秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希

二ツ井のソウルフード、その名も「じゃっぷぅ」。

2019.04.17

秋田では、夏になると道路端にパラソルを掲げたアイス売り「ババヘラアイス」が現れます。売り子のお母さん「ババ」が「ヘラ」でアイスを盛りつけることから「ババヘラ」と呼ばれるこのアイスは、秋田の夏の風物詩といえる人気の冷菓。

「ババヘラアイス」については、なんも大学の記事をご覧ください。

しかし、秋田の冷菓はこれだけじゃありません! 今回ご紹介するのは、このババヘラアイスに負けず劣らず印象的な名前の「じゃっぷぅ」。能代市のしろし二ツ井ふたついで長く愛されている冷菓です。

「じゃっぷぅ」を求め、いざ、二ツ井へ! やってきたのは、コンビニエンスストア「ファミリーマート秋田二ツ井店」です。店内に入ると、早速、商品のポップがずらり。

まずはスタンダードなじゃっぷぅを購入。いただきます!

鮮やかなピンク色からすると、かなり甘いのでは? と想像してしまいますが、口に含んでみると意外にスッキリ! イチゴ味がベースで、かき氷よりもきめ細やか、アイスクリームよりも爽やか。シャリシャリしつつもなめらかな舌触りがたまりません!

美味しくいただいたところで、この商品の背景に迫っていきます。お話を伺うのは、このファミリーマートを経営されている、株式会社三國屋みくにやの代表、三國康彦みくにやすひこさんです。

じゃっぷぅの記憶

三國さん
三國さん
元々この「じゃっぷぅ」は、昭和の始め頃、二ツ井にあった「豊福食堂とよふくしょくどう」で販売していたものなんですよ。ご夫婦で営んでいる食堂で、うちは、その隣で「三國統也とうや商店」という、主に酒の卸販売をする店をやっていて、豊福食堂にも砂糖や食材を納めていたんです。
「三國統也商店」。ここではお盆の時期のみ、じゃっぷぅを販売しているとのこと。そして、この奥隣に豊福食堂があった。

——当時も、今と同じようなものだったのでしょうか?

三國さん
三國さん
今はアイスクリーマーで作ってるんですけど、豊福食堂のは、大きな金型に入ったものを、おばあちゃんがでっかいスプーンですくって、ビールの小ジョッキに入れて出してたんですよ。

——そういうものは、当時はほかの地域にはなかったんですか?

三國さん
三國さん
藤里町ふじさとまちに「ジャンプ」っていう、似たものがあったんですが、今はやっていないようですね。

——それにしても「じゃっぷぅ」とは、なかなかインパクトのある名前ですが、どういうところから付けられたんでしょう?

三國さん
三國さん
名前の由来は今ではわからないんですが、「溶けてじゃぶじゃぶになっても美味しい」ということだろうと言われてます。
左から、バニラソフトクリームが乗った「ソフトじゃっぷぅ」、コンデンスミルクが混ざった「ミルクじゃっぷぅ」、スタンダードな「じゃっぷぅ」。豊福食堂で販売していたのも、この3種類だったという。
三國さん
三國さん
僕は剣道部だったんですが、練習の後は汗びっしょりになって帰ってくる。そこにこれを3口、4口食べると、すーっと汗が引くんです。それが、僕に刷り込まれた懐かしい記憶なんですよね。今みたいに「買い食いはダメ」とか、そういうこともない時代だったからね。
三國さん
三國さん
でも、豊福食堂は僕が中学生くらいのころにやめてしまったので、それ以降はまったくの幻のものになっていたんです。

じゃっぷぅ、復活!

三國さん
三國さん
その後、私はここでコンビニをやることになって、その際に、普通のコンビニではイヤで、何か他と違うことができないか? と考えたんです。それで調べてみたら、当時、20年ほど前のことですけれど、秋田県はアイスクリームの消費量が全国でもケタ違いに多かったんです。

——そうなんですか?!

三國さん
三國さん
それで、ソフトクリームを販売することにしたんです。さらに、バニラ味だけで飽きないように、イチゴ味とか、チョコレート味とか、塩バニラとか、いろいろな味を出していきました。そしたら、おかげさまでそれがかなり売れたんですが、その様子を見たうちの親父が「二ツ井にはじゃっぷぅがあるでしょう」と言い出したんです。
店内には、その場で食べられる生じゃっぷぅのほかに、パッケージに入って持ち帰りもできるタイプのソフトクリームやじゃっぷぅも並ぶ。
三國さん
三國さん
親父は「これで商売ができないか?」と、豊福食堂のおばあちゃんに作り方を教わりに行ったんですが、「鍋一杯の水に、どんぶり一杯の砂糖」というような作り方だったから、正確な分量がわからない。それでも作って作って作って、やり直して、おばあちゃんに合格をもらって復刻したのが今のものなんです。

——お父さんの努力の末に、今のじゃっぷぅがあるんですね。

三國さん
三國さん
そうですね。そして、それをコンビニでも売り出してみたら、ソフトクリーム以上の勢いで、爆発的に売れたんです。とくに、40代、50代の方にとっては、私同様、完全に刷り込まれた味だったうえに、幻のものになってしまっていたので、みなさん喜んで買ってくださっています。
「じゃっぷぅ」が復活して約20年。お父さんが亡くなってからは、康彦さんの息子さんが原液の製造を担っている。
三國さん
三國さん
なかには「豊福食堂の味とは違う」と言う方もいらっしゃるんですが、実際、ちょっと違うんです。当時のものは、かな〜り甘かったので、今の時代に合わせて糖分は抑えてあるんです。

これからの世代の記憶に

三國さん
三國さん
最近はこの「ソフトじゃっぷぅ」が人気なんです。これは、2つの味が楽しめるのと、自分の好きな割合で混ぜられるのが良いみたいです。上だけ食べたり、下だけ食べたりしながら、あとは混ぜて食べる。

——ベースとなるじゃっぷぅは、イチゴ味だけなんですね?

三國さん
三國さん
いろいろやってみたんです。メロンとか、梨とか、レモンとか。でもやっぱりみんなイチゴじゃなきゃダメなのね。

——これから何か新しい取り組みもお考えですか?

三國さん
三國さん
いずれは、ババヘラのように全県に広めていけるようにしたいですね。数年前から、販売車「じゃっぷぅ号」も稼働しています。地域のイベントにもこれで出店しているんですが、昨年リニューアルオープンした「道の駅ふたつい」にも、土日祝日はこの車で出店しているんですよ。
三國さん
三國さん
豊福食堂は、今は建物が壊されて桜の木が立っているだけです。だから、このじゃっぷぅが豊福食堂のご夫婦の生きた証。
最近は、中学校の行事のなどでも注文をいただくんですが、今のじゃっぷぅが誰かの新しい記憶になっていってもらえたらいいですね。

【じゃっぷぅ(ファミリーマート秋田二ツ井店)】
〈住所〉秋田県能代市二ツ井町小槻ノ木9
〈TEL〉0185−73-2222