

田畑の次は心を耕す!
大潟村の菜の花を支える、縁の下の力持ち
2019.05.15
大規模農業が盛んな秋田県・大潟村。大きな湖を干拓して生まれたこの村には、毎年春になると、たくさんの人々が訪れる場所があります。

それは、全長11㎞にわたって村を横断する、桜並木と「菜の花ロード」。
見頃を迎える4月下旬には、ピンクと黄色の鮮やかなコントラストが堪能できることもあり、カメラを片手に足を運ぶ人々でにぎわいます。


しかしこの菜の花たち、毎年自然に花を咲かせているわけではありません。実はその裏側には、日頃から手をかけて大切に管理し、成長を支え続けてきた方々がいるのです。

それがこちら、「大潟村耕心会」(以下、「耕心会」)の皆さんです。主な会員は、農業の第一線を退いた第一世代(60〜70代)の入植者。「田畑の次は心を耕そう」という思いのもと、平成4年に発足されました。

今回、耕心会の皆さんを訪ねてやってきたのは、「菜の花ロード」から車で約8分のところにある「ホテルサンルーラル大潟」横に広がる菜の花畑!
ここは、4月下旬から5月下旬にかけて大潟村で開催されるイベント「桜と菜の花まつり」のメイン会場。まつり期間中は、産直野菜や花苗の販売、村をめぐるバスツアーなどが楽しめる、にぎやかな春の祭典です。
この菜の花畑では毎年、耕心会の皆さんが育てた菜の花の摘み取り体験が行われていると聞き、早速、会長の川村憲孝さんと、景観部長の工藤丈夫さんのお二人にお話を伺いました。

土から学んだ農家の知恵
——こちらの菜の花畑は、「菜の花ロード」とはまた違った明るさがありますね! 皆さんは、一年を通して菜の花を育てているんですか?
工藤さん- 毎年9月頃に種をまいて、除草剤を散布して、越冬する前に追肥をします。それで雪が溶けたらまた追肥して、あとは花が咲くのを待つ。それをみんなで協力してやっています。

工藤さん- 菜の花は、野良(自生)でも育つことは育つんだけど、いちばん大変なのが「連作障害」が起こること。長いあいだ同じ場所で同じ作物を作り続けていると、虫や病気が発生するんです。この対策が本当に難しくてね。
だから、まつりが終わったら菜の花を刈り倒して、そこに別の作物を植えて防いでいます。
——へえ〜! どんなものを植えるんですか?
工藤さん- 以前は、「ネマコロリ」というマメ科の花を植えていたんだけどあまり効果がなくて、いまは「ひまわり」や「蕎麦」を植えています。

工藤さん- これから夏にかけて、「菜の花ロード」は「ひまわりロード」になっていきます。そして、ここには蕎麦を植えて、秋に行なわれる「収穫感謝祭」の時に会員みんなで食べるんですよ。一般のお客さんまで提供するには、ちょっと量が足りないんですけどね(笑)。

——でも、この広い敷地全体を管理するというのは、かなり大変そうですね。
工藤さん- ただ、おれたちもいろいろ知恵を出し合って、いまは作業用の機械を自作してがんばっています。 たとえば、廃車になったコンバイン。とりあえず、エンジンがかかって動けばいいから、それにいろいろな装置を付け加えたり、田植え機の後ろの植え付け部分を外して、肥料の散布用の機械を付けたりしてます。
——まさに、農家さんの知恵。大潟村の菜の花は、皆さんの努力の結晶ですね。
選ばれし菜の花

——菜の花を植えることになった経緯は何だったのでしょう?
川村さん- 「菜の花ロード」に桜並木があるでしょう? あそこが「桜だけだと少し寂しいから」ということで、より長く咲く菜の花を植えてみたのがきっかけだそうです。
——あの桜は、大潟村創立20周年(昭和59年)の時に、入植者の皆さんが植えたものだと聞きました。

川村さん- そのあと、独自で菜の花を植えたら、結果とても好評で、村からも「ぜひ続けてほしい」と言ってもらえた。
それで、平成3年頃から桜並木の下に植え始めて、少しずつ周りの空き地にも広がっていったそうだよ。
工藤さん- ただ、最近じゃ桜の方が早く咲くようになってきまして(笑)。合わせて菜の花も早く咲かせるなんてできないから、両方の見頃が重なるタイミングを見計らうのがなかなか難しいですね。

