秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:竹内厚  写真:船橋陽馬

意味がわからないこと
アテのない時間、大歓迎。
だまこ鍋座談会

2018.06.13

廃校となった小学校校舎を起業やコミュニティ活動の場として再生した「BABAME BASE」。地域の内外をつなぐ拠点となっている「シェアビレッジ町村まちむら」。など、五城目町は新しいスタイルで地域を活性化している拠点が目立っています。

BABAME BASE こと五城目町地域活性化支援センター。閉校となった旧馬場目小学校を活用。校舎は2000年竣工の美しい木造建築。

そんな五城目町で活動する若い世代とだまこ鍋を囲みながら、町のリアルなところを聞いてみました。
鍋を囲んだのは小熊隆博おぐまたかひろさん、柳澤龍やなぎさわりゅうさん、渡邉幸穂わたなべさちほさんの3人。話されたのは、”うなるドラゴン節”、”町のためにだけじゃない”、”それぞれの野望”の3本です。

定番の乾杯シーンを撮影してから座談スタート。左から渡邉幸穂さん、柳澤龍さん、小熊隆博さん。小熊さんが五城目町、柳澤さんは東京、渡邉さんは新潟出身。詳細なプロフィールは後ほど紹介。
ご飯をつぶして丸めただまこを煮込んだ「だまこ鍋」は、五城目町の郷土料理。

——五城目って移住してきた人が目立ってる印象がありますね。やっぱり移住者が多い町でしょうか。

柳澤
人口比でみたらどうなんでしょう、どこの地域もあまり変わらないんじゃないかな。そもそも根拠となるデータが結構、いい加減なんですよ。移住の内実まで調べてる自治体のデータなんて見たことない。
小熊
いきなり核心。
渡邉
ドラゴン節が出ますよ。

——ドラゴン節?

渡邉
龍さんがマシンガンのように話しはじめると、周りではドラゴン節炸裂だって言って(笑)。
小熊
彼の職業は革命家ですから。
チェ・ゲバラ尊敬しています(笑)。
柳澤龍さんは、東京に生まれ育ち、27歳で五城目町へ移住。地域おこし協力隊の任期3年を経て、立ち上げにも関わったシェアビレッジ町村の運営に携わるなどしながら、五城目町で活動。

——ドラゴン節の前に(笑)、龍さんは何をして稼いでるんですか。

どうやって生きてるの? ってよく聞かれるんですけど、空気食ってるんだよって。

——煙に巻いてく感じだ。

正直、食えてないです。あ、今年度から秋田市の国際教養大学の連携研究員になりました。お金はもらえないけど(笑)。
小熊
彼の場合は、お金がつくまで時間がかかることをやってるんです。高齢化社会の研究だとか。

——龍さんの本職は研究者なんですね。

築130年を超える古民家を再生したシェアビレッジ町村。年貢(年会費)を払って村民になることで施設を利用できるなど、ユニークな仕組みでも注目を集める。訪ねた日は茅葺きをしているところだった。
そうです。みんな正しいことばっかり言いすぎだと思うんです。地域のため、町のためって言いながら、なんにもなってないことが多くて。人口が減ってる、経済が縮小してるというけど、それを解決したらいい社会になるかって、そうじゃないですよね。減ったのを増やすことが問題解決じゃなくて、新しい問いをつくって、新しい社会を描いていくことこそが必要。そういうことがやりたいんですよ。
小熊
日本って、わかりやすい課題に対して提案していくような研究やプロジェクトにお金がつきやすいから。
そういうのが大嫌いで。学問も芸術も、社会のためっていうところから切り離すべき。そこは戦いたいですね。

——ちょっと五城目の話も聞かせてください。地元が新潟の渡邉さんは、五城目をどう見てます?

