秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
八峰町編

文:成田美穂 写真:船橋陽馬

今日は何して遊ぶ?
泊まれる秘密基地 CRANDS

2019.01.23

子どもの頃、近所の森で友だちと一緒に秘密基地を作りました。落ち葉や段ボールでできた小さな空間に、お気に入りのお菓子を持ってこっそり集まるだけで、毎日わくわくしていたものです。

「このままみんなで泊まれたらいいのに」と、何度も願ったあの頃の自分が見たら、大喜び間違いなし。そんな“泊まれる秘密基地”が、ここ秋田県八峰町はっぽうちょうにあります。

空き事務所をリノベーションして作られたCRANDS。

泊まれる秘密基地『CRANDSクランズ』がある八峰町は、県の最北端に位置し、白神山地や日本海に抱かれた自然豊かな町です。

「秘密基地だから、目立った看板はないんです」と迎えてくれたのは、オーナーの鈴木了すずきりょうさん。2016年に、「地域おこし協力隊」として故郷の八峰町へ戻り、移住・定住や空き家の利活用などの任務を終えた後、2018年の夏に『CRANDS』を完成させました。

『CRANDS』オーナー・鈴木了さん。

空き事務所の解体から始まり、デザイン・施工・仕上げ工事まで手がけ、地元の木工職人さんとともに、約3カ月でこの場所を作った鈴木さん。

そんなCRANDSの最大の魅力は、「1日1組限定の貸切宿」という宿泊スタイル。気心知れた仲間たちと楽しむもよし、家族水入らずで過ごすもよし。
それでは早速、中へ入ってみましょう!

折りたたみ式のテーブルやイスなど、室内でもアウトドア気分でくつろげるリビング。
薪ストーブやコンクリート打ちっぱなし風の壁、むき出しの配管が男前。
CRANDSは、完全自炊。キッチンには、調理器具や食器、簡単な調味料は揃っているから、食材をたくさん買い込んで、仲間たちと料理をしながら楽しく過ごそう!
北欧には「子どもが生まれたら外に“遊び小屋”を建てる」と言う文化があるそう。それをイメージして作られた2階ベッドは、子どもたちに大人気!
宿泊時は、寝袋に包まってキャンプ気分。寝袋の他に、エアマットレスや枕、シーツカバーもあるから快適だけど、もし不安な方は布団の持ち込みもOK。
薪で焚くお風呂もCRANDSの魅力のひとつ。浴槽に入ると目の前に海が見える。
元は廃材だった洗面所の天井板。1枚ずつ色を変えてランダムに貼ることで、明るく暖かみのある雰囲気に。

CRANDSを作る資金を集めるため、クラウドファンディングに挑戦した鈴木さん。174名の支援者と、当初の目標額を超える約287万円を集め、無事成功をおさめました。

しかし、そこからが本当のスタート。CRANDSのオープンから約半年が経ったいま、オーナーの鈴木さんにお話をうかがいました。

——地域おこし協力隊として八峰町に戻る前は、どんなお仕事をされていたのですか?

鈴木さん
大阪の大学で住宅建築を学んだ後、関東にある住宅メーカーで働いていました。学生の頃は、秋田から離れて少しでも遠くへ行きたかったんです。

でも、向こうで結婚して、家族と一緒に帰省するたびに「秋田ってやっぱりいいな」って。時間の流れ方の良さ、みたいなものを実感していきました。都会での生活に疲れていたんでしょうね。人混みに満員電車……よくあるパターンです(笑)。
鈴木さん
とはいえ、せっかく戻るならそれまでと同じような働き方じゃなくて、将来独立できるようにスキルアップしたかった。そんな時に「地域おこし協力隊」という仕事に出合いました。任期を終えたら強制的に次のステップに進まなきゃいけない、というところもいいと思って。

——なるほど。ステップアップ、という意識が強かったんですね。

鈴木さん
協力隊としてのミッションは、「移住」と「空き家の改修」でした。ちょうどその頃、雑誌やテレビで「リノベーション」という言葉を知ったんです。既存の空間の用途を変えるって面白そうだなぁ、と興味を持ち始めて。

