秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:竹内厚 写真:蜂屋雄士

折り目正しき純喫茶の姿
紫陽花(由利本荘市小人町こびとまち

2018.05.09

由利本荘の街なかでは、喫茶店の看板を多く見かけました。きっと由利本荘の純喫茶巡りという記事もつくれるほどだと思いますが、今回は「紫陽花あじさい」を紹介します。
店へ入るなり、時代を経て変わらずに続いてきた雰囲気と独特の美意識のようなものも伝わってきて、惹かれてしまいました。

まずは、紫陽花の店内をご覧ください。

1983年のオープン以来、全然変わってないという店内。さすがに公衆電話ははずしてしまったといいますが、電話ボックスはそのままにして、店の空気を崩さないようにアレンジ。壁に掛かる数多くの絵画は、ほとんどお客さんによってプレゼントされたもの。店の名前にもなっている大輪のアジサイのドライフラワーは、自宅の庭で育てたものだそう。

こうした店ではやっぱりプリンを注文したくなりますね。

そして、紫陽花のもうひとつの気になるところ。カウンター前のイスがすべてロッキングチェアなんです。 「まだ店を開く前、東京にいた頃にロッキングチェアを使ってる喫茶店が1軒あって、それがいいなって。だから、開店したときからロッキングチェアを置いてます。常連さんの中には、ここが空いてなかったら帰っちゃう人もいますよ」とマスターの大久保周二さん。

4脚のロッキングチェアが特等席。

実は、紫陽花は23時まで店を開けて、喫茶にして街の食堂的な役割も兼ねています(近ごろは22時までのことが多いそう)。メニューを開けば、グラタン、ドリア、パスタ、カレーなどセットメニューも充実。自家製のベーコンも人気とのこと。 「昔は夜、開いてる店も少なかったから。自分がやってる飲食店がハネてから、うちに来るお客さんも多かったんです」と大久保さん。

手づくりクッキーはお土産にも。
帰り際に気づいた自家製ケーキ、こちらもおいしそう。

大久保さんとそんな会話をしていたら、書店から配達されてきたのが週刊のコミック誌。見れば、『ジャンプ』『マガジン』『サンデー』の3誌揃ってます。スポーツ新聞に週刊誌も。 ロッキングチェアを置いてるのも、実のところは「お客さんには長くくつろいでもらいたいから」。

今ではひとりで店を切り盛りする大久保さんは、常に変わらずネクタイスタイルで通しているそう。

「人前に立つんだから、ケジメです」。

そのきっぱりとした言葉を耳にしたとき、人それぞれ、好きな時間を過ごすことをそっと支えてくれる、喫茶店ってそんな場所だったと思い出しました。

マスターは、今年のセンバツに出場した由利工野球部OB。みなで甲子園までバスで応援に行ったそう。

【紫陽花】
〈住所〉由利本荘市小人町15-1
〈時間〉10:00〜23:00(日によって22:00閉店)
〈定休日〉第1・3月曜日
〈TEL〉0184-24-4993