秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希

宇宙の対極にみつけた、守りたいもの。
ノンアルコール飲料「KOJI CLEAR」誕生。

2021.06.09

米、こうじ、水を原料とした飲み物といえば「日本酒」や「甘酒」が代表的ですが、このたび、これらと同じ原材料からなる新しいノンアルコール飲料が誕生しました。

その名は「KOJI CLEARコージクリア」。この開発は、糀を使った飲料としてのチャレンジだけでなく、秋田の農業や酒造りの課題へのチャレンジでもあるとのこと。
そして、この着想を得たのは、なんと「宇宙のことを考えていたから」といいます。いったいどういうことなのでしょう?

KOJI CLEARの開発を手掛けた、株式会社Esエス秋元衆平あきもとしゅうへいさんにお話を伺っていきます。

東京と秋田を行き来しながらKOJI CLEARを開発してきた秋元さん。ご実家である大仙市「アキモト酒店」にお邪魔しました。

酒屋の息子が作る、ノンアル飲料?

——このたび完成した「KOJI CLEAR」、どんな飲み物なんでしょうか?

秋元さん
秋元さん
KOJI CLEARは、糀で造った新しい発酵飲料です。原材料の糀に、秋田県オリジナルの「あめこうじ」と、焼酎などにも使われる「白糀」の2種を使用しています。
現在、クラウドファンディングで応援購入を募っていて、一般発売は今年8月くらいを目指しています。
米は秋田県産の酒米(酒こまち、美山錦)、水はアキモト酒店にも近い酒蔵「出羽鶴酒造」の仕込み水を使用している。(写真はサンプル品)

——実際、どんな味わいなんでしょうか?

秋元さん
秋元さん
試飲をされた方の反応は様々ですが、個人的には果実系のジュースに近くて、その奥に米や糀の香りも感じます。

糀を使ったノンアルコールの飲み物というと甘酒がイメージされると思うんですが、あめこうじを使うことでさっぱりして、甘酒のような甘さは残らない。そして、白糀由来のクエン酸による酸味をより強めにしているので、甘酒が苦手な方でも「これなら飲める」という方が多いですね。

——甘酒と違って透明、まさに「CLEAR」ですね。どんなシーンで飲むイメージをされていますか?

秋元さん
秋元さん
一番は朝。甘酒もそうなんですが、脳のエネルギー源になるブドウ糖がしっかり入っているんですね。なので、朝、ちょっと眠たいなというときに飲んでいただくと目が覚めやすくなる。フルーティーな風味も朝に取り入れるのにおすすめですね。

それから、お酒と割っても美味しいんですよ。とくに、ウォッカやジンのような蒸留系のお酒はクセがないので、風味も引き立つんです。

——秋元さんのご実家は酒屋さん。お酒を造るのではなく、ノンアルコールの飲料を造られたというのが意外に感じます。

秋元さん
秋元さん
それには2つ理由があって、一つは僕自身がそんなにお酒を飲めないんですよ。

——そうなんですか?!

秋元さん
秋元さん
実は父親もなんですが、飲み会に行ってもビール1杯で「もう大丈夫です」っていうくらい。

——こんなにたくさんのお酒を扱っているのに?!

秋元さん
秋元さん
はい(笑)。日本酒においては飲むとその日じゅうに頭が痛くなってしまうほどで、そんなにアルコールが得意じゃないからこそ、ノンアルにしたいという思いはありました。

——なるほど。

秋元さん
秋元さん
もう一つの理由としては、いま、世界的にみて、アルコールを飲まないという人たちが増えてきているんですよ。日本ではアルコールの製造量、販売量がだんだんと落ち込んできていますが、それは世界も一緒で、若い人たちほど、アルコールを敢えて飲まなくなってきている。

——それはどういうところからなんでしょう?

秋元さん
秋元さん
アルコールが体に負荷をかけることへの意識が広がってきているんですね。一方で、ソフトドリンクの市場はすごく伸びてきていて、年間で4.7%くらい成長してきている。

最近はアキモト酒店でも世界のノンアルコール飲料を集めて食事とのペアリングを提案したりもしているんですよ。
秋元さんのお父さんから海外のノンアルコールドリンクを試飲させていただく。ブドウ果汁のほかに、梨や昆布、チャイ、オリーブなどが使われており、とても奥深い味わい。

——ノンアルコールの飲料に、糀を使おうと思ったのはなぜなんでしょうか?

秋元さん
秋元さん
僕は大学卒業後はPR会社に勤めていたんですが、最初に携わったのがエナジードリンクの仕事で。それは体が元気になるというのが売りの飲料なんですが、関わりながらも、人工的なものではなくて、自然な原料で元気になれて、美味しくて、カクテルにもできる……そういう、いろんな使い方ができる飲み物を作れないかなと思っていたんです。
秋元さん
秋元さん
一方、「元気になる飲み物」という意味では甘酒も好きなんですが、甘酒はガッツリ甘いし、どういうシーンで飲んでいいかわからない。なので、そういった課題を解決するような糀を使った飲み物ができたら面白いんじゃないかと思ったんですね。

そして、アキモト酒店で親が培ってきたネットワークを生かしながら自分がより発展させていけるようなもの、地元にも貢献できるものができないかと考えたとき「糀、いいんじゃない?」と思ったんです。

宇宙の対極にみつけたもの

——これまではPRの仕事をされていたんですか?