でも、空き家の改修といいつつ、実際に手を動かすのは僕じゃなくて職人さんでした。僕の仕事は、作っている様子や情報を発信すること。その頃の僕のスキルは日曜大工以下だったので、企画はできても、技術を人に教えるなんてできませんでした。
鈴木さん
そんな時、のちにCRANDSを一緒に作ることになる木工職人さんに出会ったんです。それからは、改修作業の一部にDIYの要素を取り入れて体験してもらう企画を提案して、職人さんが参加者の指導をするのを見ながら、僕自身も一緒にスキルアップしていきました。

以前は、きれいな新築のモデルハウスを案内する立場で働いていたけれど、いまは「新しいものをどんどん建てるより、元の物件の良さを生かしていく方がコストも抑えられて、その空間に愛着が持てる」と思うようになりました。それからは、僕の中で少しずつ「リノベーション」が軸になっていったんです。
鈴木さん
協力隊の任期を終えてからは、リノベーションの依頼がバンバン来ることが理想だったけれど、その前に何か実績を積まないといけないと思って。

そのためには、ある程度の収入と、リノベーションの楽しさが見えるモデルハウスのような空間が欲しい。それに、八峰町にどんどん人を呼んで何か新しいことをしてみたい。そこでひらめいたのが、「宿」だったんです。

——なるほど。そこでつながるわけですね。

鈴木さん
そこで、相方の職人さんと一緒に、八峰町の酒蔵『山本合名会社』の社長に「ここのコンセプトを決めていただきたい」と相談しました。もともと知り合いでしたし、八峰町一のアイデアマンである社長なら、0から1を生み出す部分を担ってくれるんじゃないかと思ったんです。
鈴木さん
すると、山本社長は「ここの強みは“海”だよ。海がどーんと見えて、庭に薪風呂の窯があって。お客さんにはここで、普段味わえない非日常を体験してもらおう。だから、コンセプトは…… “秘密基地”だね」って。

——流れるようにアイデアが! それは、お二人からは出なかった発想ですか?

鈴木さん
そうですね。もちろん、海は大好きですが……こういう自然の豊かさってどこにでもあると思いませんか? 正直、僕たちは「日本という島国で、身近にきれいな海や山がある環境自体は、そんなに珍しくないんじゃないか」と思っていたんです。

実際、クラウドファンディングでも県外からの反応が多かったですし、海なんて見飽きている秋田県民は、ここには来ないだろうと思っていました。でも、いざ蓋を開けてみたら、お客さんの6割は秋田県内の方で……本当にびっくりしました。
山本合名会社が造る『CRANDS』限定の日本酒「わくわく」。クラウドファンディング支援者へのリターンとして限定醸造されているが、宿泊してくれた方には、希望すれば販売もしている(なくなり次第終了)。

——実際、お客さんが八峰町の自然を求めて来ている感じはありますか?

鈴木さん
あるとは思いますが、やっぱりこの「貸切空間」が一番求められてると思います。その満足度を高める要素として、海と山がある。

——さまざまな形態の宿があるなかで、なぜ「貸切」という形になったのでしょうか?

鈴木さん
自分が使える時間をなるべく増やしたかったんです。僕自身、いずれはリノベーションを軸に面白い空間をたくさん作っていきたい……とは思うものの、ゲストハウスのような形態だと、僕が管理人としてずっと滞在しなければいけないので、外に出てリノベーションの仕事をするのは難しい。

そこで、お客さんだけで自由に楽しめる「貸切」というスタイルにすることで、ある程度の時間を確保できるようにしました。

——なるほど。宿運営そのものが夢のゴールではない、ということですね。

——貸切ということで、気心の知れた友人や家族と宿泊するお客さんが多いのでは?

