに、日本で流通する羊肉の99%は海外のものだそう。
とはいえ、この数年、国産羊肉への注目度はじわじわと高まっていて、東京では羊肉を楽しむ「羊齧ひつじかじり協会」なる団体が生まれるほど、羊肉ブームはすぐそこまで来ています。粘り強く羊とつきあってきた藤里町に陽の目が当たる日も近い!?

そして、藤里町の羊といえば、もうひとつ決して見逃せないのがホゲットの話です。

こちらはラム。
こちらがあと1頭だけ残っていたホゲット。この違い、わかる?

ラムとは生後12か月未満の羊、マトンは生後2年以上の羊のことで、ホゲットはその間、生後1~2年未満の羊を指します。ラムよりも生育期間が長い分、肉量は増して、ほどよく柔らかくおいしい肉となるのだそう。

「藤里町はずっとホゲットをメインに20数年やってきました。ただ、ラムとは違って、ひと冬を越して育てなければいけないから、コストがかかる。ホゲットがおいしいのはわかってるんだけどね……」というわけで、ここでの飼育はいま、ほとんどラムになっています。

ん? ほとんどラム……ということは、そう、つまり年間でほんの20頭前後ですが、町内で消費するためだけにまだホゲットの飼育も続いているのでした。
そんなホゲットの肉がいただけるのは、藤里町のここだけという、「サフォークの館」へ!

大野岱放牧場から車で15分程度、自然公園の素波里すばり園地内に。

聞けば、藤里町のホゲットをゼロにしたくない! と町にかけあって、ホゲットの提供を続けているのが、サフォークの館に隣りあう「レストハウス白神」の細田薫ほそだかおるさんなんです。

話の歯切れもいい、しっかり者の女将さんといった雰囲気。

「藤里町のラム肉は白神ラムとして、たとえば東京でも高い値段を出せば食べられるんだけど、ホゲットはうちの店だけ。だって、ここで流通させる分しか育ててないんだから。今年もラスト1頭で終わり。あとは、もう全部つぶしちゃった。完売だよ」。

先ほど牧場で見かけたホゲットが最後の1頭。あれを食べてしまった後は、来年の春まで待たなければいけません。
ぎりぎり今年のホゲットに間に合った取材チームは、ホゲット定食をいただきました。

ジンギスカンスタイルで肉を焼くホゲット定食。1人前1800円(税別)、要予約。
食べやすくて味わいが深い。そして、ジューシー!

町のためにもホゲットを残した細田さんは、藤里町でいまも続く仕出し屋「藤見屋ふじみや」の末娘だそう。東京へ出て調理師として働いていたところ、観光地として衰退しはじめたレストハウス白神が売りに出されて、えいやと購入したといいます。

「おじいちゃんからラーメンのつくりかたを継承してるから、ラーメン屋をやろうと思ってね。だから、ラーメン屋なの、私(笑)。そうやってレストハウスを続けてきたら、今度は、ホゲットをやめるという話があったから、隣り(サフォークの館)を町から借りて。もう、ずっと借金人生よ」。

つまり、レストハウスのオーナーとなってラーメンを中心にやってきた細田さんが、ホゲットにも肩入れして、今はサフォークの館も運営しているという状況です。

レストハウス白神は、観光地の食堂という見た目ながら……
メニューにはなんとも肉の色が濃い。名物の白神ラーメンは馬肉チャーシュー入り。というのも、細田さんのご実家「藤見屋」はもともと肉屋だったそうで、肉の処理から部分けまで細田さん自らこなす。
なので、レストハウスながらラムのバラ肉、ホゲットのバラ肉も買える。
ホゲット肉は販売されるのを待ちかまえている町内の人も多いため、売り切れ御免。

冬は雪に閉ざされるため、レストハウス白神、サフォークの館は11月5日~4月末まで閉業します。
「4月のだいたい27日から始めることが多いかな。雪寄せて待ってるから、また来てくださいね」と細田さん。

藤里町の羊をめぐる冒険、駆け足でお届けしましたけど、きっとこれからまた注目度が上がっていくんじゃないかと想像します。それだけのポテンシャルとドラマが揃っていますから。

素波里は、戦前は鮎の素波里峡谷として知られた名勝地。レストハウス白神、サフォークの館の裏手には素波里湖があり、昭和40年代のダム完成後も自然公園として親しまれている。
こちらは大野岱放牧場の羊たち。

【大野岱放牧場】
〈住所〉山本郡藤里町粕毛字下萱沢197-外
〈TEL〉0185-79-1128

【レストハウス白神】
〈住所〉山本郡藤里町粕毛字南鹿瀬内38-1(素波里園地内)
〈時間〉9:00〜16:00
〈定休日〉月曜日 ※冬期間休業
〈TEL〉0185-79-1571

【サフォークの館】
〈住所〉山本郡藤里町粕毛字南鹿瀬内38-1(素波里園地内)
〈時間〉9:00〜16:00
〈定休日〉月曜日 ※冬期間休業
〈TEL〉0185-79-1571

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