秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
湯沢市編

編集・文:矢吹史子 写真:船橋陽馬

ボクらの会社「YAMAChuコーポレーション」

2020.02.26

湯沢市にある会社「YAMAChuヤマチュウコーポレーション」。「地域活性化」「地域貢献」をスローガンに、地元食材を活かした食品を軸に、商品開発を行っている会社です。

……と、じつはこの会社、湯沢市立山田中学校が運営しているんです。そしてなんと、社員、役員、副社長、さらには社長までが、生徒によって構成されているというのです。

なんとも興味深い「YAMAChuコーポレーション」。その真相を確かめるべく、山田中学校を訪ねました。

はじめに迎えてくださったのは、教務主任の池田たかし先生です。

池田先生
池田先生
このプロジェクトは、週に1度の「総合的な学習の時間」に行っているもので、平成30年度からスタートしました。2年目の今年は、全校生徒49名が参加して行っています。

これまでは、個人で課題を決めて研究する形だったんですが、それを一度ゼロベースにして「何か全校生徒でプロジェクトができないか?」ということで立ち上がりました。

——「商品開発をしたい」というのは、生徒たちのなかから出てきたアイデアなんですか?

池田先生
池田先生
そうなんです。商品開発をしてみたいということも、それを会社をとしてやってみたいということも、生徒たちから挙がってきたアイデアなんです。
池田先生
池田先生
会社の構造としては、商品開発部、広報部、営業部、記録部という4つの部門があって、学年を越えて縦割りに構成しています。 その上に、役員、副社長2名、社長1名がいて、相談役として教員がサポートしています。

各部門で、一つの商品をどう売っていくか、そのために何をやりたいかについて、企画書をあげてもらって、役員会にかけて、社長が決裁する、というふうになっています。

——さすがに、この構造自体は学校側が考えたんですよね?

池田先生
池田先生
いえ、これも生徒たちと考えました。「○○部があったほうがいいんじゃないか」というところから。
初代の社長や副社長たちと教員とで案を練って。4部門ある部署も、それぞれの生徒が希望したところに関われるようにしています。

——素晴らしいですね! 商品開発はどんなふうに進めていくんですか?

池田先生
池田先生
ベースになっているのが地産地消なので、まずは山田地域で採れるものは何なのかというところを洗い出して、それから商品づくりに向かっていきます。

試作して、みんなで試食して、商品やレシピを決めていって……それを企業に提案することで「地産地消のアイデアを買ってもらう」というやり方をしています。
昨年開発した「ビビンバ丼」。山田地域の食材をふんだんに使ったレシピを提案し、地元飲食店で提供された。(写真提供:YAMAChuコーポレーション)
「山田の子まんじゅう」は、地元老舗和菓子店とともに開発。
食品にとどまらず、地元作家とともに、山田地域産の酒米を使用したアクセサリーも開発。
池田先生
池田先生
提携企業とは契約書を交わして実際に入ってきた売り上げ金は、次年度の活動資金、高校受験をする3年生の激励集会に使用したり、今後は社会貢献などに活用していく予定です。
現在、連携している地元企業は32社ほど。そのうち10社は山田地域の企業。最近は企業側からオファーが来ることも増えてきた。
こちらは記録部による社内報。活動をアーカイブしていくことは、会社全体の士気を高めることにも繫がっている。

——めちゃくちゃ楽しそうですね!

池田先生
池田先生
めっちゃ楽しいんですよ!! 職員室の話題も、YAMAChuコーポレーションの話題ばっかりなんですよ(笑)。

と、そこへ、2人の生徒がやってきました。

大翔さん
生徒
2年の石川大翔だいとです。営業部副部長をやっています。
泉さん
生徒
2年の泉翔斗しょうとです。商品開発部副部長をしています。

——今年はお二人はそれぞれ、どういうことをされたんですか?

大翔さん
大翔さん
今年開発した、カレーの開発でいうと、自分は、いろいろなお店や農園に電話して食材を提供してもらえないか交渉したり、でき上がった商品はレトルトでも販売することになったので、そのパッケージのシールを作ったりました。
泉さん
泉さん
僕は、山田地域の食材をどれだけ活かせるかということを意識しながら、カレーのレシピを考えて、それを試作しました。
開発した「ナンも言えねぇ〜YAMAChu勝ち飯キーマカレー」は、期間限定で湯沢市内の飲食店などで提供された。山田地域の食材をたっぷり使用し、自分たちで作った味噌が隠し味になっている。ごはんはトマトを一緒に炊き込むというこだわりぶり。(写真提供:YAMAChuコーポレーション)

——カレーのコピーにある「勝ち飯」というのはどういうことなんですか?

泉さん
泉さん
学校栄養士の先生に入っていただいて、栄養のバランスもよく、野菜もたっぷり使ったので「それを食べると元気が湧く」という意味で「勝ち飯」としました。

——実際、よく売れましたか?

一同
はい!

——売れる喜びを感じられるのって、すごく大事ですよね。具体的に反響はありましたか?