鈴木さん
そうですね。平均4名くらいの友人同士で泊まる方が多いです。あとは、カップルで来てくれる方もいますよ。

料理を楽しむお客さんがほとんどで、夏はウッドデッキでバーベキューしたり。でも、秋田は天気が良くない日も多いから、中でも楽しめるように、たこ焼き機やホットプレート、燻製器も用意してます。

——外も中も楽しみがいっぱいですね。私は、ウッドデッキにスクリーンを立てて野外映画館をやってみたいです。寒い時は、中で暖炉にあたりながらぬくぬくと観ます(笑)。

鈴木さん
いいですね! 実は、プロジェクターもスクリーンも貸し出せるので、すぐできちゃいますよ。好きなアーティストのライブDVDでも楽しめそう!

——誕生会や新年会のようなパーティーもいいですね。

鈴木さん
パーティーといえば、地元のママさんたちがこの前やってくれましたよ。やっぱり、誰かの家となると片付けとかいろいろ気を遣いますけど、ここだったらそういう心配もいりません。

ちなみに、CRANDSは場所だけ貸すこともできるんです。人数が多ければ多いほどお得だし、食器も20人分はあるので、ご家族やお友達も誘ってどんどん使って欲しいです。

——もうすでに開催されたかもしれませんが、日本酒の会とかどうでしょう?

鈴木さん
それが……まだやったことないんですよ。

——え! ここなら、帰りの心配をせずに楽しめるのに!

鈴木さん
ははは! それぞれ好きなお酒を持ち寄って飲み比べとかいいですね。山本さんのお酒が新しく出るたびに、新酒お披露目会をするのもいいかも。

——いままでで「これは面白い!」と思ったCRANDSの使い方ってありましたか?

鈴木さん
最近だと、パジャマパーティーですね! 県内の学生さんたちが、自分たちで用意したバルーンやお花で部屋を飾って、みんなで料理したり一晩中おしゃべりしたり。それがすごく楽しそうで、かわいい写真もたくさんあげてくれました。

——そっか、ここは写真撮影OKなんですね。

鈴木さん
そうです。おかげさまで、「#crands」を付けてInstagramに写真を投稿してくれるお客さんも増えていて。僕はいつも、チェックイン後にはいなくなるので、皆さんが実際どんなふうに使ってくれたのかはわからなくて。だから、SNSの投稿を楽しみにしてるんです。

その学生さんたちは、「パジャマパーティー」っていうコンセプトから、装飾や料理の材料までちゃんと準備して、ここを目的地として来てくれたんです。CRANDSの面白さを彼女たちなりに発見して、本気で遊んでくれたんですよね。僕には思いつかない遊び方だったから、本当にうれしかったです。

——「何して遊ぶ?」なんて、大人になるとなかなか言わない台詞ですけど、ここに来るとなったら自然と出てきますね。遊び方を考えるところから、すでに楽しいです。

CRANDSの「感想ノート」には、お客さんからのコメントがたくさん。「ここに新しくコメントが増えるたび、頑張ろう!って思います」と鈴木さん。
鈴木さん
これは偏見かもしれないけど、秋田の若者たちが県外に出ていくのは「ここに面白いことがない」って感じることが多いからかな、と。実際、僕もそうでしたし。

でも、秋田で生きることを選んだ子たちって、自分なりの「秋田の楽しみかた」をちゃんと見つけてるんですよね。もしかしたら、やむをえず残ることを選んだ子もいるかもしれないけれど、それでも「いま、ここにいる」と決めたことがすごいと思う。

——いろいろ不便なこともある中で、自分なりの楽しみを見出して生きているんですよね。要するに、「何を “遊び” と思うか」という話で。

鈴木さん
そうなんです。県外に出た子たちが、「秋田にはこういう楽しみ方もあるんだ」って気付くきっかけの一つに、この場所がなれたらいい。それがいま、CRANDSのやりがいになっています。

【CRANDS(クランズ)】
〈住所〉秋田県山本郡八峰町八森字椿台96-7
〈TEL〉0185-74-7170
〈HP〉http://crands-akita.com/
〈Instagram〉https://www.instagram.com/cochi_ryosuzuki/

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