前回に引き続き、大曲にある株式会社響屋さんで花火製造を見せていただいている私たち。花火の玉は、昔からの技術を受け継いだ細やかな手作業によって作られていましたが、その打ち上げには、最新の技術が導入されていました。
- 齋藤
- 打ち上げは、パソコンでプログラミングしてシミュレーションするんですよ。
- 矢吹
- へ〜!
- 齋藤
- 音楽は作曲家さんから提供してもらって、それに合わせて「このタイミングで2箇所から5号玉2つ上げる」とかっていうのを全部パソコンの中でやれるんです。使う玉も、パソコン上で作って入れることもできるんですよ。
- 矢吹
- は〜! こういうソフトがあるんですか?! おもしろーい! 自分でも作ってみたくなりますね。
- 齋藤
- 100分の1秒まで設定できますから。プログラミングしたものと、全く同じタイミングで上がりますよ。
- 矢吹
- こういうものがあれば、スタッフ同士でもイメージを共有できますもんね。
- 齋藤
- 実際上げてみると当日の天候によって印象も違ったりもするので、だいたいの感覚を掴むために使っている、というかんじですね。
(点火装置のある部屋へ)
- 齋藤
- 今、メインで使ってる点火装置がこれですね。アメリカ製ので。緊張しないように、こんなの貼ってます。
- 矢吹
- やっぱり点火のときは緊張しますか?
- 齋藤
- はい。これがドイツ製ので、「三郎さん」。こっちが一郎、こっちが二郎。
- 矢吹
- ははは〜全部名前が付いてるんですね。
- 齋藤
- これは無線で、これもコンピューターで作った100分の1秒のものも再現できます。さっきのプログラムをUSBでここに入れて、ボタンを押せばもう点火できるんですよ。
- 矢吹
- すごいな〜。
- 齋藤
- これがモジュールっていって、これと点火器を繫いで、「1番のプログラムをやります」ってボタンを押すと、電気が流れて、打ち上がるんです。一つで32点火までできます。大きな大会では何千点火となるんで、これが何十台、何百台って必要になるんですよ。
- 矢吹
- 今でもまだ、導火線に火をつけて、耳を塞いでいる間に打ち上がる……みたいな方法なんだと勝手に思ってました。
- 齋藤
- この点火器のほとんどは、元は軍事用に開発されたものらしいです。無線点火ですから、爆弾とかミサイルとか仕掛けて使うんですよね。こうやって見てると、花火屋なんだか技術屋なんだかわからなくなりますよ。
- 矢吹
- 最新技術に順応していくのも大変ですね。
- 齋藤
- 打ち上げるときの筒も見てみますか?
- 矢吹
- はい。
- 齋藤
- この筒は2尺玉を上げる筒で、ボルトで繫げて打ち上げるんですよ。筒だけで4メートルくらいになります。
- 矢吹
- うわー! 大きい……。
- 齋藤
- 筒も、毎年最新式のものを取り入れてますよ。
- 矢吹
- 筒が変わると違うんですか?
- 齋藤
- ぜん〜ぜん! 小技を使えるようになったりするんですよ。放射状に打ち上がるようにできたり。
- 矢吹
- ちょっとした角度でも表現が変わるんでしょうね。こういう技術の進化で、頭の中で「こうなったらいいな」っていうのが、どんどんできるようになってきているんですね。
- 齋藤
- そうなんですよ。昔は花火大会も縄張り争いとかあったんですけど、今はプレゼンして、資料持って営業かけて、仕事取れたら音楽と編集から始まって、どこでどう上げるか決めて……。
- 矢吹
- デスクワークもたくさんあるんですね。現場では力仕事もあるし。すごく繊細な作業から、大掛かりな作業まで……大変なお仕事ですね。今まさにピークの時期ですが、いかがですか?
- 齋藤
- もう、地獄ですよ。この歳なったら、1年が早い!このあいだ初詣行ったばっかりなのにって(笑)。
- 矢吹
- 夏は寝る間もないくらいですか?
- 齋藤
- 寝れないです。
- 矢吹
- 各地への移動もかなりありますもんね。遠征だとどのあたりまでいくんですか?
- 齋藤
- 秋田県内と、岩手、青森、北海道……。北海道は小樽、夕張、網走……といろいろです。
- 矢吹
- スタッフはどのくらいの人数で行くんですか?
- 齋藤
- 一番多いところだと、22人。
- 矢吹
- 終わってから、宿で盛り上がるんじゃないですか?
- 齋藤
- いや、朝の4時出発で、終わったら帰ってきて、夜中の2時に帰ってきて、片付け終わると朝の4時、なんていうことももざらにありますよ。
- 矢吹
- 泊まらないんですか?!
- 齋藤
- 泊まりません。24時間仕事ですよ。
- 矢吹
- ひゃ〜〜〜!
- 齋藤
- さすがに北海道とか青森の大間とか、東北外だと泊まりますけどね。大間はお盆の8月14日に開催で、片道8時間かかるから、13日から出発するんです。
- 矢吹
- となると、お盆休みもなしなんですね。
- 齋藤
- お盆の時期が花火屋の搔き入れ時なので、墓参りも行けなくて、家の仏壇に拝んだり。それでも昔は正月はゆっくりできてたんですけど。最近だと正月休みもないですもんね。カウントダウンの花火が多くなってきちゃって。
- 矢吹
- そうか〜。
- 齋藤
- 正月に親戚一同集まって一杯飲む、なんてもう、20年近くやってないです。カウントダウンも仙台、青森……いろんなところでやるので、社員総出で各地へ行って、朝帰ってきて初詣行って、1日の昼からやっと休める……みたいな。
- 矢吹
- みんなが一番楽しんでいるときの裏方なんですもんね。
- 齋藤
- 夏、ぶっ続きのときもありますし、1日3カ所4カ所重なるときもあるんですよ。とにかくこれが辛いですね。全部自分が行ければいいんですけど、任せて行かせないといけないと、不安ですしね。
- 矢吹
- そういうなかで、花火師さんとしての喜びってどんなところにありますか?
- 齋藤
- 一番は、自分で作ったものを花火大会に持っていって、打ち上げたときに、歓声が上がると鳥肌が立ちますね。大曲の花火大会なんかでも、創造花火が終わったあとに、観客席からぐわ〜っと!
- 矢吹
- 地響きみたいに!
- 齋藤
- それが自分に集中してくるかんじがして、そうすると「やった!」って。賞に入るか入らないかわからないですけど。やっててよかったって思いますね。
最新技術と取り入れながらも、打ち上げ現場は体力勝負となる花火師の仕事。次回は、実際に今年の「大曲の花火」に参加する花火師さんを訪ね、お話を伺っていきます。