秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
仙北市編

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希

大安吉日うまれの甘納豆、ケヲハレ。

2020.06.10

「ケヲハレ」という名前の甘納豆があります。これは、仙北市角館町にある「かどや食品工業株式会社」が製造しているものですが、じつは、この甘納豆は「大安吉日にのみ作られる」というユニークな特徴があるんです。

格調高い紙パッケージの中には、甘納豆、季節に合わせた植物の粉末、あられが入っています。お好みで、甘納豆にこの粉末とあられを絡めていただくというスタイル。

まずは甘納豆のみをいただいてみると、北海道産の小豆は、非常にふっくらしており控えめな甘さ。思わず「もう一粒」と手が伸びてしまいます。

さらに、季節の味の粉末「赤紫蘇あかじそ」を振りかけてみると、甘納豆単体の美味しさから一変、紫蘇の爽やかな風味が広がります。あられは目にも鮮やかで食感にリズムも生まれて楽しい。

季節の粉末は、立春、春分、清明など、季節の節目に合わせて全12種。きなこ、よもぎ、桜葉、抹茶、赤紫蘇、山椒、笹、みかん、生姜、新小豆、柚子、桂皮と、全て天然の素材を使用。

パッケージ、甘納豆、季節ごとの味、そして、大安吉日に作られるというコンセプト……。商品の端々から、こだわりや思いを感じずにはいられません。

この商品、いったい、どのようにして生まれたものなのでしょう?

仙北市角館町を訪ね、かどや食品工業株式会社の高橋陽一さんにお話を伺っていきます。

昭和23年「日東製餡所にっとうせいあんじょ」を創業。昭和47年からは「かどや食品工業株式会社」として現在の場所へ移転。主に菓子店などが使用する餡の製造、卸業を行っている。

季節を味わう

高橋さん
高橋さん
「ケヲハレ」が生まれたのは、2017年頃のことです。

あんこを作ってお菓子屋さんに卸すなかで、時代の流れから取引先が少しずつ減り始めてきたこともあって、秋田市にある「(公財)あきた企業活性化センター」を訪ねてみたんですよ。

そこでは、企業の販路拡大やマーケティングなどの相談に応じてもらえるということで「売り先開拓のアドバイスをもらえたら……」という気持ちで伺いました。
高橋さん
高橋さん
そうしたら、売り先ではなく「独自に商品を開発していくことを勉強してみては?」というアドバイスをいただいて、あきた企業活性化センターが主催する「商品企画ワンポイントセミナー」というものに参加させてもらうことになったんです。

——想像とは違う角度に話が進んでいったんですね。

高橋さん
高橋さん
はい。そこでは、全国で活躍されている商品開発のプロを講師に、マーケティングやアイデア出しのトレーニングを受けて、実際に商品開発をしていきました。

それまでは「人の気持ちに細かく入っていって商品のことを考える」なんてことはしたこともなかったんですが、「自分たちの持っている技術を、誰のために活かしていくか」という考えのもと、出したアイデアの一つがこちらです。
高橋さん
高橋さん
『“お菓子のカレンダー”から、年中行事を知ろう』というものです。
今は、便利な世の中になって、冬でも夏野菜が食べられたりもする。でもその反面、「季節を味わう」ということが少なくなってきていますよね。

それに、雑多な生活のなかで、「ああ、1週間過ぎた、1ヵ月過ぎた、もうお盆がきた……」というふうにして、あっという間に1年が過ぎてしまう。

——身に覚えがあります……。

高橋さん
高橋さん
でも、立ち止まって、昔からある習わしを一つひとつ味わっていく。そういった暮らしが、豊かさに結びついていくんじゃないか……という考えが、自分のなかにあったんですよ。
高橋さん
高橋さん
日本はもともと、稲作が中心的な文化ですよね。
「収穫をすることが幸せの到達点」と考えたときに、雪が溶けて山肌が見えてきたらこれをする、この花が咲いたら次の作業をする……というふうに、その時期にやるべきことをしないと手遅れになってしまうんですよ。

そういった、稲が育っていく姿と、人間が暮らしていく姿というのは、重なりあうなと感じて、そのことを商品を通して伝えられないかなって思ったんですよね。

ケがあってこその、ハレ

「ケヲハレ」は、商品開発のセミナー後に行われた、通信販売大手のフェリシモの企画オーディションに採用され、会員向けに販売された。

——餡を使った製品はさまざまあるなか、甘納豆を選ばれたのには、どういう経緯があったんでしょう?

高橋さん
高橋さん
ここは和菓子工房ではないので、あんこをさらに加工してお菓子にする技術は持ち合わせていません。
でも、甘納豆を作る技術はありました。そこで、それを活かせる商品を考えついたんです。
職人歴50年以上という工場長の阿部さん

——では、「大安吉日だけ作ろう」というコンセプトはどこから?

高橋さん
高橋さん
小豆自体の赤色が「邪気を払う」「おめでたいもの」という言い伝えがありますし、甘納豆を作るというのは、パパッとできるものではありません。全て手作業でやっていますから、量もそんなに作ることができない。
高橋さん
高橋さん
「だったら、おめでたいお席で使ってもらえるものに絞っていこう、それならば、さらにもう一つおめでたい時を重ねてしまおう」ということで、大安の日のみ作ることにしました。

——「ケヲハレ」というネーミングも素敵ですね。

高橋さん
高橋さん
「ケ」というのは日常、「ハレ」というのは特別な日のこと。この商品では、ケの日をベースとなる甘納豆で、ハレの日を季節ごとの味で表現しています。

「ケの日=日常がしっかりしていないと、ハレの日をハレの日たらしめることができない。だから日常が大事なんだよ。だからこそ、日々の暮らしを丁寧に暮らしていきましょう」そういうことを伝えたいと思っています。

——確かに、基本となる甘納豆がとても美味しかったです。だからこそ、季節の味の変化も楽しめるんですね。この商品はどういうところで取り扱っているんですか?

