- 新山
- やっぱり、「大曲の花火」というのは、ふつうの花火大会とは全く違っていて「競技会」なんですね。最後に上がる、大会提供花火の豪華さが話題になりがちですけれど、花火師としては、一社一社の競技をしっかり見ていただきたいですよね。
- 矢吹
- うんうん。
- 新山
- 全国にいま、花火製造をしている業者が150社ほどあるんですが、大曲の花火に出るのは、ほんの一握りで、毎年30社以内という規定があって、今回は28社。
- 矢吹
- それはどうやって選ばれるんですか?
- 新山
- 主催者が全国の競技会に見に行って、そこで賞を獲った業者だとか、技術のすごい業者を選ぶんです。5年に1回、5社の入れ替えがあるんですよ。
- 矢吹
- だんだん入れ替わっていくんですね。
- 新山
- その28社が「内閣総理大臣賞」を狙って、最高級のものを持ってくるわけですよ。内閣総理大臣賞があるのは、この大会と茨城県の土浦花火大会だけです。
- 矢吹
- ほ〜!
- 新山
- それから、これは全国でも大曲だけなんですが「昼花火」という競技があります。これも見物だと思います。
- 矢吹
- 昼花火って、色の着いた煙のようなものですよね?
- 新山
- 昼花火の煙は「煙竜」っていうんですが、これは日本ならではの技術なんですよ。
- 矢吹
- 色や打ち上がり方なんかを競い合うんですか?
- 新山
- そうです。落下傘によって、煙がくるくる回って降りてくる仕組みなんですが、竜が蜷局を巻いたように、太く、濃い色であることが大事で。光と煙と音で魅せていくものですね。
- 矢吹
- なんだか乙ですね。
- 新山
- そうなんですよ。そして夜は「10号玉の芯入り割物」「10号玉の自由玉」、そして「創造花火」で競い合います。
- 矢吹
- 今年の大曲花火化学工業さんは、どんなところに力を入れてるんですか?
- 新山
- 「10号玉の芯入り割物」では、うちは今まで「四重芯」というのを完成させてきていて、それで去年は3位だったんですね。
「四重」というのは、開いたときに芯(円)が四層ある、というものなんですが、それでも内閣総理大臣賞をもらうためには「五重芯」ができないとなかなか難しいんです。五重芯は、今までも3社くらいしか出してないんですよ。
- 矢吹
- そんなに難しいんですか?
- 新山
- 超難しいです! なかなか五重に見えないんです。単純に芯が一つ増えただけと思われがちですが、四重から五重に増えるだけで、全く別物になります。割薬のバランスだとか、玉貼りのバランスだとかでも違ってくるんですよ。
- 矢吹
- 「八重芯」っていうのもありますよね? それはもっと難しいんですか?
- 新山
- それがちょっと違っていて。そもそも「芯入り」っていうのは、一つの玉の中に1個の芯が入っている、というものなんです。そして、一つの玉の中に、芯が2個入っているものを「八重芯」というんです。
これはかつて2個入りが完成したときあまりにも難しくて、これ以上のものはできないだろうといわれて。それで、最高の「八重」っていう名前を付けたんですって。
- 矢吹
- へ〜。
- 新山
- それを開発したのが、長野県の青木煙火店さん。私の師匠なんですけれども。そしたら、それをまた研究して、もう1個入るかな? って思ってやったら出たんですよ。それで、もう八重芯って名付けちゃったけど、次はなんていう名前にしようってなって、三つ入ったからというので「三重芯」に。
- 矢吹
- 八重の上が三重なんですね(笑)。
- 新山
- さらにそのあとに、四つ、五つのもできて……。
- 矢吹
- いま最高のものが「五重芯」。
- 新山
- 八重芯でさえ難しいのに。ただ、人間の目で見ると、八重芯が一番バランスが良く見えます。だから私は本当は八重芯が一番好きですね。
「10号玉の自由玉」のほうは、今年はターコイズブルーという珍しい新色を開発したので、それをテーマに披露したいなと思って。
- 矢吹
- 夜空にブルーが映えそうですね! 創造花火はいかがですか?
- 新山
- 今回「輝く星に感謝をこめて」っていうタイトルなんですが、これ、うちの親父に向けて作った花火なんです。
- 矢吹
- お父さん?
- 新山
- うちの親父、今年の2月に亡くなったんですよ。
- 矢吹
- そうでしたか。
- 新山
- 屋根の雪下ろしをしていて転落して、頭打って気を失ったまま川に落ちてしまったみたいで。溺れて亡くなったんですよ。
- 矢吹
- それは大変でしたね……。
- 新山
- もちろん、内閣総理大臣賞を狙っていきますし、審査員にもお客さんたちにも見てもらいたいんですが、個人的には天国の親父に見てもらいたいなと。
- 矢吹
- 亡くなられたお父さんは、花火師としての師匠でもあったわけですよね?
お父さんから学んだこととか、思い出ってあるものですか?
- 新山
- 親父には、怒られた記憶がほとんどないくらい、とにかく優しい人でしたね。昼花火は親父の担当だったんですよ。いつも上位に入賞していて。今、我々がやってみてもなかなか思うような色が出なくてね。もっとよく教わっておけばよかったって、今更ながら言ってるんですよ。
- 矢吹
- お父さんは去年まで上げられてたんですか?
- 新山
- はい、去年は3位でしたね。
- 矢吹
- おいくつだったんですか?
- 新山
- 69歳。まだぴんぴんしていて、毎日仕事しに来ては残業も自らやるくらいでしたね。
今、大曲は「花火産業構想」っていって花火一色になってきてるんですよ。来年の4月には「国際花火シンポジウム」っていうのが大曲で開催されて、1週間毎日花火が上がるんですよね。そういうこともあって、亡くなるちょっと前に「まだまだ現役でがんばるから、お前たちも気合い入れて頑張れ」って言われてたばっかりだったんですよ。
- 矢吹
- お父さん、悔しいでしょうね。
- 新山
- あまりに急なことだったのでね。今でも「あのときああしていれば……」っていろいろと後悔してしまいますけど、そういう運命だったのかもしれないですね。
葬儀が終わってから、弔い花火も上げました。私もやっと少し気持ちが落ち着いてきましたけど、ここ最近、大会が近づいてきたら、親父に会いたくなっちゃってね……。大好きでしたからね、親父のことが。
- 矢吹
- 今年は今まで以上に特別な花火になりますね。他の出場者のみなさんも、それぞれいろいろな思いがあって上げているのかもしれませんね。本番での成功、お祈りしています。
次回はいよいよ開催となる「大曲の花火」当日の様子をレポート!
例年70万人もが訪れるというその会場の様子とともに、花火師たちの渾身の作品、そして、新山さんの思いが込められた花火についてもお届けする予定です。