

ホッキョクグマだけじゃない! GAOの楽しみ方はこの人に聞け!
2019.09.18

男鹿半島の戸賀湾に佇む「男鹿水族館GAO」。GAOというと、秋田県内の方々はこんなイメージが強いのではないでしょうか?








このように、華やかな展示や生き物が印象的なGAOですが、今回ご紹介したいのは「日本の海水魚」のコーナー。


ご覧のとおり派手さはないのですが、ここを見たあと私たちは「海の生き物って楽しい!」という気持ちでいっぱいに。
そんな気持ちにさせてくれたのは、このコーナーの担当学芸員、嶋田遥香さんです。嶋田さんの解説で魚たちを見て行きましょう。


嶋田さん- こちらの「ホウボウ」は、秋田ではスーパーにも売っていたりしますよね。ホウボウには足があります。これはヒレが変化したものなんですが、その足の先に「味蕾」という、味を感じる機能が付いていて、足で砂をゴソゴソしてエサにあたると「美味しい物がある!」と反応して、それを食べるんですよ。
——足で美味しさを察知して口で食べる?! おもしろい!

嶋田さん- こちらの「コモンカスベ」は、ほかの地域ではあんまり食べないんですが、秋田の方は「これ、干物にして食べるやつですよね!」ってよくおっしゃいます。
——カスベ、美味しいですよね〜。あっ! 水槽を見ながら「美味しそう」は不謹慎なんでしょうか?
嶋田さん- 個人的には、ここで生きている魚と食卓に並ぶものを結びつけて「美味しそう」と思ってもらえるのはとても良いことだと思っています。特に子どもたちがそうやって興味を持ってくれるならアリじゃないかな、と。
——こっちの子の、口の先にあるヒゲみたいなものは何なんでしょう?

嶋田さん- 「マダラ」のヒゲセンサーですね。マダラは目が良くないので、エサをやるときは、このヒゲを飼育員がコチョコチョすると、気付いて食べるんですよ。

嶋田さん- あっ! こっちの子は今、寝ていますね。魚はまぶたが付いていないので、普通の魚は寝ていてもわからないんですけど、この「ナヌカザメ」は目を閉じることができるんですよ。

嶋田さん- こちらの「ホタテウミヘビ」は、地元の漁師さんから「見たことない、なんかニョロニョロしたのが獲れたぞ」って連絡があって、持ち込まれたものなんですよ。調べてみたら、秋田でこの魚が見つかったのは初めてのようなんです。南のほうからの海流に乗って流されてきたみたいですよ。
——漁師さんが獲ってきたものを展示するということもあるんですね。
嶋田さん- はい。「なんだ? この魚」と漁師さんの方から連絡をいただいたり、こちらで展示したい生き物があれば逆に漁師さんにお願いしていたりするんです。水族館からこんなに近くに漁港があるというのは全国的にも珍しいと思いますね。だからこそ、秋田ならではの魚が良い状態で手に入るんですよ。
——水族館にはいろんな魚がいますが、エサはそれぞれ違うものを与えるんですか?
嶋田さん- 基本的に、同じ水槽にいる生き物には同じものを食べさせていますね。「これはタイにだけ」というようなことは難しいので。
——大水槽には、かなりの種類がいますよね。争いにならないものなんでしょうか?
嶋田さん- 大きい魚にはシシャモを丸ごとあげたり、小さな魚にはオキアミという小さなエビなどを与えているんですが、まずは大きい魚たちに先に食べさせてある程度お腹いっぱいにしてから、小さい魚たちに与えていくんです。

——なるほど〜。順番にお腹を満たしてあげる、ということなんですね。例えば「この子、調子悪そうだな」というのは、見ただけでわかるんですか?

嶋田さん- わかります。今、この水槽でいうと、赤黒い肌になってしまっている子がいるんですよ。肌が荒れているんですね。こっちの子は目が白っぽいですよね。
——体の表面に、サインとして出てくるんですね。
嶋田さん- よく見るのは、目とエラの動きですね。エラに寄生虫が付いていたりして呼吸がしにくいと、いつもよりもエラの動きが早くなるんですね。そういったところを見ています。
——なるほど〜! あれ? 目がない子もいますね。どうしたんでしょう?
嶋田さん- 前に一緒に入っていた大きなフグにやられたのかもしれません。フグって、歯が丈夫なので、時々ほかの魚を齧るんですよね。

嶋田さん- こんなとぼけた顔をしてますけど意外と賢いので、一度何かの拍子に噛んで「あ!美味しい」となると、積極的に噛みにいくようになったりするんですよ。
——へえ〜! 実際に担当されている方から聞くと、魚にどんどん興味が湧いてきますね! 嶋田さんは、ご出身はどちらなんですか?