高橋さん
高橋さん
おめでたいお席の品や季節のご挨拶を必要とされる方や、気忙しさの中に季節を感じ、心豊かな暮らしを望む、特に女性に向けた商品を目指しました。

そういったことから、結婚式場でお使いいただいたり、秋田県内のいくつかの店舗にも置いていただいていますが、それはいずれも菓子店ではなく、雑貨や暮らしにまつわるものを扱っている店になります。

この商品の考え方に賛同していただけて、商品についてご店主が自分の言葉で説明してくださるようなところにお願いしています。

田中さんの心意気

——これからの新しいチャレンジなどはあるものでしょうか?

高橋さん
高橋さん
こちらをご覧いただきたいんですが……。
高橋さん
高橋さん
これは角館産大納言小豆を使った甘納豆です。ケヲハレはいつも北海道産小豆を使っているんですが、去年の6月に、田中という社員が、自宅の畑で自発的に小豆を作り始めたんですね。

この栽培をすることは、種植えの前日、こっそり私にだけ教えてくれたのですが、その後、収穫を終えるまで、社長も含め誰にも知らせずに、陰ながらやっていたんですよ。
高橋さん
高橋さん
秋田で商業用に小豆を作るというのはほとんどありません。彼が手掛けたのも小規模だったので、収穫は30kgにも満たないほどでしたが、その心を形にしたいと、今回、この大納言小豆を甘納豆と瓶詰めの蜜入り小豆として、限定販売することにしたんです。

——すべて地元のもので商品ができるというのは夢がありますね。

高橋さん
高橋さん
私は時々しか畑に足を運べなかったんですが、こうして小豆を作る工程がわかると、小豆の価格が高いのもよくわかるんですよね。

——ケヲハレのコンセプトにもある「季節の移ろいの大切さ」を身をもって感じることができますね。
そして、田中さんも、普段の餡の製造という仕事に誇りを持たれているからこそ、栽培にもチャレンジされたのではないでしょうか?

小豆の栽培をされた、田中さん

小豆の栽培は初めてだったんですけど、自分で作ったものを商品にするというのはどんなものかなと思って挑戦してみました。

去年、種を植える日も、甘納豆を作るのと同じ大安に合わせたんですよ。
小規模だったとはいえ、全部手で収穫するというのが、本当に大変でしたけど、粒も大きくて、硬くて割れにくい、丈夫な小豆ができました。
これから、自分で作ったものをお客さんに食べてもらえるのは楽しみですね。
今年もまた栽培に挑戦しようと思っています。

角館産大納言小豆を原料とした「かくのだて大納言甘納豆」は、6月13日から取り扱い店にて販売開始予定。(限定100袋)
こちらも角館産大納言小豆を使用した「あんどあん」という蜜入り小豆。
高橋さん
高橋さん
パッケージもこれまでのものとは違うデザインにしたんですが、これは、この商品の思いに共感してくださった方々からアドバイスもいただきまして。

——活性化センターとの出会い、社員さんの小豆の栽培、アドバイスをくださる方々との関係性……一つの商品から広がりが生まれていますね。

高橋さん
高橋さん
そうですね。パッケージのデザイナーさんとのやりとりというのもケヲハレのときが初めてだったんですが、ものを作ってお客さんに届けるということの背景には、いろんな人たちの心遣いが隠れていることを知りましたね。

「受けて通る」ということ

——このような製造を経て、これから大事にしていきたいことなどはありますか?

高橋さん
高橋さん
これまでの取引先であるお菓子屋さんとは、お互いに引き立て合うことで成り立っています。今の世情から一層強くその事を感じますし、その繋がりはますます大切にしていかなければならないと思います。
 
それと同時に、社会全体が急展開している時期ですので、ケヲハレのような自立したものも積み上げていかないといけないとも思っています。

——世界中がこういった危機的な状況に立たされたことで、それぞれにとっての「大事なこと」がはっきりしてきたようにも思えます。ケヲハレの考え方のように、日々の暮らしや四季の変化を感じることを大事にする方も増えてくるのではないでしょうか?

高橋さん
高橋さん
今日こうして取材をしていただく約束だって実現するかもわからない、ということを実感しましたよね。次の日を迎えられること自体が奇跡であって、だからこそ、その日一日を大切に暮らしていきたいと思うんですよね。

さらに言うと、「大切に暮らす」というのは、「受けて通る」ということだと私は思うんですよね。

——受けて通る?

高橋さん
高橋さん
はい。日々暮らしていると、いいこともあるし悪いこともある。それは避けられないことなんですよね。それでも私たちはその中に暮らしているんですよ。

だから、雨が降ったら傘を差す、暑くなったら服を脱ぐ……そうやって、自分に起こったことを受け止めて、その現実を上手に自分のものにしていくことが大事で、そうしていくことが、日々の豊かさに繋がっていくのだと思っています。

【かどや食品工業株式会社】
〈住所〉仙北市角館町小勝田下村21
〈TEL〉0187-54-2078
〈HP〉https://peraichi.com/landing_pages/view/kakunodatekadoya

【「ケヲハレ」「かくのだて大納言甘納豆」取扱店一覧】
(湯沢市)インテリアショップ&カフェ momotose
(秋田市)blank+
(大仙市)和装はきもの・小物 加藤
(仙北市)アート&クラフト 香月

その他、商品取り扱い店については、かどや食品工業株式会社までお問い合わせ下さい。 


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