渡邉幸穂さんは、新潟県出身。秋田公立美術大学在学中の2016年、五城目町にオープンした「ものかたり」のスタッフに。現在、地域おこし協力隊として、五城目町地域活性化支援センターのスタッフも兼業。
渡邉
上越と五城目って似てるんです。田んぼのど真ん中にイオンがあったりとか、こじんまりとした感じとか。だから違和感なく。五城目で感じるのは、ゆかいな人がとても多いこと。ゆかいな人たちと仕事ができればと思って五城目にやって来たので、それがかなっているのは、龍さん、小熊さんら、みなさんのおかげです。
さっちゃん、五城目に来たばかりの頃はスケボーで通勤してたよね。車の免許を取る前。
渡邉
それは数回だけですよ。やっぱり車社会なので、車なしだと生活は大変。そこも上越と似てますね。

——この中で唯一、五城目出身の小熊さんはどうでしょう。

五城目町出身の小熊隆博さんは、京都造形芸術大学大学院修了後、「瀬戸内国際芸術祭」でも知られるベネッセアートサイト直島に勤務。2015年、五城目町にUターンして、翌16年に「ものかたり」をオープン。
小熊
僕としては、五城目に戻ってきたら、龍くんをはじめ、いろんな人が集まって、町の動きがどんどん変わってたという印象なんです。

——小熊さんは10年近く、五城目の外に出られてたんですよね。

小熊
そうです。なかでも2年暮らした京都で感じたのは、学問と芸術の近さ、そして、その歴史の厚みがつくってきた懐の深さ。五城目の土地にそこまでの懐があるかっていうと難しいんだけど、局地的にそういうことを考えてる人がもっといてもいいはずだって思いながら帰ってきたら、龍くんのような人が五城目に移ってきていた。
五城目がいいなって思うのは、町のために活動してますって人だけじゃなくて、すぐには意味がよくわからない活動をやってる人もいて、その両方の人がいるバランスがいいんですよ。小熊さんが開いた「ものかたり」なんてその最たるもので、よくわからない場所でしょ(笑)。

——ものかたりは、ギャラリーとライブラリーをあわせたようなスペースですけど、カフェでもないから、どんなときに立ち寄ればいいのか、確かに地元の人でも迷いそうです。

古民家をリノベーションした「ものかたり」はギャラリーにして、さまざまな文化活動の拠点となっている。
多くの絵本が並ぶ「ものかたり」の本棚。
小熊
社会の課題解決としても、ビジネスの世界でも、コミュニティをつくろうという動きが盛んですよね。ただ、どんな世界でもコミュニティをつくると、一方でそこに入れない人が必ず出てくる。そうやってコミュニティからはじかれて、周りでモヤモヤしてる人たちの声に耳を傾けたいし、手を差し伸べるような場所でありたいとは思ってます。
人口1万人いたら、きっと4千人くらいはその町のことが嫌いな人がいるんですよ。そういう人たちにとって、町のために、じゃない、よくわからない場所ができることは気持ちが楽になるんじゃないかな。

——1万人に対して4千人かはわからないけど(笑)、町のためにという意識をみなが共有してるわけじゃないのは間違いないところですね。決して利己的なのではなくて、共同体意識よりも個で立つことを第一にという方々。

そうそう、人と関わるよりも自然を相手に猟をしたり、職人さんだったりという人たち。
渡邉
五城目で暮らしてきたおじいさん、畠山鶴松さんが残した”落書き”について、ものかたりでトークイベントや展示をしたことがありましたね。
小熊
畠山さんは、広く誰かに見てほしいという意志はなくて、ただ子孫のために集落の風俗なんかを書き留めてたんだけど、それが80年代に無名舎むみょうしゃ出版から『村の落書き』として刊行されています。畠山さん自身は、笑って読んでもらえれば幸せ、自分は学問も修めてこなかったし、こんなのは落書きでしかありませんっていう書き方で。
ほんとすばらしい方ですね。
小熊
どんどん外へ出て表現しようとする人が生まれてほしいけど、そうじゃなくても表現していいんだよって、そのための場を僕らでも広げていきたいですね。
そういう話でいえば、「ミカ」を訪ねてほしいな。五城目の伝説的なジャズ喫茶なんです。
渡邉
建物はツタで覆われて、ちょっと入りづらかったんですけど。行くと不思議とトリコになるんですよね。
店に入っても真っ暗で、目が慣れるとだんだん見えてくるという(笑)。
小熊
80代のご夫婦がやってたけど、先日、ご主人が亡くなっていちど店を閉めて。だけど、その娘さんが月に1回、店を開こうかなって話があるんです。秋田県内ではじめてのジャズ喫茶だと言われるくらいの場所なんだけど、龍くんらに教わるまで、実は僕も全然知らなかった。
ほんとにいい店で、最後の3年くらい通いつめて、僕らがいろんな人を連れていきました。そこはちょっと自慢です。

