くるっと丸まったしっぽ、ピンと立った三角の耳、フワフワの毛並みといえば……秋田犬! その発祥の地といわれるのが秋田県大館市。「忠犬ハチ公」のふるさとでもあるこの街で、秋田犬のかわいさと、かわいいだけじゃない、その背景を学んでいきます。
文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
まずはじめに向かったのは、秋田犬会館。ここは秋田犬保存会が置かれている施設で、犬籍登録や血統証の発行を行ったり、館内の博物室には、秋田犬にまつわる資料が保存、展示されています。
4月から11月下旬までは、館内に秋田犬が常駐しています。この日は、ナツコ、ユキ、クロベエの3頭。館内に入るなり、愛嬌たっぷりのユキちゃんが受付でお出迎え! この会館で、秋田犬保存会の富樫安民さんにお話を伺います。
- 富樫
- 昭和6年に、生き物で初めて、国の天然記念物に認定されたのが秋田犬なんですよ。
- 矢吹
- 生き物で初めて?
- 富樫
- そうなんです。かつて、このあたりの地域では全然楽しみがなかったもので、秋田犬は闘犬として、娯楽の一部だったんですよ。それと、狩猟も盛んだったころは「マタギ猟」で猟犬としても飼われていたんですが、実際、闘犬として土佐犬と闘っても全然勝負にならなかったこともあって、本来、闘うことには向いていない、とも言われていて。
それでも、大館が誇る良い犬をつくっていかなければ、ということで、昭和2年に秋田犬保存会が結成されたんです。さらに数年後、秋田犬を天然記念物にしようという動きが高まって、苦労しながらも実現させたんですよ。
- 矢吹
- なるほど〜。そもそも秋田犬の特徴としてはどんなことがありますか?
- 富樫
- しっぽがくるっと丸くて、耳がパッと立って、大型犬として立ち姿や振る舞いもスッとしていて、従順で……。時々、秋田犬は怖いと言われたりしますけど、そんなことはないんですよ。まあ、秘めた闘争心はあるんだけれど。
- 矢吹
- そうですよね。色もいろいろありますが……。
- 富樫
- 茶色いのが「アカ」、ゴマ色の黒いのが「トラ」、そして「シロ」。それが基本ですね。そして、かつては「秋田犬」ではなく「大館犬」と呼ばれていたんです。
アカ
トラ
シロ
- 矢吹
- 大館犬?
- 富樫
- 「秋田」としたほうが、全国的にみなさんに知ってもらえるだろう、ということで、「秋田犬」になったんです。
- 矢吹
- それは知りませんでした!
- 富樫
- 秋田犬保存会が結成されて、来年で90周年になるんですよ。今や国内で49支部、世界にも12クラブあります。それでも昭和47年をピークにして、今は会員数が3割くらいに減ってきています。
- 矢吹
- 3割ですか……。
- 富樫
- ええ。というのも、後継者がいないんですよね。大型犬は世話をするのに大変なんです。朝と夕の運動でしょ、ごはんもしっかりやって、きちんとした犬舎に入れて。手間ひまがかかる。かつては秋田犬専属の飼育係を雇っている人もいたくらいなんですが。
- 矢吹
- へ〜!
- 富樫
- でも今の時代、仕事をしながら世話するのは大変で、途絶えてしまうんですよね。
- 矢吹
- そうか〜。
- 富樫
- それでもがんばっています。ご存知のとおり、忠犬ハチ公はここ大館から出た犬ですからね。だから、なんとか面目躍如で。
- 矢吹
- 大館駅にもハチ公像がありますもんね。この街はバスやマンホールまで、秋田犬で溢れていますしね! 春と秋には秋田犬の展覧会があるんですね。「本部展」とありますが、全国大会のようなものですか?
- 富樫
- はい。約70の評価項目に基づいて審査が行われるんですが、全国各地から200頭近い秋田犬が集まります。毎年5月3日は大館で、12月の第一日曜日には秋田県外で。今年は熊本の予定だったんですが、地震の影響で東京で開催することになりました。
- 矢吹
- 賞が獲れる犬というのは、どういう犬なんですか?
- 富樫
- 「沈毅にして威厳を備え悍威に富み、忠順にして素朴の感あり、地味な中に品位を持ち、感覚鋭敏にして、挙措重厚敏活共に備う」という審査基準があります。展覧会には「名誉賞」というのがあって、年に2〜3頭が選ばれるんですが、1頭も出ない年もある。運動会の1等2等とは違うんです。
犬も本番に慣れていないとうまく振る舞えなくてね。場慣れさせるためにいろんな展覧会に出すんですよ。「ハンドラー」っていって、展覧会専門でリードを握る人もいるんですよ。
- 富樫
- いま、秋田犬には県でも力を入れていて、これから東京でも秋田犬に触れ合えるイベントがいろいろあるんですよ。
- 矢吹
- 大館能代空港でも、毎月「8」のつく日に秋田犬がお出迎えしてくれるんですよね? 全国から反響もあるんじゃないですか?
- 富樫
- インターネットで、ものすごく検索されてますね。いま、海外からの「秋田犬(AKITA)」の検索は「富士山(FUJIYAMA)」の3倍にもなっているらしいですよ。
- 矢吹
- 3倍! すごい! もはや日本の代表ですね。
- 富樫
- 「AKITA」といえば、県ではなく、犬のことになっているみたいで。一時的なブームなのかもしれませんが、ここから秋田犬をどうやって増やしていくか、それがどうすれば地域の活性化になるのか……。それでも、ただ増やせばいいっていう訳じゃない。国内はしっかりしてるけど、海外はね……。偽血統証が出回ったり、独自に改良したり。きちんと登録している犬は1割にも満たないんですよ。
- 矢吹
- 大館で、実際に秋田犬を飼っている方にお会いしたいのですが、どなたかご紹介いただけますか?
- 富樫
- それなら、畠山さんがいいですよ。2012年にロシアのプーチン大統領に贈った「ゆめ」を育てたブリーダーさんです。
- 矢吹
- わあ! ぜひお会いしたいです!
次回は、富樫さんのご紹介でブリーダーの畠山さんを訪ねます。かわいい秋田犬が、まだまだ登場しますよ!