秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
由利本荘市編

編集・文:竹内厚 写真:蜂屋雄士

日本でいちばん朝早い!?本荘駅前の朝市へ。
本荘駅前朝市(由利本荘市花畑町)

由利本荘市に到着して、まずは玄関口となる羽後本荘駅の周辺を歩きました。ちょっと寂れてるなというのが正直なところでしたが、ひとつ気になったのが「朝市」の旗。朝市やってるんだーと調べてみたところ、午前3時から8時まで、日曜日をのぞく毎日開催とのこと。3時!? それって夜市じゃないの?

ということで行ってきました、午前3時。

ちょっと寝坊して3時6分。いいよね、6分くらい。だって午前3時だから。
駅前は真っ暗。だって午前3時だから。
半信半疑で到着したところ、市場はこうこうと灯りが。羽後本荘駅から徒歩1分。

不審者のようにうろうろとする我々を「早いねぇ、おはようの方? おやすみの方?」と元気に迎え入れてくれたのが、市場の管理人を務める繁野正倶しげのまさともさんでした。 聞けば、今の時期、3時から市場に入っている人はあまりおらず、4時半くらいになったら揃ってくるよとのこと。

といっても、鮮魚店はほぼ買える状態。アンコウを黙々とさばいていた。
山菜を中心とした鈴木ムメ子商店は、時々、鼻歌まじりで品出し中。

控えめなボリュームで流れるNHK「ラジオ深夜便」、そして、淡々と進む作業の音。早朝(深夜)の朝市の現場の音を録音して、読者のみなさんに聞いていただいたらよかったと後日、思いあたりました。思わず背筋が伸びますよ。 まだ店が出揃わないなか、市場の開店準備を進める繁野さんと立ち話。早々にぶつけたのはあの疑問、そう、開店時間のことです。

——ここの朝市は、どうして3時からなんですか。

繁野
それは、この市場の成り立ちが他とはちょっと違うから。昭和30年代、まだ国鉄だった頃、本荘駅がこのあたりの中心で、近隣の生産者や農家さんが駅前の路上に集まって、販売をしてたわけ。そうすると、背負子しょいこさんたちが仕入れにきて、1番列車に乗って秋田や矢島方面なんかに、買った商品を持っていってたんです。 ※背負子:荷物をくくりつけ、リュックのように背負って運ぶための枠型運搬具。ここでは、それを使って行商をおこなう者を指す。

——1番列車に間に合うような時間ってことなんですね。

繁野
そうそう。背負子さんだけじゃなくて、近在近住のお店をやってる方が仕入れにくることも多くなってきて、店を開けるのが8時だとしたらそれより早く店に戻らないといけないし、市場に出店してる農家さんたちも、7時にはあがってないと日中の農作業に差し支えるでしょ。だから、昼になるとここは誰もいなくなっちゃう。
なんて話してると、少しずつ集まってきました。
シートを広げて、サシボ(山菜)を並べる。もう、これで開店。
またひとり到着、生花屋さんもやって来た。

聞けば、何年何十年と継続している店もあれば、月単位で場借りしている店、そして、その日だけやって来るという人もいるそうです。

繁野
鑑札かんさつを持ってないと入れない市場もあるけど、ここは自由席だから。そこの黄色い区画は、場代というのかな、350円払えば誰でも使えるんです。フリーマーケットみたいなもの。昔はね、隙間なく店が出てたから、3時には来て場所取りをしてたけど、今はそこまで混みあうことはないかな。
4時。店もお客さんも少しずつ増えてきた。
山盛りのシイタケも到着。
売り買いだけでなく、「おはようさん」から始まる会話があちこちから聞こえてくる。
中央は道の駅「にしめ」の駅長さん。道の駅で売るための野菜、山菜、お菓子などを仕入れる。
こちらは搬入ではなく、たくさん買いつけた様子。