工藤さん- 「さくらピット」を作ったのは、もちろんお客さんのためもありますが、交通の妨げになって危険だというのも大きな理由のひとつ。
いまの時期(5月上旬)はちょうど農家の忙しさもピークなんですが、実はあのロード、農作業に向かうための道でもあって……混雑すると本当に大変なんです(笑)。
——自分で自分の首を絞めちゃっているような(笑)。でも、あの風景は一度見たら忘れられないくらい印象的です。桜のパートナーとして、菜の花はぴったりだと思います。
次の世代へ繋げるために
——会員さんはどれくらいいらっしゃるんですか?
川村さん- 去年の数字でいうと、115人。みんな大潟村の人間です。
いま村にいる現役の農家も、二世から三世に交代する時代になってきたから、これからはぜひ、二世の皆さんに入ってきてほしいんですよ。

川村さん- もともと耕心会は、年金受給者の会として作ったものなので、65歳になったらこの会に入るような流れがあったんだけど、どうやら最近は「あの会は大変だ」という噂が広まっているみたいでね(笑)。
興味を持ってくれる人は結構いるんだけど……この「桜と菜の花まつり」がどんどん大きくなってきている分、プレッシャーに感じているのかもしれないね。
——なるほど……実際、大変なんですか?
- 川村さん・工藤さん
- いや、大変じゃないよ。
——あっ、そうなんですね。
川村さん- 我々の主な目的は、親睦を深めることだからね! みんなで団結して、日々の活動に取り組むことが大切。

川村さん- この会は、「景観部」、「親睦部」、「学習部」、「女性部」という4つの部署で構成されているんだけど、菜の花を管理する「景観部」は会の主軸になるから、そこの部長に就任したらちょっと大変かもしれないね(笑)。
工藤さん- ははは! 確かに、毎年咲かせるための努力が必要ですからね。

工藤さん- 通常の連作障害は、1、2年休めば元に戻ります。でも、おれたちはそういうわけにはいかないんです。もしも来年、咲かないなんてことがあったらと思うと……。
——毎年相当なプレッシャーが……。

工藤さん- でも、ミニSLだって一面の菜の花畑のなかを走るから良いんだし、立派に咲いてくれたおかげで摘み取り体験も楽しめる。毎年完璧にはいかないんだ。めげずにがんばるしかない!
川村さん- 来年もうまく咲く保証はどこにもないので、最初に始めた先輩がたはどれほど苦労しただろう、と思います。
このまつりもどんどん大きくなって、例年13万人前後のお客さんが来るんです。だからこれからは、将来のためにどうやって会員を確保していくかが課題だね。

工藤さん- 植え始めた当初は、菜の花の作り方もちゃんとわからなくて、たくさん失敗もしたみたいです。でも、おれたちが頑張っているあいだは、この景色はなくならない。
川村さん- 人によっては苦労に見えるかもしれないけれど、我々自身は楽しんでやっているんですよ。それに、たくさん考えて手も動かすから、いつまでも若々しくいられるんじゃないかなって(笑)。
摘み取り体験にチャレンジ!

——私たちも、菜の花の摘み取り体験やってみたいです!
川村さん- どうぞどうぞ、好きなだけ取っていってね! 去年はあまり調子が良くなかったから心配だったけど、今年は立派に咲いてくれて本当に良かった。





——皆さんの努力があってこその景色なんだと知ることができて、本当に良かったです。いままで何も知らずに、ただただ「きれいだな」って眺めていただけでした。
工藤さん- いえ、最終的にはそれで良いんです。一瞬でも良いから、皆さんが「きれいだな」「楽しいな」って思ってくれることを願って育てているから、それで良いんですよ。

厳しい冬を乗り越え、待ちに待った春が来た時に咲く黄色い菜の花。
いまや、大潟村の春の代名詞となった風景を支える「大潟村耕心会」の皆さんは、まさに縁の下の力持ちでした。来年もまた、立派な花が咲きますように!
【菜の花ロード】
〈住所〉南秋田郡大潟村東野
〈交通アクセス〉JR八郎潟駅から車で約15分
〈例年の見頃〉4月下旬〜5月下旬
〈TEL〉0185-45-3653(大潟村産業建設課)
【ホテルサンルーラル大潟】
〈住所〉南秋田郡大潟村字北1-3
〈TEL〉0185-45-3311