秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希、KAMIプロ・リスタ実行委員会

山と人の境界。かみこあにプロジェクト。

2019.11.13

上小阿仁村かみこあにむら八木沢やぎさわ集落。ここに暮らしているのは、現在6世帯11人。いわゆる「限界集落」といわれるこの土地で、2012年より「KAMIKOANIプロジェクト秋田」が開催されています。

これは、八木沢集落を主会場として、現代アート、音楽、伝統芸能の3つを軸に里山の魅力を発信するというもの。 2016年からは「かみこあにプロジェクト」と名称を変えながら、毎年開催。今年は8/10〜9/8の日程で行われ、8回目の開催を終えました。

今年のアート作品の展示には28名の作家が参加。それぞれが作品を持ち寄り、廃校や棚田など、屋内外問わず、村の資源を生かした展示を行い、なかには滞在制作や公開制作をする作家も。また、期間中には、ワークショップ、音楽ライブ、伝統芸能の披露なども行われました。

大森興二 「助かった命・懸命に」
菅原綾希子「 つなぐもの tsunagumono 紡 」
ミマチアカリ「精霊たちの手触り」
永沢碧衣「村景そんけい
「上小阿仁音楽散歩 〜かみのこらは みな おどる〜」出演者:オムトン+はなうた楽団
八木沢番楽

秋田県内でも特に高齢化が進んでいる上小阿仁村で開催することで「世代を越えた交流を図りながら、少子高齢化、人口減少に向き合い、将来への影響力を最小限にとどめる」という試みをしている、このプロジェクト。

今回は、会場の一つでもある、八木沢公民館を訪ね、2012年の開催からこのイベントに携わってきたという畠山孝二たかつぐさんにお話を伺います。畠山さんは、八木沢集落の自治会長であり、このプロジェクトの副会長として開催を支え続けてきた方。

そして今回はもうひと方、秋田市でギャラリー運営をしながらも、ご自身も作家として2012年からこのプロジェクトに関わってきた、後藤仁ごとうひとしさんにもお話に加わっていただきます。

——畠山さんは、このプロジェクトではどんなことをされているんですか?

畠山さん
畠山さん
期間中は八木沢公民館でカフェをやるので、その管理人のようなことをしたり、雑貨も販売しているのでその担当をしたり、集落の草刈りをしたり。そんなに、何もしてないですよ。

——後藤さんも初年度から関わってこられたとのこと。

後藤さん
後藤さん
私はずっと作家として参加してきたんですけれど、今年ははじめて、運営側として関わらせてもらいました。
会場となる施設の清掃は、毎回、実行委員会とボランティアが一緒に行っている。

——最初にこういうプロジェクトが始まると聞いたとき、どう思われましたか?

畠山さん
畠山さん
この自然と、静かなことが良くてここに住んでいるので、賑やかになるのはイヤでしたね。
地元の高校を卒業して一度秋田市に出て、20年ほど経ってから八木沢に戻ってきたという畠山さん。現在は萩形はぎなりダムの警備を担当している会社で働いている。
後藤さん
後藤さん
最初にこの村に、当時の実行委員がプロジェクトの説明をしに来た際に、私も同行させてもらったんですが、そのときの村のみなさんの反応がすごく印象に残っていて。

これから何をするのかっていう説明をしても、「何のことかわからない」という表情で、完全に警戒心しかなかった。当たり前のことだったと思うんですけどね。

——それでも、プロジェクトに協力されたんですね。

畠山さん
畠山さん
担当するものによって謝金も発生するのでね。草刈りはなんぼ、公民館の管理人は一日なんぼ、というかんじで。それに、「八木沢でやるという以上は」というのもありましたね。

——「賑やかになってイヤだなあ」というところからのはじめての開催。終わったときは、どんな気持ちでしたか?

畠山さん
畠山さん
本当に「祭りのあと」っていうかんじでしたね。はじめての年は開催期間が長くて2ヵ月間くらいあったんですが、会期中はお客さんがいなくてもずっと村がガヤガヤしていたんです。それがパタンとなくなった。そして、あっという間に冬がやってきて……。

——寂しかったのでは?

畠山さん
畠山さん
すんごい寂しかった。ふだん誰もいないところに、多いときは200人以上がやって来るわけですから、やっぱり高揚していたんでしょうね。あらためて、みなさんからエネルギーをもらっているなっていう気がしますね。
会期中、上小阿仁村婦人会と上小阿仁村食生活改善推進協議会が中心となって運営しているカフェでは、地元の野菜をこれでもかと使用した「八木沢カレー」が大人気。

——8年間関わり続けていくなかで、畠山さんご自身に変化はありましたか?

