

街のレストランが
目指したのは
真珠のネックレスでした。
2019.04.24
以前、能代市二ツ井町には、私の祖母の家がありました。
幼いころ、夏休みに遊びに行くと、くしゃくしゃの笑顔で出迎えてくれた祖母。とても料理上手な人で、いつも作ってもらっていた定番のおかずは、かぼちゃの煮物でした。
「ふたついのばあちゃんのかぼちゃ」と呼び、毎回大きな器にたくさん詰めて、お土産に持たせてもらっていたのを覚えています。
「レストラン真珠」は、初めて来たはずなのに、そんな懐かしい記憶を思い出させてくれる不思議な場所でした。

「はい、こんにちは。今日は何がいいかな? オムライスにオムハヤシ、カツカレーも人気だよ。うちの卵料理はね、ふわっとしておいしいの。それに、お肉料理のソースはそれぞれ味付けが違うのよ。ま、どれを食べてもおいしいんだけどね〜」
と、明るく出迎えてくれたのは、「レストラン真珠」の森田玲子さん。初来店の私たちのために、人気メニューの特徴を教えてくれました。




厨房からいい香りが漂いはじめ、どんどん運ばれてくる料理の数々。一瞬でテーブルの上がにぎやかになりました。




玲子さん- うちのオムライスは、卵が特別。養鶏場から毎朝直接届けてもらっているから、新鮮なのよ。冬限定で出している「きりたんぽ鍋」の比内地鶏のお肉も、同じところからいただいています。




玲子さん- この辺りは昔、秋田杉の伐採や運搬が盛んだったの。すぐそこの米代川を下ってきた木がトロッコに乗せられて、いつも店の前を通って行ったのよ。
近所に木材を運ぶトラックの会社もあって、そこのお偉いさんや作業員の皆さんがよく食べに来てくれました。
それに、若いお嬢さんたちは、着物の上にフリルの付いた前掛けなんかを着てね。当時はお店の一角にボックス席があって、そこで珈琲を飲みながらお見合いしていたお客さんもいらしたんですよ。

——たくさんの人が集まるにぎやかな場所だったんですね。
玲子さん- お客さんが行列を作る時もあれば、閑古鳥が鳴く時もありました。でも、健康で明るく、笑顔でいればいいの。毎朝起きたら、「はい、今日もがんばりましょう!」ってね。

玲子さん- 先代のおじいちゃんが、秋田市の洋食屋で修行をしていたんです。当時は、メニューの作り方なんて教えてもらえなかったから、こっそりソースを舐めたりして、舌で味を覚えたそうなの。
それから、一生懸命がんばって再現した味を、いまこうして私たちが引き継いでいます。


玲子さん- そうそう、うちはハヤシソースも人気でね、「ハヤシライス」は創業の頃からあるメニューなの。ずーっと変わらない味ですよ。


玲子さん- デザートは私が担当なの。ケーキにお団子に駄菓子、何が出るかはその日のお楽しみ。
でも、珈琲はお父さんが淹れます。昔は電動ミルを使ってたけど、いまは手動にしてるの。なんぼでも手を動かしてやったほうがいいと思ってね。


——ふだんは、ご近所のお客さんが多いですか?
玲子さん- そうだね。あとは能代市内とか、お隣(三種町)の森岳からいらっしゃる方が多いかな。


- 常連の
お母さん - 「家がすぐ近所だがら、毎日通っているの。オムライスみたいなご飯ものが好ぎだけど、今日は「鍋焼きうどん」にしたの。若い人だぢも、たまにはこういう店もいいでしょ?」

- 新一年生の
お父さん - 「我が家は、何かあると毎回ここに食べに来ますね。娘が頼んだハンバーグ定食も好きだけど、俺はいつもカツカレー大盛り! 中学の頃から通ってるから落ち着くというか、思い出の味なんです」

玲子さん- それにしても、今日は初めてのお客さんが多いわ。あなたたち、福の神だったのね!
——そんなことないですよ(笑)! どこか懐かしくて安心するこのお店の雰囲気に、皆さん引き寄せられたんだと思います。
玲子さん- だといいんだけどね(笑)。常連さんでも初めましての方でも、ここに来てくれたお客さんとの交流は、本当に大切にしたいの。私たちは、お客さんに助けられてここまでやってきたんです。

玲子さん- 昔からのお客さんで、結婚したりお子さんが生まれたりしたタイミングで、家族でお店に顔を出してくれる方々もたくさんいるの。生きるためにはお金も大事だけど、私にとっては、心の余裕と人との繋がりも大事ね。

昔ながらの味を守りながら、新しい出会いを大切に繋げていくレストラン真珠。
最後に、玲子さんに店名の由来を尋ねると、
「お店を始めた昭和9年の頃、真珠のネックレスって巷ではとてもハイカラなものだったのよ。それで、そのネックレスのように、“みんなが輪になって、いつまでも仲良くいてくれますように” って、願いを込めてつけたの」
と話してくれました。
テーブルに料理を届けるたび、「はい、来たよ〜」「熱いから気をつけてね」「いっぱい食べてちょうだいね」と、一言添えてくれる玲子さんの優しさが、なんとなく祖母の姿と重なり、思わず肩の力が抜けていきます。
玲子さん- 今日は、足を運んでくれてありがとう。つたない店ですけども、元気にがんばりますから! またいつでも来てね。

【レストラン真珠】
〈住所〉能代市二ツ井町三千苅6-1
〈時間〉11:00〜14:00、17:00〜18:00
〈定休日〉日曜日
〈TEL〉0185-73-2010