泉さん
泉さん
好評ではあったんですが、「辛かった」とか「こうしたほうがいいよ」というような、ありがたい意見もいただきました。

それから、給食センターにレシピを提供して、去年の12月には湯沢市の全小中学校でメニューとして出されて、三梨みつなし小学校からはお手紙もいただいたりして。嬉しかったですね。

——ご自身で「良い仕事したなあ〜」と思うのはどういうところですか?

大翔さん
大翔さん
やっぱり、レトルト用のシールですかね。先生にもアドバイスをいただいたりしながら、学校のパソコンを使ってデザインしました。
レトルトカレーは学校内やイベントなどで販売したが、製造した378個は、あっという間に完売。
泉さん
泉さん
僕は、レシピ開発をする途中段階で、商品化できそうなもの、できなそうなものがいろいろあって、選んでいくのに苦労したんですが、最終的にこのレベルまで持っていけたことに達成感を感じています。
昨年度開発した「ビビンバ丼」を発案したのは、泉さんのチーム。

——やっていると、学校に来るのが楽しみになるんじゃないですか?

大翔さん
大翔さん
そうですね。この授業がある金曜日が一番楽しみになりますね。
池田先生
池田先生
(池田先生が担当の)「英語も楽しみ」って言ってくれよ(笑)。

——この会社を運営していくなかで自分が「成長したな」って感じることはありますか?

大翔さん
大翔さん
人前で話すのがちょっと苦手だったんですけれど、今は気軽にコミュニケーションを取れるようになってきました。
泉さん
泉さん
僕は、商品のアイデアを生み出す力とか、物事のメリット、デメリットを探す力が前よりもアップしたように感じます。

ここで、3年生の石川優人ゆうとさんが加わります。商品開発部長、副社長として活躍してきた優人さん。今年は、地元麹店との味噌づくりにも力を入れてきたそう。

——ここまで、2年生のお二人から話を聞いていたんですが、このプロジェクトは、後輩との連携ができる場でもありますね。

優人さん
優人さん
この活動を通して、自分では思いつかないことや、柔らかい考え方を後輩たちがしてくれて。違う角度からの考え方もあることに気付かせてもらえたと思います。

——来年以降への期待も大きいのでは?

優人さん
優人さん
失敗ということはないので、自分たちの考えたことを自信を持ってやっていってほしいですね。

——「失敗ということはない」……含蓄のある言葉ですね。

優人さん
優人さん
これは、今年の社長が、挨拶のときによく言っていたことで「うまくいかないことがあっても、それは失敗ではない」ということなんですけれど……。
池田先生
池田先生
毎回、時間の始めに全体会をするんですが、そこで「社長からのひと言」というのがあって、こういうことを話すんですよ。

——社長も生徒なんですよね? すごいなあ……。先生たちが生徒から学ぶということも多そうですね。

池田先生
池田先生
はい。生徒たちの成長をものすごく感じますね。

——この取り組みの目的は「地域活性」と伺いました。みなさんにとっての「地域活性」というのはどういうことだと思いますか?

大翔さん
大翔さん
山田地域は、おじいさんおばあさんばかりなんですが、そのおじいさんおばあさんが元気に外を歩いて、近所づき合いもよくて、食べ物をがつがつ食べて、長生きして……という、たとえ若者が入ってこなかったとしても、お年寄りが元気な地域になっていったらいいなって思います。
泉さん
泉さん
僕が思うのは、湯沢は、人口は減ってはいるんですけれど名産品がたくさんあるので、それをたくさんの人に伝えていくことで、たとえ湯沢に住む人は少なくても、湯沢という土地や良いものをみんなに知ってもらえるようにしていけたらと思っています。
優人さん
優人さん
私は、若者と高齢者が意見交換するような会を開いて、駅前の商店街のシャッター街を開けるようなことをしたら、より活性化に繫がるんじゃないかなと思います。

——ないものを増やすことよりも、あるものを大切にしていく。空き店舗だって「使える可能性のある場所がある」とも捉えられますね。このような活動は、ほかの学校からも興味を持たれるのでは?

池田先生
池田先生
このプロジェクトは、フットワークの軽さが大事で、学校の規模が大きいと難しいように思えるんですよ。

——全校生徒49名という規模だからこそできているんですね。

大翔さん
大翔さん
だからこそのアットホーム感!
池田先生
池田先生
この取り組みをしたことで「ふるさとの良さをあらためて感じられた」とか「湯沢に残ってがんばろうかな」という生徒も少しずつ増えてきています。

人口も、生徒数も、少なければ少ないなりに、交流する人口が増えていけばいいと思うんですよ。

——最後に、来年度に向けての意気込みを聞かせていただけますか?

大翔さん
大翔さん
この活動は、今でもずいぶん知ってもらえるようになってきているんですけれど、もっと広く伝えていって、いろんな人たちに湯沢に来てもらえるように拡大していきたいです。
泉さん
泉さん
来年度で3年目なんですが、最初のころと違ったものをやらないと飽きられてしまうと思うので、しっかりと方向性を決めて、そのうえで「どうしたらいいんだろう?」というのを考えながら、事業を拡大をしていけたらと思います。

【湯沢市立山田中学校】
〈住所〉湯沢市山田字下館10

〈TEL〉0183-73-3017

【YAMAChuコーポレーション】
〈blog〉https://yamachu-co-ltd.hatenablog.com/

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