畠山さん
畠山さん
変化というよりは、毎回、意外に新鮮なんですよ。そういう気持ちは変わらないですね。準備とか片付けとかには慣れてきてはいるんですけれど、作家さんや実行委員会のメンバーなど、関わる人が変わるから「また一から」ということも多いので。
後藤さん
後藤さん
私は、このプロジェクトで一番変わったのが、畠山さんだと思うんですよ。
畠山さんは、こっちから話しかけないと口を開かないような印象だったんですけど、ここ数年で自分から冗談まで言うようになりましたよね。

回を重ねるほどに、ホスピタリティが強くなってきていて、畠山さんの存在が集落の印象のひとつになっているようにも思えるんですよね。
畠山さん
畠山さん
何にしても田舎もんなんで、引っ込み思案な人ばっかりで……。
後藤さん
後藤さん
引っ込み思案、減りましたよね?
畠山さん
畠山さん
減りましたね。最初は、集落のばあちゃんたちも、お客さんが来るとすぐに戸を閉めて家の中に隠れてたんだけど(笑)、最近は受け入れられるようになってきた。
畠山さん
畠山さん
関わる人がみんな若いから、自分が彼らのおじいちゃんやおばあちゃんになったような気分で接しているみたいだし。お客さんも秋田の人が多いから、言葉を気にしなくて良いからか、みんな、だんだん話せるようになってきましたよね。

——触れ合うきっかけすらなかったところに機会ができた、ということは大きいですよね。

畠山さん
畠山さん
村の行事にすらなかなか参加しない、距離的にも遠くて参加できないという人も多かったんですよ。

——畠山さんご自身も、これまではアートに触れる機会というのはあまりなかったのでは?

畠山さん
畠山さん
美術館に行って、完成した作品を見るということはしますけど、ここでは、作っている経過も見ることができる。それは、やっぱり新鮮ですよね。
村の自然を活かして、大掛かりな制作をする作家も多く、そのたびに畠山さんは手厚くサポートしてきたという。

——もし、このプロジェクトがなかったら、この集落はどうなっていたでしょうね。

畠山さん
畠山さん
単純に、景色が違っていたとは思いますね。草刈りなんて、こんなにきれいにやってませんでしたから。
後藤さん
後藤さん
プロジェクトがあったから、景観が保たれた?
畠山さん
畠山さん
そうですね。棚田はとくにひどかったんですよ。木が生えてきてしまって、このまま林になっちゃうのかなっていうくらい。このプロジェクトのためにいくつか切りましたからね。里山らしく見えるようにはなったかもしれないですね。

——もう参加したくない、というような思いになったことはありませんでしたか?

畠山さん
畠山さん
もう、毎年恒例行事になっているのでね。私はやらざるを得ないような立場でもあるし、めんどくさいとかそういうこともありません。

——これからを担う人たちというのは、育ってきているものですか?

畠山さん
畠山さん
実行委員会に若い人が入ってきたので、それはよかったなと思っています。私も含めてですけれど、年寄りにはそろそろよけてもらって(笑)、彼らがアイデアを出していってくれたらいいですよね。ただ、みんな日々の仕事があるので、なかなか難しいんですよ。

——後藤さんは、作家として、さらには実行委員として参加して、いま、村やプロジェクトにどんな思いを持たれていますか?

後藤さん
後藤さん
八木沢は、「はじっこ」といえるような場所だと思うんです。

——はじっこ?

後藤さん
後藤さん
はじっこというのは、地理的にということではなくて、人と山の接点の末端という意味で、その対局にはコンビニで買い物をするような生活があるんだけれど。
後藤さん
後藤さん
この8年間で、集落からは建物がどんどん減っていっているし、その周辺には、もうなくなった集落の石碑だけが残っていたりして。かつて山だった場所を人間が切り開いて、集落を作ってきたのが、今度は人がいなくなって、切り開いた場所が少しずつ山にかえっていっている。

そういう生々しい状況を目の当たりにして、自分もまわりも、どう向き合っていこうかというのが、いまだにわからないなと思っていて。

——そのあたり、畠山さんはどう感じられていますか?

畠山さん
畠山さん
私個人としては、「このまま終わっていくんだろうな」っていうふうにしか思っていなくて、心配というほどでもないんですよ。「終わるなら終わるんでしょう」っていうくらいにしか思っていない。
畠山さん
畠山さん
このプロジェクトの中でも、はじめの年に、「あなたはなぜここに暮らしているんですか?」っていうことを村の人に聞き取りするような取り組みがあったんです。自分の答えは「ただここにいたいから」。それはずっと変わりません。
後藤さん
後藤さん
外の人が勝手に感傷的になっているようなところもあるかもしれないですよね。プロジェクトに関わりながら、集落がなくなっていくことをポジティブに捉えられないか、縮小していくことを前向きに捉えられる考え方を見つけたいなと思っています。
畠山さん
畠山さん
好きだからここにいたいだけで、このまんま廃れて、自分が最後の一人になってもここにいるんだろうなって思いますね。

——プロジェクトを通して畠山さんや村のみなさんが変化していったように、減っていくことに抗うのではなく、その環境のなかでいかに充実度を深めていくかが、これから目指す一つの形なのかもしれませんね。

【かみこあにプロジェクト】
https://www.kamikoani-project.com/