——地元では語られなくなったり、忘れられたりしていた場所を、龍さんのような外から来た人が再発見する。いいですね。

そういう場所がやっぱり町に眠ってるんです。掘り起こし甲斐がありますよ。
小熊
町の厚み、懐がないって言ったけど、見えてなかっただけという部分もありますね。
今回の取材では訪ねられなかったが、朝市にも新しい動きが起きている。定期朝市(毎月0・2・5・7のつく日)にあたる日曜開催の朝市は「ごじょうめ朝市plus+」として、出店条件を大幅に緩和、大勢の新しい出店者を集めて、集客もアップ。

——では最後に、3人のこれからの野望を聞かせてください。五城目でどんなことをたくらんでいるか。

小熊
勝手に思ってることですけど、北宇きたう商店でDJイベントとかやれたらいいんじゃないかって。
やりたい!

——北宇商店は、お酒、食品、惣菜、雑貨類を販売している、町のよろず屋さんですね。そんなところでDJイベント。

小熊
店主の北宇さんが、クリスマスに店でもっきりイベントを開いたことがあって、めちゃ楽しかったんです。いま、東京で「コンビニDJ」ってされてるみたいに、その五城目版としてできたらな。まだ北宇さんには何も話してませんけど(笑)。

——コンビニエンスストアにDJブースを設置して、パーティー会場に変えてしまうコンビニDJという場のつくり方を参考にしながら、それをよりローカルな商店で行えたらおもしろいでしょうね。

小熊
そういうことを町の人たちに吹っかけていくのも、僕らの役目だと思ってます。根回し係ですね。
トレーラーハウスを持ってる塗装屋さんがいて、そこで何かやりたいって話もあるんです。冬におでん食べながら、そこでフェスイベントかな。
渡邉
私がやりたいことは、もう名前だけ決まってるんですよ。“キメキメナイト”って名前で、仕事につかれた社会人をものかたりに集めて、オロナミンCやレッドブルを配って、みんなのプレイリストを聞かせてもらいながら、馬鹿騒いじゃうみたいなの。
そういうアテもない時間を過ごすのはいいよね。前にものかたりで『世界遺産』のDVDを見ながら、買ってきた焼鳥とか食べつつお酒を飲むってイベントを小熊さんとやったんだけど、あれもゆるかった。
小熊
世界遺産に関心があるわけでもないから、4本くらいみて飽きちゃった(笑)。

——アテもない時間を過ごす企画、いいですね。

世界遺産のビデオを見つつの飲み会? が行われたという、ものかたりの蔵。
ものかたりの運営は、小熊さんの妻・美奈子さんも。
もうひとつ、やりたいことありました。今年、僕は屋台を10基つくる予定があるんだけど、ものかたりの裏に空き地があるから、そこに屋台を並べて朝市ならぬ夜市をやりたいなって。

——そういえば日曜日に開かれている「ごじょうめ朝市plus+」、すごい人出だそうですね。

そうなんです。だけど、その朝市plus+の出店枠が70店で、結構、いつも抽選になってるんです。だったら、同じ日に屋台で夜市を開いちゃえばいい。あ、「夜市minus−」という名前で。
渡邉
あやしい(笑)。
小熊
いいね。何売ってるんだろう(笑)。
渡邉
ドラゴン塾の屋台も開けばいいと思います。
実現したらまた取材に来てくださいね。
座談会の後、玄関で記念写真。だまこ鍋をいただいたのは「郷土料理いしかわ」。

【BABAME BASE/五城目町地域活性化支援センター】
〈住所〉南秋田郡五城目町馬場目蓬内台117-1
〈時間〉9:00〜21:00 ※要申請。
〈使用料〉200円〜 ※各施設により異なります。
〈TEL〉018-853-5155
〈HP〉http://babame.net/index.html

【SHARE VILLAGE MACHIMURA/シェアビレッジ町村】
〈住所〉南秋田郡五城目町馬場目字町村49
〈時間〉10:00〜15:00
〈定休日〉火・木・祝日
〈HP〉http://sharevillage.jp/

【ものかたり】
〈住所〉南秋田郡五城目町上町39
〈時間〉10:00〜19:00
〈TEL〉018-802-0089
〈HP〉http://www.mono-katari.jp/

【郷土料理いしかわ】
〈住所〉南秋田郡五城目町東磯ノ目2-1-7
〈時間〉11:00〜22:00
〈定休日〉火曜日
〈TEL〉018-852-9842