駅前の露店から始まった朝市でしたが、行政の指導などもあって、いまの駅前の土地に仮設の建物が建てられたのが1972年。老朽化にともなって、1989年に建て直されました。そこから数えても約30年。周辺に全国チェーンのスーパーが開店するなど、環境が変わっていくなか、朝市のやり方や集まる人たちの姿はほとんど変わっていません。

八百屋さんが到着。品出しを手伝いながら、いち早く目ぼしいものを買っていくお客さんも。
精肉や惣菜の店もオープン。2年前から店を開く珈琲店は、もともと駅前で喫茶店を開いていた人だそう。
5時前、空が白んできた。

小売店や飲食店の人たちが仕入れをおこなう仲卸の市場でもあり、近所の方々が散歩ついでにのぞいていく朝市でもあり。ただ、朝7時半にはほとんど営業を終えているという、早朝型の朝市ですから、いまや由利本荘市民であっても足を踏み入れたことがない、存在すら知らないという人が少なくないそう。 そんな状況に対して、秋田県立大学の「秋田学生まちづくり団体」を中心に、日曜の昼に市場を開く「昼市」が企画され、昨年2017年11月に初開催。約1000人の来場者を迎えて、大成功を収めました。第2回の昼市も2018年5月13日に予定されています。

「5時に時間指定されてるから」と、それぞれの売場に珈琲を配達中。
親の代から70年くらいやってるというお菓子屋さんも。
鮮魚は近くの漁港から。何種類ものカレイやヒラメ、ナマコ、アマダイなど。
吊り下がるビニール袋、積み上がるトロ箱も美しい。

5時をすぎれば一般のお客さんが増えてくる一方で、朝一番に来ていた山菜売りのお母さんのように、さっさと店じまいして帰ってしまう人も。それぞれが自分のペースを守って、売ったり買ったりできるのが朝市の魅力です。 そして、ただ商品とお金をやり取りするだけでなく、挨拶と近況を交わす時間にもなっているのが印象的でした。

由利本荘は海と山と川のある街。鳥海山にも近く海岸部との高低差があるため、山菜の採れる期間が他の地域より長いという特徴もあります。そうした自然に恵まれた土地柄だからこそ、山の幸、海の幸をとってつくって、人が集まる場所に持ってきて、売り買いする。原始的ともいえるシンプルな市場のかたちが今も成立しています。

繁野
その代わり、「今日はあれを買おう」と思って来てもらっても、売ってないことがあるから、それでは困る人はスーパーへ行っちゃう。シケが続いたら鮮魚店は店を開けないし、野菜もいまは端境期はざかいきだからほとんど出てないでしょ。
6時半、外は通勤通学の姿が増えてくる。
市場の人出は一段落。山菜を売る人もひとりが残るだけに。
使った区画はそれぞれが自分で掃除して帰っていく。
共用の水道には生花の心配り。

この日、本荘駅前朝市が最もにぎわったのは5時前後。日曜以外の曜日は毎日開くというスタイルもふくめて、由利本荘の日常生活に寄り添った朝市なんですね。駅前から自然発生的に始まった朝市が、観光客をアテにするわけでもなく、日々、淡々と続いていることに清々しさすら覚えました。 もちろん、誰が来てもウェルカム。「昼市」という新しい挑戦も始まったばかりです。日本一朝が早いとテレビで紹介されたこともあるという本荘駅前朝市。機会があれば、ぜひのぞいてみてください。

7時前には、訪れた3時頃と変わらない静かな市場の姿に戻っていた。
「第2回 日曜ほんじょう昼市」は5月13日(日)10:00~14:00。日頃から朝市に出店している店の他に、この日だけの特別出店者もあり。

【本荘駅前朝市】
〈住所〉由利本荘市花畑町2丁目48
〈時間〉3:00〜8:00(7:00閉店の店もあり)
〈定休日〉日曜・年末年始
〈TEL〉0184-22-5821
〈Facebookページ〉本荘駅前市場

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