嶋田さん- 大阪です。水族館で働きたいと思っていて。縁あってこちらに。
——もともと、魚の関係の勉強をされていたんですか?
嶋田さん- そうですね。水産学科のある大学に通っていました。大学を選ぶ段階で「水族館で働きたいから」というのを基準にしていて。
——水族館のどういうところに惹かれたんでしょう?
嶋田さん- 小さいころから生き物が好きで、将来の夢がコロコロ変わっても、生き物に関わる仕事にばかり興味を持っていたんですが、動物のなかでも特に魚って「誰が見てもかわいい」というものではないですよね。でも、魚のことを解説してもらったり、学ぶほどに「魚って面白いじゃん」って思えるようになってきて。
——その奥深さに気付いてしまった?
嶋田さん- そうですね。魚のことを知らない人に、自分の工夫で魅力を伝えられるようになれたらと思って。

——「魚が好き」ということもありつつ「伝える」ということにも興味があったのかもしれませんね。
嶋田さん- そうかもしれません。そのために、最近は飼育員もおもてに出て、お客さんと積極的に話すようにしていますし、冬季には、水槽の裏側をお見せするようなガイドツアーも企画しているんですよ。

——水族館に勤めてどのくらいになるんですか?
嶋田さん- 2年目になります。1年目はアザラシやアシカなどの海獣を担当していたんですが、海獣は複数で担当するんですね。だから、自分が変化に気づけなくても、他の担当者が気づくことができるので、命に対する責任を担当者同士で共有してカバーし合えるんですが、この展示コーナーの担当になってからは、全体の見回りはみんなでするものの、主な担当は私一人なので、自分が気づけなかったら生き物が死んでしまうかもしれない。そういう点で責任の重さにズシっとくることはありますね。

嶋田さん- 失敗から学ぶこともたくさんあります。以前、2種類の魚を一緒に入れていて、一方が食べられてしまったことがあって。そこで初めて「この魚たちは相性が悪かったのか」とわかったり、調子の悪そうな生き物への処置でも「こっちの薬にしたほうがよかったかな、もうちょっと早く取り上げていればよかったかな」っていうようなこともあります。温度管理だけ取っても、本で調べるだけではわからない、この状況でどうしたらいいんだろう? というようなことも多くありますし。

嶋田さん- でも、死なせてしまってそれで終わるわけにはいかない。この死をムダにせず、次に活かせるようにと思いながらやっています。
——これから、この水族館でやっていきたいことなどはありますか?
嶋田さん- 「地元の魚を見せたい」というのがあって。海水魚としては、クマノミや珊瑚礁のような華やかな魚のほうがお客さんの反応も良いんですけれど、ここでは、地味ではあっても「男鹿の海にこんなに魚がいるんだよ」って伝えることに力を入れていきたいんです。秋からは、地元で獲れるアオリイカの展示もしていく予定です。

嶋田さん- そして、もっと子どもにもわかりやすくしていきたいですね。このコーナーは、今は説明が多くて、文字も多くて、どちらかというと大人向けなんですよね。なので、例えば、カニの甲羅を置いて触れるようにして、子どもの興味をひくようなしかけを作っていくとか、直感で楽しんでもらえるようなものを増やしていきたいと思っています。


嶋田さん- 夏休みや冬休みの帰省で、おじいちゃんおばあちゃんのいる男鹿に来たので水族館に来る、という方も多いので、お正月に来たときに「夏と一緒じゃん!」ってならないように。都会の水族館のような観光目的というよりは、地元の方にも飽きがこない、いつ来てもおもしろい水族館にできたらいいなと思います。

派手さはなくとも、生き物としてこんなにも魅力的な魚たちがいる。それを知る喜びを、嶋田さんが教えてくれました。そして、こんなふうに魚が大好きで、いきいきと語ってくれる人がいることも、GAOの魅力の一つのように感じます。
水族館で学芸員さんを見かけたら、ぜひ声をかけてみてはいかがでしょう? 嶋田さんに限らず、それぞれの視点で生き物たちの魅力をたっぷりと伝えてくれるはずです。
【男鹿水族館GAO】
〈住所〉秋田県男鹿市戸賀塩浜
〈TEL〉0185-32-2221
〈営業時間〉9:00~17:00(最終入館30分前)※季節により変動あり
〈定休日〉冬季あり(HPで確認ください)
〈HP〉http://www.gao-aqua.jp/