八郎潟が生んだ、甘くてしょっぱい宝石
みなさんは最近、佃煮(つくだに)って食べていますか?あの、茶色い、ごはんのおともの、佃煮です。潟上市(かたがみし)を巡っていると、「佃煮」の看板をよく見かけます。それもそのはず、秋田県は魚介の佃煮の消費量が全国でもトップ…
編集・文:竹内厚 写真:蜂屋雄士
2018.05.02
由利本荘市に到着して、まずは玄関口となる羽後本荘駅の周辺を歩きました。ちょっと寂れてるなというのが正直なところでしたが、ひとつ気になったのが「朝市」の旗。朝市やってるんだーと調べてみたところ、午前3時から8時まで、日曜日をのぞく毎日開催とのこと。3時!? それって夜市じゃないの?
ということで行ってきました、午前3時。
不審者のようにうろうろとする我々を「早いねぇ、おはようの方? おやすみの方?」と元気に迎え入れてくれたのが、市場の管理人を務める繁野正倶さんでした。 聞けば、今の時期、3時から市場に入っている人はあまりおらず、4時半くらいになったら揃ってくるよとのこと。
控えめなボリュームで流れるNHK「ラジオ深夜便」、そして、淡々と進む作業の音。早朝(深夜)の朝市の現場の音を録音して、読者のみなさんに聞いていただいたらよかったと後日、思いあたりました。思わず背筋が伸びますよ。 まだ店が出揃わないなか、市場の開店準備を進める繁野さんと立ち話。早々にぶつけたのはあの疑問、そう、開店時間のことです。
——ここの朝市は、どうして3時からなんですか。
——1番列車に間に合うような時間ってことなんですね。
聞けば、何年何十年と継続している店もあれば、月単位で場借りしている店、そして、その日だけやって来るという人もいるそうです。
駅前の露店から始まった朝市でしたが、行政の指導などもあって、いまの駅前の土地に仮設の建物が建てられたのが1972年。老朽化にともなって、1989年に建て直されました。そこから数えても約30年。周辺に全国チェーンのスーパーが開店するなど、環境が変わっていくなか、朝市のやり方や集まる人たちの姿はほとんど変わっていません。
小売店や飲食店の人たちが仕入れをおこなう仲卸の市場でもあり、近所の方々が散歩ついでにのぞいていく朝市でもあり。ただ、朝7時半にはほとんど営業を終えているという、早朝型の朝市ですから、いまや由利本荘市民であっても足を踏み入れたことがない、存在すら知らないという人が少なくないそう。 そんな状況に対して、秋田県立大学の「秋田学生まちづくり団体」を中心に、日曜の昼に市場を開く「昼市」が企画され、昨年2017年11月に初開催。約1000人の来場者を迎えて、大成功を収めました。第2回の昼市も2018年5月13日に予定されています。
5時をすぎれば一般のお客さんが増えてくる一方で、朝一番に来ていた山菜売りのお母さんのように、さっさと店じまいして帰ってしまう人も。それぞれが自分のペースを守って、売ったり買ったりできるのが朝市の魅力です。 そして、ただ商品とお金をやり取りするだけでなく、挨拶と近況を交わす時間にもなっているのが印象的でした。
由利本荘は海と山と川のある街。鳥海山にも近く海岸部との高低差があるため、山菜の採れる期間が他の地域より長いという特徴もあります。そうした自然に恵まれた土地柄だからこそ、山の幸、海の幸をとってつくって、人が集まる場所に持ってきて、売り買いする。原始的ともいえるシンプルな市場のかたちが今も成立しています。
この日、本荘駅前朝市が最もにぎわったのは5時前後。日曜以外の曜日は毎日開くというスタイルもふくめて、由利本荘の日常生活に寄り添った朝市なんですね。駅前から自然発生的に始まった朝市が、観光客をアテにするわけでもなく、日々、淡々と続いていることに清々しさすら覚えました。 もちろん、誰が来てもウェルカム。「昼市」という新しい挑戦も始まったばかりです。日本一朝が早いとテレビで紹介されたこともあるという本荘駅前朝市。機会があれば、ぜひのぞいてみてください。
【本荘駅前朝市】
〈住所〉由利本荘市花畑町2丁目48
〈時間〉3:00〜8:00(7:00閉店の店もあり)
〈定休日〉日曜・年末年始
〈TEL〉0184-22-5821
〈Facebookページ〉本荘駅前市場