秋元さん
秋元さん
東京の大学を卒業後、1年間イギリスに留学して、日本に帰ってきて勤めたのがPRエージェンシーでした。企業のPR、広報、マーケティングをお手伝いするような会社です。
そこに7年ほど勤めたあと、事業会社の広報を経て、今はispeceアイスペースという月面開発の会社に所属しています。

——宇宙のことに関わられている?

秋元さん
秋元さん
はい。「将来、月に行くぞ!」ということをやっている会社の広報を担当しています。

——商品開発と並行して広報の仕事もされているんですね。

秋元さん
秋元さん
宇宙のことをやっていると、先、先、先と考えたり、「人類の未来のために」という、すごく壮大なことを考えたりするんですよね。
そのなかで、月に行くとか火星に行くとか、新しい選択肢を作ることは大事だけれど、同時に「今あるものを残さなければ」とも思うようになっていったんです。
秋元さん
秋元さん
僕の子どもが今、小学校3年生なんですが、20年後、その子に職業の選択の時期が来たときに「宇宙飛行士」「宇宙に関わる仕事」というようなものがあってもいいんですが、「農業」「酒造り」というような今まで当たり前にあったものも、選択肢として同時に残してあげないともったいないなと思ったんですね。

——宇宙を考える延長で、そこへ辿り着いた。

秋元さん
秋元さん
宇宙のほうに振り切ったからこそ、揺り戻ってきた、というところはありますね。
月のことを考えると、月の位置から地球を俯瞰して見るような気持ちになるんですよ。
月の水資源は36億トンあると言われていて、それは猪苗代湖ぐらいらしいんですが、そのくらい少ない。ひるがえって、地球を見たときに、めちゃくちゃ資源が豊かで、そんな星って、太陽系のなかでも他に存在しないんですよね。それって貴重なんじゃないかと。
秋元さん
秋元さん
それに、発酵も面白いんですよ。発酵というのは人類の歴史を紐解いていくと、食糧をどう保存して食い繋いでいくかという人間のサバイバル術だったんですよね。秋田もそうですが、世界でみるとノルウェーとか北極圏など、環境が厳しい土地であるほどに発酵の技術や文化が豊かなんですよね。

将来、宇宙に人間が出ていくようになったら、宇宙には資源が少ないので同じように厳しい状況になるんですよ。そのときに、発酵の技術は結構マッチするんじゃないかなって思うんですよね。しかもそれが、日本特有の糀でできたらさらに面白いですよね。

酒どころにおける、ノンアル飲料

KOJI CLEARは、地元の酒蔵で製造されているというのも魅力の一つ。共同開発した、秋田清酒株式会社代表の伊藤洋平さんにもお話を伺います。

伊藤さん
伊藤さん
うちはノンアルコールの飲料として、もともと甘酒は作っていたんですが、共同開発の相談を受けたのは去年。ちょうどコロナが流行して、アルコールの消費がダウンしてきて、ノンアル飲料をあらためて意識していた時期でした。

KOJI CLEARは、米、水、糀という、秋田にもともとあるものによる新しい切り口の商品。日本酒というのは、飲んだ時にアルコール由来の風味というのを当然感じるんですが、この商品はアルコールの風味がない分、素材本来の味を楽しめるかもしれませんね。
秋田清酒の蔵で。この奥にある糀室でKOJI CLEARの白糀が作られた。

——アルコールのあるなしに関わらず、飲み物としての楽しみの振り幅が広がるのは魅力的ですね。ただ、お酒が大好きな秋田県民にこの文化が根付くものなのか、ちょっと心配にも感じます。

伊藤さん
伊藤さん
酒好きの秋田県民はアルコール飲料、ノンアルコール飲料の2択になった場合「アルコールを飲まないと損した気持ちになる」と思うところもあるかもしれませんね。
秋元さん
秋元さん
お酒が好きな方はそんなふうに思うんですね。めちゃくちゃ参考になります。

——秋田の飲み会では、お酒が飲めない人は肩身が狭い思いをすることがあるとも聞きますよね。

秋元さん
秋元さん
じつはクラウドファンディングでの購買層というのが、7割くらいが首都圏の方なんですよ。

——7割も!? 秋元さんの地元の知り合いが多いのかと思っていました。

秋元さん
秋元さん
秋田は3割くらいで、思ったよりも少なかったんですよね。そういう意味でいうと、秋田県の人はノンアルの文化にチェンジするのに時間がかかるというのはあるかもしれません。

でも、若い世代ほど、飲み会の文化が薄れていっているし、「飲ませられる」みたいなことも嫌がるし、自分たちが楽になるように流れていくと思うので、ノンアルの需要は自然と増えていくと思いますよ。

——アルコールの需要が少なくなっても、ノンアルコールの需要が増えれば、酒蔵としても未来を感じられそうですね。

秋元さん
秋元さん
この事業をやり続けることで、農家が米を作って、酒蔵が酒を醸して、販売店が売るという産業構造も維持しながら、新しいこともできるようになるかもしれない。とてもポテンシャルが高いように思いますね。

——日本酒は、その土地で穫れた米、その土地の水、その蔵の糀……と、その環境ならではの資源を活かして展開いるところが多くなってきていますよね。そんなふうに各蔵がKOJI CLEARを作っていくような未来もあるかもしれませんね。

秋元さん
秋元さん
これをきっかけに「そういうこともできるんだ」「うちだったらこんなことができる」という人たちが出てきてくれると面白くなっていきそうですね。

【KOJI CLEARクラウドファンディングページ(6/25まで)】
https://www.makuake.com/project/kojiclear/